50話 痛みのない教訓
ヒロムたちが通う姫城学園でナギトと戦野賢一が一戦交えていた頃……
東雲ノアルが通う彩蓮学園。ノアルと愛神エレナと美神ユキナ、朱神アキナは学校を出ると帰宅しようと歩いていた。
ノアルたちが歩く中、ノアルが宿す幼い仔竜のガウとバウは散歩でも楽しむようにノアルたちの前を歩いていた。
「ガゥガゥ」
「バゥ〜」
2匹とも幼さ故なのか目に映るものに好奇心を向けながら楽しそうに歩いており、そんな2匹の様子をユキナはどこか見とれるように眺めていた。
「もう……可愛すぎるわ」
「可愛いですね。2人とも仲が良くていいですよね」
ユキナに賛同するようにエレナも微笑みながら言い、アキナはガウとバウを見ながらノアルに質問した。
「ねぇ、ノアルはこの子たちの言葉分かるの?」
「いや、オレは何となくというかそれっぽく理解してるだけだよ。細かいところまで把握するにはヒロムがいないと無理だ」
「何となくなの?」
「あれかこれかって確かめながら理解する感じだよ。
ガウもバウもオレが理解出来てなかったらちゃんと伝えたいことを伝えようとしてくれるからそれに助けられてる感じだしな」
「ふーん……何だか大変そうね」
「大変かどうかは分からないが楽しいよ。ガウとバウはオレの家族だし、コイツらが楽しそうにしているのを見るとオレも落ち着く」
「そうなんだ」
「んだよ、和やかに女と歩いてんじゃねぇか」
ノアルとアキナが話をしているとその様子を面白おかしく弄るように言いながら真助が現れ、現れた真助が何故ここにいるのか気になったノアルは彼にそれについて尋ねた。
「何かあったのか?」
「何かあったのか、じゃねぇんだがな。
ついこの間テロリストに成り下がった実の兄にボコボコにされたオマエがまた狙われないか危惧して様子見に来たのによ」
「……なるほど。
敵の出現を警戒して手薄と言っても過言ではないオレのところに着たのか」
「そう思いたきゃそう思え」
「ていうか真助、アンタ学校は?」
「そういえばアンタって学校行かなくて大丈夫なの?」
ノアルと話す真助を見るなり疑問を抱いたアキナは彼に問い、同じように疑問を抱いたであろうユキナも彼に質問をする。
2人が言う通り、真助は学校帰りとは思えぬ姿をしている。サボりなのか、そもそも学校すら行っていないのか……彼女たちはそこが気になったのだ。
2人が疑問を抱く中、何言い出すんだと言わんばかりの顔で真助は堂々と答えた。
「行く必要ねぇのに行くわけねぇだろ」
「えぇ……」
「まぁ、義務教育じゃないから間違いじゃないけど……」
「真助さん、今後のために通われないのですか?」
「お生憎様、机に向き合うのは性にあわない。力で捩じ伏せて相手を黙らせる、そんな戦いの中にしかオレの安らぎはねぇんだよ」
「安らぎとか言いながら捩じ伏せてとか物騒すぎるわよ」
「んだよ赤毛のお嬢様。ヒロムに構ってもらえないからって冷たいねぇ」
「ちょっと!?人が気にしてることをハッキリ言わないでよ!!」
「気にしてんのかよ。つうかオマエほどの美人が性格で多少残念なのはもったいないと思……」
真助の言葉にアキナが強く反論し、そのアキナの性格に難があると真助が言おうとすると真助とノアルは何かを感じ取って突然構える。
何かある、2人が構えたことでエレナたちはそれを察し、ガウとバウも何かに気づいたのか慌てて走るとエレナたちのもとへ駆け寄っていく。
エレナたちを守るように構えるノアルと真助、その2人の前方離れた位置の空間が大きく歪み始め、空間の歪みの中から人が現れる。
黒いフードを深く被った黒いコートの謎の男、素顔がフードのせいでハッキリ見えないためノアルと真助は敵と判断して警戒し、現れた謎の男が出てきた空間の歪みが消えると男はノアルと真助を見ながらため息をつく。
「……ふん、期待はずれだな」
「あん?」
「どういう意味だ?」
「言葉通りの意味だ。オマエたちはオレの想定を超えることも無い凡の能力者ということだ」
「凡だと?どこの誰か知らねぇが……」
謎の男の言葉に少し苛立つ真助は黒い雷を右手に纏わせると黒い雷を妖刀《狂鬼》に変化させて握ると走り出して謎の男を斬ろうとする。
「オレたちを知りもしねぇのに偉そうに言うな!!」
真助は妖刀に自身の能力である《狂》の力である黒い雷を纏わせながら謎の男に迫ると敵と思われる謎の男の首を斬るべく一閃を放とうとする……が、真助が一閃を放とうとしたその時、真助の体が何かによって動きを封じられて動けなくなってしまう。
「なっ……!?
