44話 策略は基から
ナギトとともにヒロムたちが歩いている様子を高層ビルの一室の窓から肉眼で見ている葉王。どれだけ視力がいいんだとツッコミたくなる中で葉王は嬉しそうに笑うと誰かに向けて話していく。
「いいねェ。これで《天獄》のメンバーの補強も出来てアイツらも気持ちを引き締めて進めるッてわけだなァ。いやいや案外上手く事が進んでよかッたなァ」
「……面白くも何も無い。結果としてヤツらは難関を1つトッパしただけだ」
葉王の話に反応するように誰かが話す。葉王が声のした方に視線を向けると視線の先で黒いロングコートに身を包んだ青髪の青年が何かの資料を閲覧していた。
資料を閲覧する青年の方に視線を向けた葉王はヒロムたちのことは興味なくなったかのか青年に歩み寄り、歩み寄ると葉王は青年の邪魔をするように話しかける。
「その難関を超えたッてのが大きいだろォ。
何せ姫神ヒロムに関してはあのヴィランを前にして臆せず立ち向かいィ、ノーザン・ジャックについては短時間とはいえ歯向かうだけのメンタルの成長を見せたんだぞォ」
「それは現段階では偶然でしかない。偶然のレベルではこの先苦戦を強いられるだけだ。求められるのは確かな実力、つまりは《世界王府》を前にしても戦い続けられるだけのポテンシャルを発揮出来るレベルだ」
「難しいご注文だなァ。あんまり注文が多いと嫌われるぞォ」
関係ない、と青年は資料をファイルに戻しながら葉王に返し、青年は葉王に向けてあることを伝えた。
「今回撃退したビーストは東雲ノアルの力を回収されずに同化したままだ。退けたとはいえ敵に力を与えたまま逃がしたも同然だ。仮にこうしてる間に同化したままの力が完全にビーストに適応したら敵に力を与えるという失態を犯したことになる」
「真面目だねェ、我等が当主様はァ。
オマエがその気になッて動けば《世界王府》なんて敵じャねェだろォ」
「……オレはオマエのように甘くはない。国の防衛戦力としての立場を与えられたのなら相応の成果を出すのは当然の務めだ」
「言うねェ。さすがは日本最強の能力者の一条カズキ様だァ」
「……オレのことなど関係ない。それよりも《フラグメントスクール》の方はどうなっている。風乃ナギトを始末しようとする動きがあるようだが何故講師に任命したヤツらは止めない?」
「そりャオレがそれを禁止してるからなァ。何せ現実を理解してないヤツらが力を示そうとして返り討ちにあッて絶望の方へ落とされるのを見たいと思わねェかァ?」
悪趣味だな、と青年……一条カズキは葉王の言葉に呆れていると葉王は《フラグメントスクール》の生徒を止めない理由を話していく。
「オレが《フラグメントスクール》について賛同して指揮を執るのは可能性を秘めてる能力者を見つけるためだァ。《十家騒乱事件》、あの事件を止められたのは姫神ヒロムたち特異点たちが活躍したからだァ。特異点……シンギュラリティの能力者という能力の特異点に達して覚醒した能力者たちがどれほど悪意に対抗出来るかはオマエとオレが望んだものを示せただろォ?その上でオマエは日本国の乱れを正そうとしたがァ、《センチネル・ガーディアン》という国家防衛戦力を政府と警察により設けられェ、オマエとオレが見定めた能力者たちと《天獄》の代表と《十家騒乱事件》の功労者として姫神ヒロムを選んだわけだがァ……結局のところ《センチネル・ガーディアン》にシンギュラリティの能力者となッてるのは姫神ヒロムとそれに次ぐとされるアイツらだけェ」
「つまりオマエはシンギュラリティの能力者をまだ増やしたいと言いたいのか?」
「そうなるなァ。同時に《天獄》の連中がさらに強くなるきっかけとなる能力者が見つけられたら《世界王府》へ対抗する力を増やせると思わないかァ?」
「それが風乃ナギトか。《フラグメントスクール》から抜け出したガキがそのカギになるのか?」
「そもそもオレが《フラグメントスクール》を野放しにしてるのは生徒に実力という現実を解らせて絶望させるためだァ。風乃ナギトは少しずつ《フラグメントスクール》の中の流れに絶望して見るべきものを見て答えを出したァ。そしてアイツの才能はあの姫神ヒロムに匹敵するゥ」
「……買い被りすぎだな。風乃ナギトからは何も感じない、つまり凡の中の凡と言ってもいいくらいだ」
「その凡の中の凡を仲間にする決断をするほど姫神ヒロムたちの心を動かさせたァ。ビーストと戦う姫神ヒロムの動きにも適応して見せたのならァ、それなりの素質があるとして多少期待しても悪くないだろォ」
「……期待か。期待するのは構わんが忘れるなよ。オマエと姫神ヒロムの決断が今後を大きく左右する。オマエたちは可能性を秘めた能力者だということを忘れるな」
「分かってるさァ。言われなくともなァ」
******
夕刻
ヒロム所有の屋敷・書庫。
どこかの図書館ではないかと思うほどの規模の広さとその広さを埋めるほどの本が並んでいた。その書庫へとヒロムはナギトを案内するとある本棚の前に案内するとガイが見守る中で彼にある指示を出した。
「よし、ナギト。まずはイメージ力から高めるぞ」
「イメージ力?
