42話 去りて悩み来り
翌日……
一晩が経ち、ヒロムの暮らす屋敷にガイたち《天獄》の面々が集まり、無事に避難させられていたユリナ、ユキナ、エレナはその無事な姿を見せるように屋敷に集まっていた。
そしてヒロムの母である姫神愛華もおり、彼女とヒロムは向かい合うようにテーブルを挟んでソファーに座っていた。
真剣な面持ちでヒロムを見る愛華、だが愛華の視線を受けるヒロムは心ここに在らずと言わんばかりの顔をしていた。
「……」
「ヒロムさん、聞いてますか?」
「……悪い、途中から聞こえてない」
「……困りますよ、そんなのでは。
仮にもアナタは《センチネル・ガーディアン》の1人として国のために戦い、ガイさんたち《天獄》をまとめるリーダーなんですから」
「悪い……」
「……今回の件はこれ以上咎めません。ノアルさんの容体の回復と能力の確認が出来たのでよかったです」
「あぁ……そうだな」
どこか生気のないヒロム、そのヒロムの様子が気に入らないのかソラは舌打ちするとヒロムの頭にチョップを食らわせる。
「痛……!!」
「ウザイから切り替えろ。
オレの得意分野は射撃だがこれで勘弁してやる」
「……悪い」
「話は葉王から軽く聞いた。今回に限っては相手が悪すぎた」
「……そうも言ってられないだろ。
母さんが今言ったように国のために戦う《センチネル・ガーディアン》に任命されたのがオレだ。そのオレが倒さなきゃならない敵を前にして何も出来なかったんだ。不甲斐なさしかないだろ」
「オマエは一瞬でもノーザン・ジャックの圧に打ち勝って動けたんだ。少なくともこの場にいる誰よりもオマエは《世界王府》に対抗するだけの力を持ってるって話だ」
「だといいけどな」
「つうか、10を超える国を壊滅させたような敵にオマエが簡単に勝てるわけないだろ。オレたちは何とか力を合わせて十神アルトを止め、今回のビーストの件もオマエが追い詰めてノアルが覚醒してあと一歩まで持ち込んだんなら個人の力量だけで言うならオレたちはまだまだ未熟なんだよ」
ソラの言葉、それを受けたヒロムは反論できなかった。未熟、その一言にヒロムは己の実力を痛感させられたからだ。その未熟さをヒロムは自分でも理解しており、ヒロムがそれを痛感していることに関してはソラやガイたちも分かっていた。
そんなヒロムに真助はある質問をした。
「なぁ、ヒロム。そのノーザン何とかは葉王より弱いのか?」
「え?あぁ……いや、あの感じだと互角くらいじゃないかと思う。つうか葉王自身オレに本気出して戦ったことがそんなにないような気がするから何とも言えないけど、どっちが強いとかの次元ではないと思うぞ」
「ふーん……なら、葉王とヴィランって大ボスならどっちが強い?」
「いや、それは比較対象としておかしくないか?
《世界王府》のリーダーと葉王とじゃ比較にならねぇし、葉王の方が強いなら《世界王府》なんて潰せてるようなもんだろ」
「ならヴィランってヤツの方が強いんだろ。で、そのヴィランの精神的な攻撃を受けてたオマエはそれを跳ね除けたんだ。違うか?」
「たまたまだ。ヴィランの闇に抗えたのはたまたまで……」
「でも事実だろ。つまりオマエはヴィランには精神面で負けていなかった。逆に言えばヴィランと対峙してさえいなければオマエはあの場で唯一ノーザン何とかに対抗する力を持ってるってことだ」
「……そんなのたまたまだ」
そうかもな、と真助は軽く返すとたまたまと言い返すだけのヒロムに勇気を与えるかのような言葉を伝えた。
「けど、オマエはこれまでそのたまたまと思ってることを何度も掴み取って勝利に繋げている。オマエが自分を低く見積ってるとしても、オレたちからすればオマエはもう自分の力で未来を掴むだけの力を持ってるってことだ。少しは自信持てよ。オレたちと違ってオマエは《センチネル・ガーディアン》に選ばれた能力者、そのオマエだからこそオレたちは信頼してついて行ってんだからな」
「真助……」
「まぁ、オマエがやる気にならねぇならノーザン何とかへオレが潰してもいいけど。こう見えてオマエに勝てるように鍛えてきたからな」
「……言ってろ。《世界王府》のヤツらはオレが潰してやる」
真助の言葉を受けたからか先程まで自信を失っていたとは思えぬほどにヒロムはやる気に満ちており、その様子を見るとソラたちはどこか安心したような顔を見せる。ユリナたちもヒロムが元気になると嬉しそうに笑顔を見せるが、愛華は少し違った。
「ヒロムさん、意気込むのは大変いい事ですが間違えないようにしてくださいね。アナタは《センチネル・ガーディアン》の1人、それは言い方を変えればアナタは1人で背負うことなく頼れる存在がいるということです」
「分かってるさ。でも……他のヤツらがそう簡単に動くとは思えないからアイツらは最後の手段ってことだ」
「そうですか……鬼桜葉王に他の《センチネル・ガーディアン》の協力を要請するように話をしておきましょう」
「助かる」
「いえ、それより例の彼はどうするのです?
