45話 咲く華
1日が経過した。前日まで騒動に騒動が重なって慌ただしかったのに一転して昨日は日が明けた今に至るまで大きな騒ぎもなく平和そのものだった。
週末、学校が休みでやることが無いのか皆ヒロムの屋敷に集まっており、一部メンバーが特訓用のフロアで特訓する中でリビングではナギトがイメージ力を高めるためのトレーニングとして万を読んでおり、ガイとソラ、イクトはヒロムの家にあるゲーム機でテレビゲームをしていた。
ユリナとエレナ、ユキナ、そして朱神アキナは女子同士の華やかな女子会に近いものを紅茶とシフォンケーキを用意しながら楽しんでいた。
その一方、家主のヒロムはソファーに座って心ここに在らずといった様子で天井を見つめていた。
「……」
「……ヒロム、いい加減受け入れろよ」
ソラやイクトと対戦ゲームをするガイはコントローラーを器用に操作しながらヒロムに話しかけ、話しかけられたヒロムは深いため息をつくと天井から目を逸らして不機嫌そうな顔でガイに言った。
「バカ言うなよ。サクラだぞ、サクラ。
新しい使用人雇ったとかなら気軽だがサクラが今更になって来るとか憂鬱でしかない……」
「いや、そんなに嫌がることなのか?」
「天下の天才覇王様が情けねぇな」
「ソラの言う通りだよ大将。
昔地獄の特訓を課してきた師匠が来るかのような嫌がり方してるけど、リアクションが大袈裟すぎない?」
「……イクト、オレは言ったことが現実になる力でそれを具現化したいくらいだ。鬼教官の方がどんだけマシか」
「え?現実逃避のレベルおかしくない?」
「重症だな、コレは。
ガイ、何か知ってるのか?」
「いや、オレもソラと同じで知らないんだよ。
ユキナは知ってるみたいだけど……」
明らかに様子がおかしい、ヒロムの様子がおかしいと確信したガイとソラは今いる中でヒロムのこのおかしな様子の原因と思われるサクラについて知るであろう今現在女子トークを繰り広げるユキナに視線を向けた。
ガイとソラ、2人の視線に気づいたユキナはユリナたちに申し訳なさそうに話しを止めさせると2人に声をかける。
「私に何か用?」
「いや……ヒロムが憂鬱でしかないって言ってる理由、分かるか?」
「朝から鬱陶しくて仕方ないから対処法教えろ」
「ガイの言い方はともかくソラのその言い方は他の人にはやめた方がいいわよ。顔がいいのに口が悪かったらモテないわよ」
「余計なお世話だ……!!」
「そうね……ヒロムが変に嫌がってるサクラは簡単に言うと私のお母さんのお兄さんの娘なの。所謂従姉妹なのよ、私とサクラは」
「……何となく分かった」
「分かったの?」
「ヒロムを必要以上に甘やかすユキナの従姉妹だろ?」
「ユリナの3倍、エレナの2倍は甘やかしてるオマエの従姉妹なんだろ?」
「てことは大将を甘やかす人ってわけか」
「あら、アナタたちわたしを何だと思ってるの?」
「「ヒロム(大将)をダメにする女」」
「3人声揃えて言われると傷つくわよ?というか、私の場合はヒロムを楽させたいって理由からだからダメにさせるつもりはないわよ」
よく言うよ、とユキナの言い分にソラはため息をつくとユキナにいくつか質問をしていく。
「ヒロムが朝起きたらオマエは何する?」
「寝巻きを脱がさせてジャージを着せてあげるわ」
「ヒロムが食事を終えたら?」
「ヒロムの口周りが汚れてないかチェックしてお皿は私が片付けてヒロムにはくつろいでもらうわ」
「……ヒロムが腹を空かしたら?」
「その日のヒロムのコンディションを調べて健康状態にあった食事を用意して食べさせるわ」
「……今のどこにダメにさせてないって言い切れる要素がある?」
「え?変だったかしら?」
ソラの質問に当たり前のように答えたユキナはソラが呆れる様子が納得いかぬ様子でユリナたちに意見を求める。ユキナの行動は傍から見ればおかしい、ソラはそう考えていたが……
「そんなに出来るなんてユキナすごいよ」
「私もユキナを見習わないといけませんね」
「ユキナ、その技今度教えて」
ソラの考えを裏切るようにユリナ、エレナ、アキナは何故かユキナの答えに称えるような言葉を並べ、3人の予想外の反応にソラは頭を抱えてしまう。
無駄な事だとでも言わんばかりにガイとイクトはソラを見つめ、頭を抱えるソラはもはや考えるのを諦めた。
そんな中、ナギトは漫画を読みながらヒロムに質問した。
「ねぇ天才、なんでそこまで嫌がってるの?
