54話 奇襲介入
ナギトの特訓はあれから日が明けるまで続き、休憩を挟みながらも第2レッスンと言われる特訓を最後までやり遂げたナギトはその疲労からヒロムの屋敷の空き部屋を借りて寝ていた。
そんな彼を咲姫サクラに任せるとヒロムはソラとノアルと共に学校に向けて歩いていた。1人だけ通う学校が違うノアルは途中までという形で歩いており、ノアルは歩く中でヒロムにナギトのことを尋ねた。
「ナギトの特訓は順調なのか?」
「それなりに、かな」
「何か問題があるのか?」
「強いて言うなら第2レッスン全7戦においてアイツは辛うじてクリアできるような状態だった。第3レッスンを始めるにももう少し余裕がないと難しいところがあるが、だからといってあえて第3レッスンをこなせるだけのレベルに達するように第2レッスンをやり直させるのも面倒だと思ってな」
「やり直させるって……何時間も戦わせたのに残酷すぎないか?」
「だから面倒って言ったろ。特訓の選択肢を間違えてナギトに違う道を勧めてみろ、アイツは強くなろうとしてるのにそれを終わらせるのと同じになる。やるからにはアイツを確実に強くしてやりたい」
「責任感ってやつか?」
「そうだな。アイツはオレを信じてやってくれてるからそれを裏切りたくないって思いはある」
ナギトの特訓に対して真面目に考えるヒロム。ヒロムが考える中、ソラはナギトに関してある事をヒロムに質問した。
「ところでヒロム。ナギトのパワー不足を解決するための方法は何か考えてあるのか?第2レッスンとやらの全7戦の感じだとナギトの動きを改善させたりとかしかしてないように見えたんだが……」
「そこは第3レッスンだ。第3レッスンでそこを改善させて能力者として飛躍させるつもりだ」
「んだよ、それなりに考えがあるのか」
「当たり前だろ」
「朝から何の話だ?」
ナギトのことをヒロムとソラが話しているとそこへガイがやってくる。やってきたガイに軽く会釈をしておはようという意思を伝えるとヒロムはガイに何を話していたのかを話していく。
「ナギトの特訓の件だよ。次に進むかここからどうするかを悩んでたんだよ」
「難航してるんだな。例の第2レッスンの成果は?」
「それなりって感じだ。そこいらのザコ賞金首程度なら仕留められるだろうってところだ」
「ふーん、何やかんやで進展はしてるみたいで安心したよ」
「安心できるか。《世界王府》の動きが活発になりつつあるせいでそこいらでテロリストや賞金首まで感化されて暴れられたら……」
ガイの言葉にヒロムが反論しようとすると突然彼らの目付きが真剣になり、ヒロムは言葉の途中で言おうとしたことを止めると何かを感じとって視線を前に向ける。
ヒロムが視線を向けた先では闇が何も無いところから溢れ出るように現れ、闇の中からビーストが姿を現す。東雲アザナ、その名で呼ぶことも出来るノアルの兄の出現を前にしてヒロムたちは敵意を向ける。
「東雲アザナ……いや、ビーストって呼んだ方がいいか?」
「そうだな。その方がいい。
そんな愚か者と同じ名を名乗り呼ばれるなんて反吐が出るからな。それに……捨てた名に拘りを持つなど今のオレには不要な感情だ!!」
ヒロムの言葉を受けながらビーストは指を鳴らすと次々にクリーチャーを出現させてヒロムたちを始末する用意を進め、ビーストがクリーチャーを出現させるとノアルはヒロムに申し出た。
「ヒロム、兄さんを……あの男をオレに任せてくれないか?」
「ノアル、やれるのか?」
「やるしかない。今のあの男の力に対抗できるのは同じ《魔人》の力を持つオレだけだ」
