55話 痛みの否定
「痛み?そんなもん知るか!!」
街の人々が混乱して逃げ逃げ乱れる中、ヒロムはペインを倒すべく走り出すと白銀の稲妻を強く纏いながら接近していき、ペインに接近するとヒロムは拳に力を溜めて拳撃を叩き込もうとする。
しかし、ヒロムが拳撃を叩き込もうと一撃を放つとペインは空間を歪めながらヒロムの前から消え、ヒロムの攻撃が空振りで終わるとペインはヒロムの背後に現れて彼に蹴りを食らわせる。
「!?」
「時界輪廻、オマエには使えない空間転移の力だ」
「……解説どうも!!」
蹴りを受けたヒロムは強く言いながら白銀の稲妻を纏わせた蹴りをカウンターで返そうとするが、ペインの深く被るフードの下で何かが怪しく光るとヒロムの全ての動きが止められてしまう。
「……!?」
「これが万天輪廻。オマエ如きでは手に出来ぬ全てを支配する力だ」
「この力……この力で真助とノアルを……」
「あの2人の実力を試すためにこの力を使っただけだが、オマエも同じだと思うな」
ペインが指を鳴らすと動きを封じられたヒロムに何かが迫り、そしてヒロムは全身に衝撃のようなものを受けて吹き飛ばされてしまう。
「!?」
「止められるなら止めてみろ」
吹き飛ばされたヒロムが受け身を取るとペインは右手を前に出し、ペインが右手を前に出すとヒロムは何かを感じ取ると慌てて後ろに飛ぶ。ヒロムが慌てて後ろに飛ぶとヒロムがいた地点に何かが着弾したかのように地面に削れ、地面が削れると同時にヒロムは白銀の稲妻を何も無い所へ撃ち放つ。
撃ち放たれた白銀の稲妻、だが何も無い所へ撃たれたそれは何かに当たるでもなくどこかに飛んでいく。
が、どこかに飛んでいく白銀の稲妻を見てヒロムは何かを感じたような顔を見せる。
「どうなってやがる……!?」
「その反応、さすがは《覇王》の名を与えられた能力者というだけの事はあるようだな。ならその名に違わぬ力を見せてみろ」
ペインが言うとヒロムは構えると同時に周囲に白銀の稲妻を解き放ちながら走り出し、何かから逃れるような回避行動を取りながらペインへと迫るとヒロムは拳に力を纏わせて攻撃に入ろうとした……が、ヒロムは何故か足を止めて右へと急いで飛んでやめてしまう。
その時、ヒロムが右へと飛んだと同時にまた何かが地面を抉り、地面が抉られるとヒロムはそこに向けて稲妻を放つ。が、放たれた稲妻はただ地面を傷つけるだけで終わり、その様子を見たヒロムは何が起きてるのかを考え始める。
「どうなってる……?」
(オレの視界には何もない、けど気配は何かがそこにあると感じ取れる。何かがいるって証拠にその何かはオレを攻撃しようとして来てオレが避ければ地を抉るのが確認できてる。なのにこちらからの攻撃は一切通用しない)
「命中してる感覚もねぇし……何かしらの攻略法があるのなら、それを見つけるしかないか」
ヒロムは白銀の稲妻を強く纏うと拳を構えてペインへと迫ろうとし、迫ってこようとするヒロムを見てペインが何かアクションを起こそうとするとヒロムは白銀の稲妻を地に強く打ちつけて戦塵を巻き起こして周囲の視界を悪化させる。
「ほぅ……目眩しか。だが無意味だ」
ペインが自身のすぐそばの空間を歪めるとヒロムが巻き起こした戦塵全てを綺麗に吸い込んで消し去り、ペインは目眩しの戦塵を消してヒロムを潰そうとする。
だが……戦塵が消えたことでペインの前に現れたのはペインの方へと向かって走ってくる街の人々だった。突然のことによる混乱によるものなのか人々はペインへと向かっていくことなどお構い無しに走っており、そしてペインも同じように街の人々へ関心が無いのか手を出そうとすらしない。
いや、ペインは見抜いている。
「……くだらん小細工を。混乱している人間がわざわざ混乱を生み出す原因に向かってくるなどありえないのだが……心理とやらを読み解くことは不得手か?」
「あら、それは早まりすぎじゃないかしら?」
どこからか声がし、その声が聞こえてくるとペインへと向かって走る人々の体が霧となって変化していき中から鎖のようなものを放ってペインの体を拘束させていく。
