46話 すれ違う思い
咲姫サクラの自己紹介の後、サクラに対する屋敷の案内をフレイたち精霊に任せてヒロムは逃げようとするもユリナとエレナに捕まってしまい、ガイたちがリビングでくつろぐ中でユ肩身が狭そうに昼食の用意をするユリナ、エレナ、ユキナ、アキナの手伝いをして……いるように見えてその実キッチンの邪魔にならない場所でソラが宿す精霊である子猫・キャロとシャロの遊びに付き合っていた。
「ニャー」
「ミャー」
「あいあい、オマエらは無邪気で羨ましいよ」
「ヒロムくん?」
「ん?」
「手伝ってくれないの?」
「そうしたいのは山々だがコイツらが遊べとせがむ」
「そんなこと言って本当はサボりたいから適当に言ってるんでしょ」
そう思うだろ、とヒロムはキャロとシャロの遊び相手を止めるとユリナたちを手伝おうと動こうとするが、ヒロムが動こうとするとキャロとシャロは大きな可愛らしい声で鳴きながらヒロムの腕にしがみつき、シャロに関してはヒロムの手を甘噛みして遊べと訴える。
2匹の子猫の様子をユリナに見せた上でヒロムは彼女に適当かどうかを判断させようとし、それを見せられたユリナはさすがに認める他なかった。
「う、うん……キャロちゃんとシャロちゃんの気持ちはわかったからそのまま遊んであげて」
「ヒロムさん、キャロちゃんとシャロちゃんに好かれてるんですね」
「好かれてるって言うか意思疎通が出来るからだよエレナ。
フレイたちを長く宿してるからか精霊の言葉っていうか話そうとしてることはほとんど分かる。コイツらの親のソラはそれこそ何となく分かってるくらいだけどな」
「もしかしてノアルさんが負傷された時のガウくんの言葉も分かってたんですか?」
「ああ、まぁな……ってシャロ、そろそろ噛むのやめてくれねぇと甘噛みじゃなくなる」
ヒロムはエレナに対して説明をすると座ってキャロとシャロを膝の上に乗せ、2匹の子猫の相手を再会する。その様子を見ながらユキナは話題を変えてヒロムに質問をする。
「ねぇヒロム、何でサクラと約束しておいてそれを守らなかったの?」
「……今聞くのか?」
「そりゃ、今聞かなきゃいつ聞くのよ。
サクラとの約束なんて会いに行けばよかっただけなんじゃないの?」
「……そう簡単な話じゃないだろ」
「というか、約束自体は覚えてたの?」
「……覚えてたさ。手紙に関しては面倒くさくなったってのは否定しないけど、会うってのはそれはそれで話が難しくなる」
どうして、とユキナが問うとヒロムはキャロを撫でながら何故会う約束を果たさなかったのかを明かしていく。
「会いに行けばよかったのは分かってる。けどその時オレはある界隈の一部のヤツらから命を狙われていた。そんなオレが会いに行ってサクラが危険に晒されるのは元も子もない。ましてユリナたちみたいにオレのことを近況で理解してるならともかく離れていて何も知らないサクラが巻き込まれたらって思うと会いに行けなかったんだよ」
「連絡すればよかったじゃない。会えない理由があるとか言えば……」
「アイツがそれで納得しないことはないのはオレも知ってる。けど、会えない中で電話だけで声を聞かされても不安にさせると思ったから出来なかった。どの道オレはアイツを危険に晒すか心配させるしかない、なら平穏な日々が戻ったら謝ろうと思って何もしなかったんだ」
「そうなのね……」
「じゃあヒロムくんはわざと咲姫さんを遠ざけてたの?」
「そうなるな。で、いざああして再会するもこんな理由言われても困ると思ったから忘れてたってことにしたんだが……ガイたちやオマエらに冷たい目で見られたわけだ」
「なんで嘘ついちゃったの!?
正直にそのことを話せば咲姫さんだって分かってくれるはずなのに……」
だからだよ、とユリナの言葉に対してヒロムは最後まで聞くことなく途中で一言言うと何故嘘をついたかを話す。
「アイツに話せば理解して納得してくれるのは分かってる。けどそれはオレが都合よく約束を守らなかったことへの言い訳でしかない。何も言わないで会う約束を破ったのなら事実を語る資格はない」
「でもそれじゃヒロムくんは……」
「甘えたくないんだよ、オレは。昔のままならアイツは文句もなく受け入れてくれる。そんなアイツの優しさに甘えたくないんだよ」
「ヒロムくん……」
「……母さんがどんな思惑でサクラをここに来させたのかも分からない。そんな中でオレがどうすべきか、それを理解しなきゃオレはアイツに何も話せない」
サクラとの約束を守らなかったことの本当の理由、その理由を今は明かせないというヒロム。彼の言葉に対してユリナたちはなにか思うところがあるようだがヒロムは……
******
その頃、ヒロムの精霊・フレイに屋敷の中を案内されるサクラは屋敷の中をじっくり見ながらフレイの後ろをついて歩きながら彼女の説明を聞いていた。
「ここから向こうまでの部屋は一応空き部屋となるので普段はガイたちが泊まる際の寝室として貸し出ししています。それから……」
「ねぇ、1つ聞いてもいいかしら?」
フレイの説明を遮るようにサクラは言うと彼女にある質問をした。その内容は当然のようにヒロムに関してでありヒロムが宿すフレイたちについてだった。
「私の記憶にない精霊もいるようだし、何人かは雰囲気変わってるようだけどヒロムに何か関係あるのかしら?」
「それは……」
「アナタは多少の変化はあれどそこまで変わってないようだけど……1番変わってるのはヒロムでしょ?《センチネル・ガーディアン》、それに任命されるなんて昔のヒロムからは考えられないもの」
「あの、何を言いたいのですか?」
「……ヒロムが約束を破ったのは忘れてたとかじゃないんでしょ?本当の理由、アナタは知ってるんじゃないの?」
「それは……」
「ヒロムの事だから色々あって私を巻き込みたくないとかそんな理由でしょ。いいのよ、隠さなくても」
「……怒ってますか?」
全然、とサクラはフレイの問いに答えると迷いのない瞳で彼女を見つめながらヒロムに対しての思いを伝えた。
「手紙にしても会う約束にしてもあれは私があの時のヒロムが孤立してほしくないから言っただけだもの。そのヒロムが自分で決めて私を巻き込みたくないからあえて合わなかったのならその気持ちを尊重するわ」
「ですが約束を守らなかったことに変わりはないですよね?」
「変なことを聞くのね、アナタは。敢えて言わせてもらうなら……私は約束を守るヒロムを愛してるわけじゃないの。私が愛してるのは何かのために前に進もうとしているヒロムなんだから」
「サクラ……」
「……でもきっとヒロムを振り向かせるのは難しいかもしれないわね。ユキナはともかくあんなに可愛い子に囲まれてるんだから、今更私は相手にされないわよね」
「悲しくありませんか?」
「悲しくなんてないわ。私はどんなことになっても彼を愛してるもの」
行きましょ、とサクラは何食わぬ顔で案内の続きをフレイに頼み、フレイは頷くと彼女を案内すべく次の場に向かう。だが、そのフレイの心は苦しかった。
平然として他人を、ヒロムを思いやるサクラ。そのサクラも少なくともヒロムへの思いがあるはずだ。それを理解しながら彼女が他の者を思いやって話す姿がフレイには辛かったのだ。
彼女を守るためと遠ざけていたヒロム、そんなヒロムをいまでも信じているサクラ。2人の思いを知るフレイは……