実践トレーニングじゃないの?オレは天才たちの仲間入りしたなら足引っ張りたくないんだけど……」
「順序よく進めるためにやるんだよ。ずべこべ言わずやるぞ」
「やるのはいいけど何するのさ?」
「ここから向こうまでの棚は漫画で固めてある。とりあえず何でもいいから今日から2日間はひたすら読んで何かしらのイメージを知識として頭のに入れろ」
「うん、意味わかんない」
「ヒロム、説明が足りないって」
ヒロムが何を伝えたいのかナギトが理解出来ずに悩んでいるとガイがヒロムに指摘するとナギトにヒロムに代わって分かりやすく説明した。
「昔のヒロムは本の虫になってここにある本を端から端まで読んで知識をつけながら戦いに必要な体術などのかたちを頭の中でイメージする力を鍛えていたんだ。だからヒロムもナギトにそれをやらせたいんだろうけど、本棚を指定してるあたり今のナギトに必要な点だけでまとめようとしてるんだよ」
「へぇー……昔って何年前?」
「6歳の時だったから11年くらい前だな」
「……はい?おかしくない?」
「おかしいだろ?でもそれをやり遂げたから今のヒロムがあるんだよ」
「……天才ってのは生まれつきなんだね」
「いや、そうでもないさ。
ヒロムは……ただの天才じゃないさ」
何か意味深な言葉を口にするガイに不思議な感覚を覚えるナギト。ナギトはそんな不思議な感覚を覚えながらも本棚の前に立つとヒロムがさせようとするイメージ力を高めるための特訓を進めるべく本を選ぼうとする。
何を読めばいいのか、そこから悩もうとするナギトにヒロムはアドバイスをした。
「適当に選ぶくらいなら自分の戦い方を高められそうなアクションか読みやすいジャンルに専念しろ。時間を無駄にしたくないならそれでも十分だ」
「読みやすいジャンル、戦い方を高められそうなの……分かった」
「おう、好きなの選べ。とりあえず2日間は好きな時間好きなタイミングでできるだけ多くの本を読め。家に持ち帰るなら持ち帰っても構わないからな」
「オッケー、分かった」
ガイに触発されたのかヒロムは優しく伝え、ヒロムの出す細かな指示を聞くガイは安心したような目で彼を見ていた。
「ふっ……」
(あえて本当の狙いを言わないのは優しさなのかな。
ナギトは《フラグメントスクール》の連中に襲われた負傷が完治してない中でヒロムに同行して戦闘に参加したりしていた。その影響で体に疲労が蓄積してるだろうからヒロムはそれを取り除こうとしてる。何だかんだ口下手なところはあるけど、やるべきことはやるように仕向けてるんだな)
「どうかしたか?」
ガイがヒロムに感心しながら彼を見てるとその視線が気になったのかヒロムは話しかけ、何でもないとガイは首を横に振る。が、ふと何かを思い出したガイはヒロムに思い出したことを伝えた。
「そういえばヒロム、もう出迎えの準備は出来たのか?」
「出迎え?誰の?」
「いや、愛華さんが言ってたろ。
これから戦闘が激しくなって心身のケアが疎かになる危険があるから信頼出来る人を手伝いとして来させるって」
「初耳だが?つうか誰だよその信頼出来るヤツって?」
「さぁ?オレは詳しく知らないけど何か知ってるユキナはサクラって言ってたけど……知ってるか?」
「んだよサクラか。サクラが……来るのか!?」
サクラ、その名を聞いたヒロムは何故か1度復唱すると驚いた反応を見せ、驚いたヒロムはどこか動揺した様子でガイに問う。
「い、いつ来るか聞いてるか!?」
「えっと……明日だったはずだけど」
「……はは……終わった。
オレの日常は……終わった……」
「え?終わった?」
(つうか天才って慕われてるのに名前だけでこんな絶望するってどんなヤツが来るんだ?)
何故か諦めムードのヒロムにガイは頭を悩ませ、2人の事など気にすることなくナギトは本を選んでいく。
何が何だか分からない中、時は進む。果たしてこの先に何が待つのか……