ペインが鎖のようなものに拘束させていく中、霧が1ヶ所に集まって人の形を形成していき、人の形を得た霧は黒の髪にところどころ赤のメッシュが入った紫色の瞳を持つ可愛らしい黒いミニスカのドレスを着た少女へと変化する。
「……精霊か」
「ご名答、幻術使いのセラって覚えておいて。
それと……この子のこともね」
セラが指を鳴らすと何も無いところから突然長い金色の髪に王冠を思わせる髪飾りをつけた赤いドレスの少女が現れ、現れた少女は杖を振ると無数の光弾をペインに向けて放つ。
「アリシア、マスターのために尽力します!!」
少女・アリシアの放った光弾は回転を加えながら敵を撃とうとペインへと迫っていく……が、ペインへと光弾が迫る中何かが光弾を弾いてペインを守ってしまう。さらにペインを拘束する鎖のようなものが何かに破壊され、自由を取り戻したペインはセラとアリシアを……いや、2人の奥にある何かを見ながら話し始める。
「己の力で対処出来ぬなら精霊で試みる発想は見事だ。だが、どれだけ精霊の力を束ねてもオマエ個人に劣る精霊ではオレには及ばないぞ」
「親切にどうも」
ペインがヒロムに向けて語っているとヒロムは白銀の稲妻を強く纏いながらペインの背後に現れ、ヒロムはペインが気づくよりも先に一撃を放つと敵を倒そう……とするが、ペインは振り返ることも無く動こうとせず、ヒロムの拳は命中しようとする瞬間に何かに止められてしまう。
「なっ……」
(体の自由はある……ってことは目に見えない何かに止められた!!)
「……理解した。目眩しの後の精霊の幻術で撹乱しつつもう1体の力でオレの気を前方に向けさせ、背後からの攻撃で仕留めようとしたわけか」
「ご親切に解説までしてくれるとはな。どうせなら一撃受けて吹き飛んでくれてもよかったんだぞ」
「その程度の攻撃を受けるとでも思ったか?生憎だがオレはオマエの力を凌駕している」
ヒロムの言葉に対してペインは軽く返すと振り向くと同時に蹴りを放ち、ヒロムは1度拳を引くとペインの蹴りを受け流して反撃に転じようとする。が、ヒロムが反撃に転じようとするとペインは空間を歪めながら一瞬で消え、流れるようにヒロムの背後へと移動してヒロムに蹴りを放つ。
だがヒロムも負けてはいない。ペインが背後へと移動したことを察知するとまたしても蹴りを避け、蹴りを避けたヒロムは白銀の稲妻を纏わせた蹴りを放って今度こそペインを蹴り飛ばそうとする……が、ヒロムが蹴りを放とうとすると何かがヒロムに襲いかかり、何かに襲われたヒロムは勢いよく吹き飛ばされてしまう。
吹き飛ばされたヒロムは何とかして受け身を取るとペインの次なる動きに備えようとするが、次に備えようとしたタイミングで何かがヒロムに接近してくる。
「くっ……」
(速い、間に合わな……)
「ドラァ!!」
何かが迫ってくる、それを避けようにも間に合わないとヒロムが追い詰められていると叫び声とともに黒い雷が飛んできてヒロムの前を横切っていく。黒い雷が飛んでいくとヒロムは飛んできた方を向き、その先に真助とナギトがいた。
「オマエら……」
「いいタイミングだったか?」
「やっほ、天才」
ヒロムが驚いていると真助とナギトは彼に歩み寄り、真助は黒い雷を右手に集めながらペインに視線を向ける。ペインを見る真助はヒロムに何かがいることを確かめようとする。
「……何かいるのは分かんだが見えねぇんだ。
オマエは見えるか?」
「いや、見えねぇよ。何かがいるってのは真助と同じで感じ取れるけどこっちからは触れられねぇんだ」
「なるほど。だからオレの攻撃が当たった感覚がなかったんだな」
「でも天才なら打開策あるんだろ?」
「それは……」
ない、とペインはナギトの質問に答えようとするヒロムの言葉を遮るように言うと殺気を放ちながらヒロムたちに告げる。
「オマエらの信頼するその男には何も出来ずにオレに負ける。その身を持って思い知れ……オマエらの希望は薄っぺらい愚かなものだということをな」