ヒロムさんのクラスに転校してきたあの子は……」
愛華が風乃ナギトの話題に話を変えるとヒロムにガイに視線を向ける。何かある、視線を向けられたガイはそう感じると何か言うでもなくヒロムの話を聞こうとする。
「少しオレの我儘に付き合ってくれるか?」
「少しで済むならいいけど……何をするんだ?」
「今ある面倒事の1つを解決させるのさ」
******
風乃ナギトは河川敷にいた。草原に座り込み、そこから見える川をただ見ていた。
「……」
何かするでもなく、別に何か目的があるでもなく、誰を待つでもなくナギトは川を見ていた。
「……」
静かに川を見つめ、時だけが過ぎる中……
「ここにいたのか」
川を眺めるナギトのもとへ誰かが歩いてくる。声のした方にナギトが目を向けるとそこには青い髪の少年がいた。少し細身の体、青い髪の少年を前にしてナギトはため息をつくとゆっくりと立ち上がる。
「……タクト、まさかキミが来るなんてね」
「オレが来るのがそんなに意外か?オレからすればスクールを抜けたオマエの決断の方が意外だったのにな」
「そうかもね。で、御剣たちの次はタクトなわけ?」
「オレは個人的にオマエに会いに来ただけだ。
ナギト、戻ってこい。オマエはその気になればスクールで上位に登り詰められる力を持ってる。オマエが戻りづらいならオレが手を貸す、だから……」
「それは出来ない。オレはもう、あそこには戻らない」
「……そうか。なら、仕方ない」
戻らない、そう答えたナギトの意思を前にして青い髪の少年は……勇波タクトは何かを諦めるような言い方をし、タクトが言葉を口にすると彼のそばに数人の少年が現れる。
現れた少年たちを前にしても動じる様子もなくナギトは立っており、そんなナギトにタクトは忠告する。
「オレはまだオマエのことを信じていたかった。何かの気の迷いで一時でもスクールから逃げ出したんだと思いたかった。でも、オマエに戻る意思がないなら……オレはここでオマエを終わらせる」
「終わるつもりは無いよ。オレはまだ何も学んでない」
「スクールから逃げて、スクールの外で何を学ぶって言うんだ?」
「ここでしか学べないことがあるんだ」
「そんなのは……」
「ずいぶんと盛り上がってるじゃねぇか」
タクトの言葉を遮るようにナギトのそばに颯爽とヒロムとガイが現れ、ヒロムとガイが現れるとタクトと少年たちは驚いたような反応を見せる。当然それはナギトも同じであり、ナギトはなぜ現れたのかをヒロムに問う。
「なんで来たの?アンタが手を出すことじゃ……」
「手ぇ出す出さねぇはどうでもいい。とりあえず、ナメられたまんまってのは気に入らねぇから来たんだよ」
「まさかタクトたちを……」
「安心しろ、風乃ナギト。オレもヒロムも彼らを攻撃する気は無い」
「え?」
「……転校生、オマエに提案に来たんだよ」