ならオレもだろ、とビーストの相手を引き受けようと申し出たノアルに向けてソラは言うと紅い拳銃・《ヒート・マグナム》を炎とともに出現させて手に持つとビーストを見ながらノアルに言った。
「オレも半端とはいえ《魔人》の力を宿す身だ。だからこそオレはアイツを否定したい。魔人の世界とかふざけたこと言ってるようなクソ野郎を人の未来を信じてるオレらで倒して分からせてやろうぜ」
「……そうだなソラ。力に溺れても何も無い、その事を思い知らせてやろう」
ソラの言葉にノアルは賛同するとともにビーストを倒すべく右腕を闇と青色の雷で魔人化させ、鋭い爪と硬質な盾のような装甲を得たノアルとソラが構えるとヒロムとガイと構えようとした。すると音を立てることなくビーストのそばの空間が歪み始め、歪んだ空間の中から黒いフードを深く被った男が現れる。
「アイツか……ノアル」
「あぁ、アイツがペインだ」
空間の歪みから現れた謎の男・ペインの登場にヒロムはやる気を見せるかのように首を鳴らし、ヒロムに続くようにガイが刀を抜刀するとヒロムはペインに向けて問う。
「よぉ、フード野郎。初めて見るヤツだが《世界王府》の新入りか?」
「……新入り、か。テロリストを相手に学生気分の抜けない質問とは余裕の表れか?」
「余裕云々は関係ねぇよ。オマエは世界を敵に回したテロリスト、それを潰すのに余裕もクソもねぇ。やるからには……確実に仕留めるって話だ」
「ヒロムの言う通りだ。オマエたちは世界を混乱させる悪の種、それを摘み取らなきゃオレたちに安息はない」
「悪の種、安息……言葉選びが面白いな、雨月ガイ。
だがそれを口にしてもにも変わらない。今のこの世界は……痛みを知らぬ堕落した世界だからな」
「そういうのは好きなだけ……口にしてろ!!」
ペインの言葉に向けてヒロムは冷たく言い返すと走り出し、ヒロムが走り出すとガイたちも一斉に走り出し……たが、ガイたちが動き出すタイミングでペインが右手をヒロムに向けてかざす。
ペインの右手がかざされると何の前触れも無くヒロムは何かによって勢いよく吹き飛ばされ、吹き飛ばされたヒロムは勢いそのままにどこかに飛んでいく。
「ヒロ……」
「オレが興味があるのはアレだけだ」
ヒロムのことを心配しようとガイが止まろうとするとペインは空間を歪めながら消え、ペインが消えるとクリーチャーがガイたち3人に襲いかかろうとする。
「ちっ……ソラ、ノアル!!コイツらを潰してヒロムを助けに向かうぞ!!」
******
街
朝ということもあり通勤、通学をする人で混雑していた。何も無いような当たり前のような平凡な日々を過ごすかのように動く人々。
そんな人々のすぐ近くにある建物へと勢いよくヒロムが飛んできて叩きつけられる。
「がっ……!!」
突然のことに人々がパニックに陥り、混乱が広がっていく中でヒロムは何とかして体勢を整え、ヒロムが立て直すと空間を歪めながらペインが姿を現す。
姿を現したペインを睨むような眼差しを向けながらヒロムは唾を吐き捨てると拳を強く握り、敵に向けて構えて何時でも動けるように用意する。
「この野郎……ふざけたことしてくれるな」
「……見ろ、姫神ヒロム。この惨状を」
「あ?」
「当たり前のように毎日を過ごしているだけの人間が我は助かろうと逃げ狂い混乱を増長させる愚かな光景、この光景を前にしてもオマエはまだ何かのために戦おうとするか?」
「……別に他人がどう生きようと勝手だろ。オレからすれば当たり前のようにテロリストとして息して命を駆動させてるオマエたちの方が異常で意味分かんねぇ存在なんだよ」
「そうか……それならば、オマエに教えてやろう。
絶望の先にある最悪の痛みをな」




