48話 異論の壁
次の日、放課後
1日の授業を終えたヒロムはガイやユリナたちと帰ろうとし、そんなヒロムにナギトもついて行くように帰ろうとしていた。帰ろうと靴を履き替えるヒロムにナギトは何気ない質問を彼にした。
「ねぇ、天才。イメージ力を高めるのは昨日で終わりなんだよね?」
「あん?あぁ……そうだな。オレの指示通りにひたすら読み続けてたみたいだし今日は次のステップに進ませてもいいかもな」
「だよね。帰りに屋敷寄るから頼むよ」
分かってるよ、とヒロムはどこか適当にも聞こえるような返事をして外に出ようとし、ヒロムに指導を頼むナギトにユリナは気になることを質問した。
「ねぇ、風乃くん。気になってたんだけどヒロムくんに言われて何の本を読んでたの?」
「それはオレも気になるな。大将に言われてどんなの読んでたか教えてよ」
イメージ力を高める、そのためにヒロムはナギトに屋敷の書斎にある本を選んで読むよう指示していたが、結局のところナギトが何を読んでいたかユリナは気になったのだろう。そして同じようにイクトも気になっていたらしくユリナと同じようにナギトに尋ねる。
尋ねられたナギトはそうまでして気になるものなのかと不思議に思いながら2人の質問に答えた。
「バスケの漫画とサッカーの漫画、あとは……」
「え?スポーツの本読んでたの?」
「えっ、ナギトってスポーツ選手目指してたのか?」
「違うよ。でもヒロムの指示通りにイメージ力を高めるならそれがいいって思ったんだ」
「そ、そうなんだ……」
「ていうか大将も何目的で漫画読ませたんだ?全然目的が見えねぇ」
ヒロムの言うイメージ力を高める、そしてそれに繋がると思われたナギトの読書。それらから何があるのか察しがつかないユリナとイクトが頭を悩ましながらヒロムについていくように歩いていると……
「姫神ヒロム!!」
「そこに止まれ!!」
校門に向けて歩こうとするヒロムたちの行く手を阻むように数人の生徒が現れ、現れた生徒の中の2人が腕を組みながらヒロムに物申す。
「姫神ヒロム!!オレらが納得する理由を話してもらうぞ!!」
「……何について何の理由を話すのか要点まとめやがれ。言葉抜けてて日本語成り立ってねぇよ」
「そこの転校生のことだ!!オレたちがどれだけ頼み込んでも《天獄》に入れてもらうどころか《天獄》の仕事を手伝うことすらオマエは拒んでいたのに何で昨日今日来たような転校生は《天獄》に参加させたんだ!!」
「……そんな事かよ」
「そんな事だと!?ふざけるな!!
オレたちが必死になっても断ってきたヤツがそんなぽっと出のヤツを受け入れるなんておかしいだろ!!」
「そいつに何言われたか知らねぇがオレたちが納得するだけの理由があるからそいつを認めたんならそれを話せ!!」
2人の生徒の意見にヒロムが少し鬱陶しそうにしていると2人の生徒の周りにいる生徒も彼らの意見に賛同するようにヒロムに不満をぶつけようとする。
数人の生徒の不満が募る中でただ鬱陶しそうにするだけのヒロムを前にしてナギトは自分が前に出て発言しようとする……が、ソラはナギトを止めると彼らに向けて言った。
「ヒロムはコイツを認めて《天獄》に入れたんだ。どんな理由かをオマエらが知る必要もなければ異論を好き勝手口にする資格もねぇよ」
「納得できねぇから意見してんだろうが!!
