57話 光と闇、希望と絶望
建物の屋上に立つゼロは躊躇うことなく飛び降りるとキレイな着地を決め、着地したゼロはゆっくりとヒロムに歩み寄ると呆れた顔でヒロムに言った。
「情けねぇな、ヒロム。
たかだか1人の能力者相手に2人の手を借りて挑みながら倒せないんてよ」
「……うるせぇ。
倒したくても上手くいかなくて厄介なんだよ」
「倒したくても上手くいかないねぇ。
そんなに悩まされるような相手か?」
「アイツの身体能力を差し引いてもあの目に見えない何かが邪魔してくるから思うように攻撃出来ねぇんだよ」
「目に見えない、か……なるほど」
ヒロムの言い分を聞いたゼロは何かを感じたのか少し考え、少し考えた後にゼロはヒロムに質問した。
「目に見えない何かと表現している辺り気配を感じ取れるんだよな?」
「まぁな。気配を感じ取れるとしてもこっちからは触れられねぇ、そのくせしてアレはオレたちに攻撃出来るんだから厄介でしかない」
「だが何かしらの法則はあるはずだ。現にオマエを殺そうと大剣を持って迫っていたんだしオレの矢は命中した。その点を考えれば接触に関する一定の条件を満たせばオマエでも触れられるってことだろ」
「そうかもしれな……ん?待てゼロ。
オマエ、何でアレが大剣を持ってたとか分かんだよ?」
ゼロの言葉に違和感を感じたヒロムはその違和感についてハッキリさせようとゼロに問い、問われたゼロはヒロムに対して当たり前のように答える。
「そりゃオレは見えてるからだろ」
「なっ……!!」
「おいおい、マジかよ。アレが見えてんのか?」
ゼロの言葉にヒロムが驚いていると話に入るように真助がナギトとともに歩み寄り、真助の言葉にゼロは頷くとヒロムたちには見えていない何かについて話していく。
「オマエらが気配しか感じられないアレをオレは何故か視認できている。そして厳密に言えば今現界してるセラとアリシアも認識できていない上感知出来てない可能性もある。つまり、人間と精霊の両者が揃いも揃ってアレを視認出来ずに一応感知してる状態ってわけだな。まぁ……見えないなら見えないでいいかもな」
「ゼロ、オマエの目には何が見えてるんだ?」
「……黒と白の絵の具をグチャグチャにする瞬間の色が混ざる感じの体色をした人の姿をしたのがいる。オレが矢で倒したのを含めたら全部で3体いる」
「んだよそれ……」
「……ねぇ、天才。
少しいいか」
ゼロの話からペインの力とも言える目に見えず感じ取ることしか出来ない何かを知らされて戸惑うヒロム。そんなヒロムにナギトはある質問をした。
「今思ったんだけど、天才って双子なの?」
「何がだ?」
「だって、ゼロっていうこの人とアンタの顔そっくり過ぎて気になるんだよ」
「あぁ、そうか……まだ話してなかったな。
こいつはゼロ、簡単に言うならオレの心の闇に宿って生まれた存在なんだよ」
ヒロムとゼロの顔が似ている、そのことを気になっていたナギトの質問にヒロムはゼロの存在について話していく。
「半年くらい前にオレは精霊を宿すこの体と力を利用しようとしたある男に闇を植え付けられ、その時に植え付けられた闇の中にあった意思がオレの心の闇と一体化したことで生まれたのがゼロんだ」
「じゃあ人の姿をした精霊ってこと?」
「いや、人でも精霊でもない……闇というのがゼロの存在そのものなんだ。多分だけど……そういう特異な存在だからこそヤツの目に見えない何かを目にすることが出来てるんだと思う」
「ならヒロム、ゼロにそれを任せてオレたち3人で本体を……」
4人でやるぞ、とゼロは真助の言葉にかぶせるように言うと続けてペインについてある話をしていく。
「少しだけ観察してたがオマエらが見えてないアレと本体の攻撃は連動していない。本体のあの男が攻撃する時はアレは待機し、アレが攻撃する時あの男は追撃しようとしない。デメリットがあると考えるべきだが……何より考えるべきはアレがまだ潜んでる場合にオレがあの男から離れてしまえば視認出来ないオマエら3人が狙われる確率が上がる」
