58話 名が示すもの
「しまっ……」
「ぶっ飛べ!!」
真助とナギトのアシスト、そしてゼロの放った灰色の稲妻でペインの行動が制限されたことでヒロムの渾身の一撃は敵に命中し、攻撃を受けたペインは大きく吹き飛ばされる。
吹き飛ばされるペインは地を何度も転がるように飛ばされるも即座に立て直して立ち上がってしまう。だが、吹き飛ばされた際の衝撃、それによってペインが深く被っていたフードが外れてしまう。
「そんな……」
フードの下から姿を見せたペインの素顔、それを見たヒロムは……
ただ驚くしか無かった。
ペインと先日遭遇している真助やノアル、エレナたちはペインの素顔はヒロムによく似ていると話していた。だがそれはペインが自分たちを混乱させるために錯覚させたものだとヒロムは結論づけてその話を終わらせた。
いや、ヒロム自身が自分に似ているなどという話を信じたくなかったからそうして終わらせたのだ。
目を背けるように結論を早めたヒロムが今目の前で晒されたペインの素顔を目の当たりにして驚きとともに言葉を奪われ己の目を疑ってしまう。
「そんな……どうして……!?」
「……もう少し後までこれは隠しておきたかったんだがな。まぁ、いい……後に楽しみを取っておくか今終わらせるかの差なら大差はないか」
「どういう事だ……どういう事なんだよ!!」
「真助、オマエがノアルと見たってのは……アイツか?」
「間違えるわけねぇだろゼロ。だからオレたちは報告したんだ。アイツの素顔を……ヒロムにそっくりなあの素顔を!!」
ヒロムが激しく動揺する中で真助は間違いないことを口にし、そしてそれを確認したゼロはペインを冷たい眼差しで見る。
ペインの素顔……それは先日邂逅していた真助やノアルの報告した通りヒロムにそっくりだった。外観的な特徴はいくつか相違点がある。ヒロムと同じ赤い髪の一部は白く変色して右目も白く変色、さらに右目下瞼から頬、首筋にかけてサイバー調とも言えるような黒い痣があり、左目も黒く変色した上に十字架のような白い模様が入っているといった外観的な特徴の違いを除けばペインの顔は間違いなくヒロムと瓜二つだ。
あまりにも信じられない事にヒロムが激しく動揺する中、ペインはヒロムを見ながら彼に言った。
「どうだ、姫神ヒロム。
己が倒そうとした相手が己と同じ顔をしていて何を思った?
1度は否定して考えないようにした事実が目の前に現れて何を感じた?」
「オマエは……誰なんだよ。
何でオレと同じ顔を……」
「理由なんて簡単だろ。オマエの前にいるオレは正真正銘オレだ。オレの名はペインであり、その前の名はオマエもよく知る姫神ヒロムという名前だったからな」
「ふざけるな……何でオマエがオレと同じ名前を名乗って同じ顔してるんだよ!!」
「落ち着けヒロム!!これは《世界王府》がオマエを混乱させるために用意した罠だ!!アイツの顔が似てるのはオマエの……」
「残念だが鬼月真助、オレはクローンなどではない。正真正銘、本物の姫神ヒロムであり姫神ヒロムを超えたペインという存在がオレなんだよ」
「クローンじゃないだと?
嘘言うなよ。この世界に同じ顔をした人間が都合よく何人もいるわけないだろ」
「あぁ、この世界には姫神ヒロムは1人しかいない」
「だったらオマエは一体……この世界にはだと?」
ペインの言葉にヒロムに代わって反論する真助はペインの言葉の違和感に気づくと言葉を詰まらせてしまう。そう、今ペインはこの世界と言った。この世界には姫神ヒロムは1人しかいない、ペインは今そう言った。その1人とは誰を指すのか?
