59話 光の中の闇
ヒロムを絶望させようとするペインに対して彼を守り敵を消すとして立ちはだかるゼロ。ゼロの言葉を受けたペインはため息をつくと彼の言葉に対して言及していく。
「消してやる、か。4人がかりでようやく一撃いれれたようなヤツらの1人が何を言うかと思えばハッタリか。策もなく強がりの言葉だけで何とか士気を保とうとしてるならムダだ。オマエの力で本来は干渉出来ぬはずのオレの力の1つに対抗出来るとしてもそこから先はオレには届かない。何故それが分からない」
「オレは案外物分りが悪くてな。それにオマエの言う力云々ってのはアテにならねぇんだよ。実力の差なんざその気になれば戦いの中でどうにでもなる。オレがこの戦いで今より強くなればオマエの思惑も何もかもを覆せるだろうからな」
「どうにでもなるとはずいぶん楽観視するんだな。
オレは分かりやすく現実をハッキリ口にしてやったのに……。少なくともオマエは姫神ヒロムと異なりそれなりに冷静に考えるだけの能力があると思っていたがオレの見込み違いのようだな」
「てめぇの評価なんざどうでもいい。肝心なのはてめぇとオレが戦ってどっちが強いかハッキリするってとこだけだろ」
「……愚かだな」
「愚かだよオレは。オマエが嫌うヒロムの半身だからな!!」
ゼロはペインの言葉に強く返すと闇を強く纏いながら走り出し、ゼロが走り出すとペインは両手を前にかざすとともに蒼い雷と紫色の炎を放つ。
蒼い雷と紫色の炎が放たれるとゼロは闇を強く纏ったままペインの放った攻撃へと突っ込んでいき、2つの力が迫る中でゼロは闇の一部を右手に集めながら爪の形を与えて斬撃を放つようにしてペインの放った2つの力を切り裂いて消滅させる。
敵の攻撃を凌いだゼロは闇を纏ったまま敵に向けて走り、ゼロが走ってくる中でペインは彼の攻撃、彼の力に感心していた。
「葬天と滅天を凌ぐか……」
「ナメてんのか?この程度で死ぬわけねぇって話だよ!!」
「そうか。なら……魔王を消せるか試してみるか?」
蒼い雷と紫色の炎を対処したゼロに対してペインは次なる攻撃を放つべく両手を勢いよく合掌させ、両手が合わさることによって生じた力が炎、氷、雷、風がゼロに向けて放たれる。
放たれた4属性の力を前にしてゼロは走る足を止めることなく放たれた攻撃へと自ら突っ込んでいく。
「考え無しか?」
「そう見えるか?なら聞くが……その攻撃を放つ際にオマエの頭が算出したオレに命中する地点に達する前にオレがそれを超えたらどうなる?」
ゼロは闇を両足……足裏に集中させて地を蹴ると急速に加速して走り、加速しながら走るゼロは飛んでくる4属性の力の間を駆け抜けようとするかのようにそのまま進行していく。
「ヒロムがその攻撃を押し返せたのはオマエの放ったその攻撃が命中する直前でその攻撃が最も効果を最大で発揮出来る前だったからだろ?
何故攻撃命中まで効果を最大で発揮されないのか……それは炎と氷、雷と風の2種の反発する力が邪魔する可能性があるからだ。なら放ってから命中するまで力が反発して消えないのは……干渉しない隙間があるからだろ!!」
ゼロはペインの4属性の攻撃が触れるであろうところまで接近すると両手に灰色の稲妻を纏わせながら手刀で一撃を放ち、放たれた一撃はペインの4属性の攻撃に接触するとその力を発揮される前に爆散させる。
「この攻撃には隙間がある。その隙間が弱点だろ」
「……射程距離を縮めるが故に生まれる弱点を見抜くとは驚いた。だが……その程度で何とか出来た気にならないでもらおうか」
「あん?」
「……これはオマエも防げない。
この輪廻……天獄輪廻はな」
ペインは再び両手を合掌させると力を両手に集め、集めた力を強くさせながら左目を妖しく光らせるペインは勢いよく両手を前に突き出すと攻撃を放った。
蒼い炎、紅い炎、影の刃、雷、闇、氷、黒い雷……7つの属性の力が放たれるとそれらは威力を高めながらゼロに迫っていく。
「7つの力だと!?」
(バカな、ありえない!!魔王とかいう攻撃は2つの反発関係にある力を放つが故に致命的な弱点があったんだぞ!?