「ならどうする?オマエからの攻撃は何とか当たるとして、オレたちには手出し出来ないんだぞ」
「オレの攻撃は命中した、そこに何かヒントがあるはずだ。単にオレの存在そのものが関係してるが故の偶然の結果なのかあの得体の知れないアレの特性上オレの矢は命中するのか……前者後者どっちにしても真助の言う通りアレの攻略はオレ以外に対処できるか否かで大きく左右される」
「……なぁ、ゼロ」
ペインが使役するゼロにしか見えぬ何かを攻略せねばペインは倒せないと語るゼロにヒロムはある質問をした。
「さっきのあの矢、気に止めてなかったからこそ教えて欲しいんだがアレを攻撃した矢は闇か?それともあの力か?」
「あの力だ。あの力はそれなりに……まさか、そういうことか?」
「原理はわからん。けどオマエの攻撃とオレたちの当たらない攻撃との違いを考えた時に思い当たるのはそれしか出ないんだ。ゼロのあの力が攻略のカギになるなら一かバチかで試すしかない」
「試すしかない、か。まぁ、それもそうだな。
このまま考え続けるよりは試してどうなるかを見る他ないな」
「そういうことだ。真助とナギトはオレの援護を。ゼロは自分の判断に任せる」
ヒロムはペインが操るゼロにしか見えない何かを攻略する糸口を見つけるとゼロたちに指示を出して走り出し、真助とナギトはヒロムを援護すべく走り出す。
3人が走り出すのを見届けるように立つゼロが動かぬ中でペインは多少なりとも彼を警戒しながらもヒロムを迎え撃とうとする。
「偶然に助けられた身でありながら死にに来るとはな。その愚かさを思い知らせてやろう」
ペインはヒロムの方を見るとフードの下で何かを怪しく光らせてヒロムの動きを封じようとする……が、ペインのフードの下で何かが光る瞬間に真助は黒い雷を強く纏いながら加速してヒロムの前に出ることでペインの力をその身に受け止めてヒロムの代わりに動きを封じられてしまう。
「何!?」
「悪いな……オマエの思い通りにはさせねぇ。
ヒロムが突破口を見出してるのならオレがやるべきことはそのアシストだからな」
「コイツ……自らを犠牲にして守ったというのか!?」
「……いけ、ヒロム!!」
任せろ、とヒロムは真助の言葉に応えるように言うとペインの背後に現れ、現れると同時に白銀の稲妻を拳に纏わせて一撃を放とうとする。
だがペインはそれを防……ごうとするが、ペインが動こうとするとナギトが加速しながら迫ってくると右足に魔力と風を纏わせた蹴りを放ってくる。
「ゼロ距離シュート……!!」
「……ッ!!
小癪な!!」
ヒロムの一撃が迫る中でペインが言葉を発すると蹴りを放つナギトの一撃が命中せずに終わり、何かがナギトを吹き飛ばしてしまう。
吹き飛ばされたナギトが倒れるとペインは振り向くと同時にヒロムを手刀で攻撃する……が、手刀の一撃を受けたヒロムは光となって散ってしまう。
「なっ……」
「ここだ!!」
光となってヒロムが散ってしまったことにペインが驚いているとヒロムは白銀の稲妻を右手に強く纏いながら加速状態を維持しながら懐へと入り込んできて一撃を叩き込もうとする。
何とかして止めようとするペイン、そのペインが何かをしようとしたその時ゼロは灰色の稲妻を強く撃ち放ってペインな周囲で炸裂させると何かを吹き飛ばしてしまう。
「しまっ……」
「ぶっ飛べ!!」
真助とナギトのアシスト、そしてゼロの放った灰色の稲妻でペインの行動が制限されたことでヒロムの渾身の一撃は敵に命中し、攻撃を受けたペインは大きく吹き飛ばされる。
吹き飛ばされるペインは地を何度も転がるように飛ばされるも即座に立て直して立ち上がってしまう。だが、吹き飛ばされた際の衝撃、それによってペインが深く被っていたフードが外れてしまう。
「そんな……」
フードの下から姿を見せたペインの素顔、それを見たヒロムは……