そいつを認めておきながらオレたちを認めない理由は何なんだよ
!!」
「そうだ!!オレたちが納得する理ゆ……」
1人の生徒が不満を口にする中で銃声が響くと生徒たちの前の地面に数発の弾丸が着弾して彼らを黙らせる。不満を口にしていた生徒たちは黙ると同時に恐る恐るソラの方に目を向け、目を向けた先のソラは紅い拳銃・《ヒート・マグナム》を構えていた。
拳銃を構えるソラ、そのソラは冷たい眼差しを彼らに向けながら冷たく告げた。
「うるせぇんだよ雑魚共。足手まといにしかならないクズを入れるくらいなら素質のある人間を選ぶに決まってんだろ。あ?つうかオマエらが《天獄》に入ってオレらが得られるメリットはなんだよ?無駄に負傷者が増える環境か?テロリストもまともに倒せないやつの子守りか?」
「いや……あの……」
「黙って聞いてりゃ自分たちのことばかり……うぜぇんだよ。
オマエらが《天獄》に入りたいのは自分を目立たせたいからだろ?《天獄》に入った自分を見せびらかしたいんだろ?」
「ち、違……」
「違わねぇだろ。オマエらはクリーチャーが現れても何もせず逃げて誰かが終わらせるのを待つだけだろ。度胸も無ければ覚悟もねぇようなそんなヤツはいらねぇ。だが風乃ナギトはクリーチャーを相手に立ち向かう覚悟を示した、だからオレたちはコイツを認めたんだ」
「クリーチャーなんて化け物倒せるわけ……」
「なら失せろ。オレたちの邪魔だ。欲だけで実力が無いようなヤツは邪魔でしかない」
ソラの冷たく告げた言葉を前にして数人の生徒たちは返す言葉も無くなり、ただ突きつけられた現実を受け入れるかのようにヒロムたちに道を譲ろうとした。しかし……
「覚悟云々を言うなら証明してもらわなきゃな」
ヒロムたちの後ろ……校舎の方から1人の生徒が歩いてくる。両手に包帯を巻いた茶髪の少年、その少年はヒロムたちに近づくように歩いてくる。
「アイツは……」
「ボクシング部部長の戦野賢一だな。たしか高校生で初めて全国大会2連覇してる逸材らしい」
「詳しいなガイ」
「ヒロムが周りに興味無さすぎなんだよ」
歩いてくる少年が誰か知らぬヒロムにガイは説明するとともに彼の関心のなさに少し呆れ、ガイが呆れていると少年……戦野賢一はヒロムに物申した。
「相馬の言う覚悟とやら、それが必要だと言うなら見せてもらおうか」
「……オレに言ってんのか?」
「《天獄》のリーダーはオマエだろ。なら《天獄》に必要だって言う覚悟とやらをオマエが示せよ」
「……なるほど、オマエも納得しないってことか。
それなら仕方ねぇか。望み通りに……」
「オレが相手になるよ」
賢一の言葉を受けてヒロムはどこか嫌そうな態度を見せながら前に出ようとするとナギトが前に出て自らが相手をすると名乗り出る。
ナギトが名乗り出ると賢一は意外そうな顔をし、急に名乗り出たナギトに対してヒロムは少し驚きながら彼に言った。
「ナギト、オマエが出る必要は無い。コイツの指名はオレだ。
オレがコイツに望み通りに覚悟ってのを示せばそれで済むんだから下がってろ」
「それで気が済むならそうするよ。でも、この人たちが口にしてる不満ってオレが《天獄》に入ったからだろ?なら覚悟ってのを示すのはアンタじゃなくてオレ自身じゃないの?」
「それはそうだが指名されてないなら出る必要は無い」
「というか、この人たちがオレを見くびってると思うと心底腹立たしいんだよね。オレもそれなりに力つけてんのに甘く見られたままなのはさすがに腹立つんだよね」
「……オマエがやるって言うなら止めないが、やるからには半端なことするなよ?」
分かってるよ、とナギトはヒロムの言葉に返事を返すと荷物を下に落として賢一の方へ歩き、賢一とある程度の距離を保つように止まるとナギトは言った。
「じゃあ始めよっか、ボクシングの人。
オレが相手だからって手加減しないでよね」
「上等だ。そのなめた口の利き方と一緒に殴り倒して先輩に対する口の利き方を教えてやるよ」