そこまで嫌なのって何かされたからなの?」
「いや……何かされたとかじゃねぇ。
ただ、重いんだよ」
「重い?」
「重いんだよ、何もかもが。
とにかく重いんだよ……ユキナが何かとやってくれるから楽で助かるってのに対してアイツは楽を通り越して怖いとすら思えるんだよ。しかもなぁ……多分、今会うのは厄介でしかないんだよな……」
「天才がそこまでに感じるってどんな人なのさ……」
「どんな人なのでしょうね?」
ヒロムをここまで苦悩させるのはどんな人物なんだとナギトが不思議に思っていると誰かが反応するように言い、ナギトたちは声のした方を向く。
声のした方にいる人物……肩まである長さの桜色の髪をした黒い制服に身を包んだ少女はにっこりと微笑むとヒロムのもとへ歩み寄り、少女が歩み寄ってくるとヒロムは何故か警戒しながら彼女に質問した。
「サクラ、どうやって屋敷に入った……?
鍵はしっかりかけたしフレイたちにも来ても入れるなって言ってたんだぞ?」
「鍵なら愛華さんから預かってる合鍵を持ってますので。それとアナタの精霊に足止めされそうになりましたが愛華さんに迷惑かけることになりますよと優しく言ったら通してくれましたよ」
「脅しじゃねぇか!!
つうか母さんもいつの間に合鍵つくってんだよ!!」
「それよりヒロム、久しぶりの再会なのに冷たくない?
10年も会ってないうちに逞しくなってるのは愛華さんから聞いてたけど、そんなに私に会うのを嫌がらなくてもいいじゃない。私はヒロムの役に立つためにここに来たのだから、ね?」
「ね、じゃねぇよ。母さんに何言われたのか何吹き込んだかはし知らねぇけど、お生憎今のオレはオマエに頼らなくても何とかやれてんだよ」
「あら、そうなの?
私以外の人との約束破ったりせずにちゃんと過ごせてるならいいのだけど……ね?」
「……根に持ってんのか?」
「いいえ、何も怒ったりしてないわ。
ただ私は心配なのよ。年に1度でいいから手紙を送って欲しいってお願いしても10年の間で1度も来なかったし、中学卒業したら私と同じ高校通うためにこっちに来てくれるって言ってくれたのに……」
「……いや、それはオレが悪いけど、さすがにガキの頃の約束なんて……」
「そうよね、子供同士の口約束なんて今更よね。小さな頃に指切りしてまで約束したけど今更よね……」
「おい、サクラ。その言い方だとオレが……」
「オマエが悪いよヒロム」
少女の言い分に対してヒロムが弁明しようとするとガイが横から口を挟み、ガイが口を挟むとその場にいた全員の視線がヒロムに向けられる。
「何があって会うのを嫌がってるのかと思えばオマエが悪いだけじゃないか」
「まったくだな。女をその気にさせて放置プレイとは罪深いな」
「大将ってそういうとこあるよね」
「オマエら……」
「ヒロムくん、そういうのよくないよ」
「ユリナまで……いや、まぁ、そうだよな……うん」
ガイ、ソラ、イクト、そしてユリナに冷たい視線と共に冷たく言われるとヒロムは反省するかのように声を小さくしながら言うとどこか申し訳なさそうに目を逸らしてしまう。そんなヒロムの反応を面白がるように少女は微笑むとガイたちに自己紹介をした。
「では改めて……初めまして、皆さん。私の名前は咲姫サクラ、気軽にサクラと呼んでくださいね」