「この世界ってのはヒロムのことか?それともペインと名乗っているオマエのことか?」
確かめなければ、真助は緊張感がある中で真相にたどり着こうとペインに問い、真助に問われたペインは軽く拍手をすると真助……いや、動揺を隠せないヒロムやゼロ、ナギトにも聞こえるように話していく。
「この世界の姫神ヒロムはオマエらが信頼を置いているそこの男だ。ならばオレは誰なのか?そんなのは今の話で分かるはずだ。オレは……この世界とは異なる世界から来た姫神ヒロムだ」
「「!?」」
「別の世界から来たオレ……!?」
「正確にはパラレルワールド、もしくは未来時間にある世界からタイムスリップしたとも言えるがな。まぁ、本来の世界でないなら今更そんな名前を名乗る必要も無いからペインと名乗っているに過ぎない」
「何で別の世界のオレがこの世界に来たんだよ……」
「何故?決まってるだろ。オマエを絶望させるためだ」
「ヒロムを絶望させるためだと?
何のためにだ?」
「現実を理解させると言い換えるべきかもな。そいつは現実をまるで分かっていない。自分の手で多くの人を守っていると錯覚しているがそれが真実だと思うか?」
「現に天才は多くの人を守ってる。これまでの多くの敵からも、今のアンタの攻撃からもヒロムは……」
「なら聞くが少年。今のオレの攻撃、それを何故人々から守っていると断言出来る?」
「そんなの……」
「オマエらは薄々気づいているはずだ。オレの攻撃はその全てが姫神ヒロムに向けて放たれ、鬼月真助やそこの少年については最低限のダメージを与える程度で済ませていることをな。それなのに何故人々を守っていることに関連付け出来る?それこそオマエらが都合よく現実を書き換えてる証拠だ」
「まさか……オマエがここでヒロムと戦ってたのは……」
「そういうことだ鬼月真助。オレの目的は姫神ヒロムを絶望させること、その1つを今ハッキリさせた。姫神ヒロム……オマエが守っていると錯覚しているこれまではオマエという存在がその元凶となって多くを招いているが故に起きたことを尻拭いしているに過ぎないということをな」
「ッ……!!」
ペインの口より明かされる内容、それを前にしてヒロムは返す言葉がなかった。そう、敵のペインの言い分は間違いではない。彼の言う通り彼の攻撃は主にヒロムに向けてのものが多かった。真助に対しては空間転移で遠ざけたりナギトも体術で制した後はあえて追撃しようとしていなかった。
ヒロムの攻撃を防げばそれに対して反撃し、そしてヒロムを倒そうと更なる攻撃を放っていただけ。つまり……
ペインは街も街にいる人も攻撃していない。今この場で混乱が起きて争いが激化しているのはヒロムがいるからというのは間違いでは無いのだ。
その事実を突きつけられたヒロムは反論できず、それを気づいているナギトと真助も何も言えなかった。そんな彼らにペインは冷たく告げる。
「理解したか?オマエらは《センチネル・ガーディアン》に選ばれたそいつの恩恵を受けて敵を倒し守ってるつもりだったようだが事実は違う。その男がいる、その事実が悪を呼び寄せ戦いを生み出している。全ての元凶は《世界王府》でもテロリストでも無い……姫神ヒロム、オマエという力を持つ存在が多くを奪う結果を招いてるんだよ」
「オレが……」
「くだらねぇ」
ペインの言葉にヒロムが言葉を詰まらせてしまうとゼロはどこか鬱陶しそうに言い、そしてヒロムたちの前に出るとペインに向けて言った。
「何を言い出すかと思えば今更なことを。そんなことを話されて何になるんだよ」
「何?」
「悪いけどな、その程度のことは言われなくても指摘されなくても分かりきってんだよ。そういうこじつけのせいでヒロムは一度世間に見放されて悪者にされた経験があるんだからな。それなのに仲良しこよしの友だちごっこみたいなことして馴れ合ってその時の感覚忘れて腑抜けたヒロムが悪いってだけの話だ。今更その程度でヒロムが絶望するわけねぇよ」
「だが絶望させる。そのためにオレは……」
させねぇよ、とゼロはペインに返すと闇を強く纏い、そして闇を纏う中でゼロはペインに告げる。
「オレがいるかぎりヒロムに絶望なんてさせない。ヒロムの闇として……ヒロムの半身としてオレはヒロムの全てを支えると決めたからな」
「世迷言を」
「なんとでも言え。オレは今からオマエという存在そのものを消してやるからな」