それを上回る数の力を放つなんて……)
「ふざけてんな、クソが!!
来い、ディアボロ!!」
ペインの攻撃を前にしてゼロは右手に闇を集めるとボウガンとも言えるような引き金のついた弓、滅弓・《ディアボロ》へと変化させ、変化させた弓に闇を収束させるとゼロはそれを一気に解き放った。
「ぶち壊せ……ディアボロ・ディストピア!!」
ゼロが《ディアボロ》から解き放った闇は数千にも及ぶ闇の矢となりながら飛んでいき、数千にも及ぶ闇の矢はペインの放った攻撃を消し去ろうと次々に襲いかかっていく。
しかし……ペインの放った7つの力の攻撃を消し去るどころかゼロが放った闇の矢は次から次に破壊されてしまい、全ての闇の矢が破壊されるとゼロはペインの攻撃に襲われて全身を飲まれ、大きな爆発が発生するとその姿が確認できなくなってしまう。
「ゼロ!!」
「あのゼロの攻撃が通じないだと……!?」
「……がぁぁぁあ!!」
ゼロの身を案ずるヒロム、ゼロが放った攻撃を敵の攻撃が上回ったことに驚く真助など意に介することもなく爆発の中からゼロが叫ぶと灰色の稲妻が爆発をかき消しながらゼロの姿を外へと出させる。
爆発の中から何とか抜け出したゼロの体はペインの攻撃とほれによる爆発を受けて負傷しているが、そのキズは徐々にではあるが治ろうと再生していた。
「……闇の化身、それ故に再生するか」
「クソが……次はねぇ」
「安心しろ。今はもう放たない。
オマエを倒すのに天獄輪廻を多用するつもりは無い」
「……ナメてんのか」
「結果論だ。オマエの実力に天獄輪廻を使う必要は無いと判断したまで。オマエがオレを超えることは無い」
それに、とペインは左目を妖しく光らせると左手に黒い炎を纏わせ、纏わせた黒い炎に剣の形を与えて手に持つとその切っ先をゼロに向ける。
「斬殺輪廻……久方ぶりに使う力だが、一度見てしまえば対処法を探ってしまえるオマエの息の根を止めるのには最適な力だ」
「黒炎剣ってか……?
距離を取らずに手を下そうってわけか」
「言葉にすれば単純なことだな。だが、目にするものが簡単とは限らんぞ」
ペインの周囲に彼が持つのと同じ黒炎の剣が9本現れ、現れた9本の黒炎の剣は浮遊する。否、浮遊などしていない。ゼロは見えている。ヒロムたちには見えないもの……白と黒が歪に混ざったような体色をした人の形をした9体の得体の知れぬ何かを目視している。
「増えやがったな……カスが」
「オマエの目にはコイツら外道輪廻が見えてるのだろ?
ならば見えていてもオマエの対処出来ない数でオマエの息の根を止めるのが最適解だ」
「はっ……いいね。
別世界のヒロムってのは情け容赦がなくてよ」
でも、とゼロはペインの姿を目にしながら何かを思うと息を軽く吐き、息を吐いたゼロは気持ちを落ち着かせると敵に向けてあることを言った。
「オマエのその力がオレを止めることは無い。オレはまだ終わらない……終われないからな」
「終われない、か。人と精霊のどっちつかずのオマエに始まりも何もないだろ」
「オレはゼロ……たしかに最初から最後まで『0』だ。でも、だからこそオレは見てみたいものがある。破壊しか出来ない……1を0にする方が楽な能力者のいるこの世界で誰よりもその1を守ろうとし、その1を次に繋げようとしているアイツの勇姿を!!」
目的がある、その事を言葉にしてペインに……そして追い詰められている今の自分に聞かせるように言うとゼロは闇と灰色の稲妻を全身に強く纏う。
「見せてやるよペイン……これが、『0』が『1』になる進化の瞬間だ!!」