体が……!?」
「オマエたちを知らないわけではない。知っているが故に期待したんだ」
「この……オマエ、何をしやがった……!?」
「真助!!」
動きを封じられた真助を助けるべくノアルも走り出そうとするが、ノアルが走り出そうとした時謎の男が深く被るフードの下で何かが怪しく光るとノアルの体も自由を奪われたように動けなくなってしまう。
「!?」
「浅はかだな。オマエが加勢に来れば女は無防備になると考えなかったか?オレとしては女を手にかけることに躊躇いはないが……抵抗しない女を殺しても何の糧にもならんからな。オマエはそこで動けないなりに女を守ってろ」
「コイツ……」
(ノーザン・ジャックが現れた時、オレたちはヤツの持つ潜在的な力に圧倒されて動けなかった。アレは精神的な面が大きいと思うが……コイツのこれはアレとは違う。何かがオレの動きを封じている!!おそらく真助も同じように何かが動きを封じていて動けないのかもしれないが……この何かがコイツの能力なのか?)
「そうやって冷静に分析してろ。今のオマエにはそれがお似合いだ」
「なっ……」
まるで心を読んでいるかのようにノアルが謎の男について思考していることを目の前の男に見抜かれたような感覚に襲われたノアルは困惑してしまう。ノアルが困惑する中で真助は何とかして動こうと必死になっているが、謎の男は真助が動こうとすることすら意に介さないように話し始める。
「オマエたちが今後脅威となる能力者に発展する可能性があると思っていたが、オレが期待しすぎたらしいな」
「期待、だと……?」
「オマエらがオレたち《世界王府》に楯突く愚か者の中でもヴィランはそれなりの楽しみがあると言っていたから多少の期待をしていただけだ。個人的な意見をするならオマエらを過大評価していただけだったみたいだがな」
男が右手をかざすと真助は勢いよく吹き飛ばされ、吹き飛ばされた真助が飛ばされながらも受け身を取ると男は右手を下ろすと冷たく告げた。
「オマエらがこの程度ならビーストを追い詰めた覇王とやらも大した力は無さそうだな。こんなヤツらに楽しみを覚えるなど愚かでしかない」
「コイツ……」
「オマエは一体誰なんだ……?」
「オレの名?そうか、まだ名乗ってなかったな。
オレの名はペイン」
謎の男が自らをペインと名乗ると風が吹き、強く吹いた風は男が深く被るフードを強引に脱がすとその下にある素顔を晒させる。だが、素顔が晒された時……ノアルと真助、エレナたちは言葉を失ってしまう。
「なっ……」
「バカな……!?」
「嘘……ですよね……」
「……《世界王府》のペイン。絶望の痛みを与えるものと覚えておけ」
謎の男・ペインは空間を歪ませるとその中へと消えていき、言葉を失っているノアルたちはペインの素顔を疑ってしまう。
「そんな……アイツの顔……」
「あんなのありえるのか……?」
ノアルたちが目にしたもの、言葉を失い目を疑い事実を疑ってしまうほどのもの……果たしてペインの素顔には何が……




