41話 死への誘い手
「……ノーザン・ジャック!!」
「よぉ、葉王。
まだ死んでなかったか」
突然現れた青年を知る葉王が青年の名と思われる単語を強く口にすると青年は落ち着いた様子で葉王に視線を向ける。
現れたのが何者か、誰なのか分からないヒロム、ゼロ、ノアルが警戒して構えていると葉王はヒロムたちに下がれと言いたそうに目線を送る。
葉王の意図を理解するヒロムたちだが、敵の正体がわからぬ中黙って従うことに抵抗があるのか構えたまま動こうとしない。
そんなヒロムたちの姿を前にする青年は彼らを見ながら葉王に話していく。
「コイツらがオレたちを倒すため育てている能力者か。十神アルトを倒し企みを阻止した姫神ヒロム、闇に意思が宿り形となった半身のゼロ、そしてビーストの思惑を外れる形で覚醒と開花を経た東雲ノアル。他に雨月ガイ、相馬ソラ、黒川イクト、紅月シオン、鬼月真助がいるみたいだが……なるほど、数百年の時を生きてきたオマエが選んだだけあって潜在能力の高さは桁違いだな」
「……呪いを背負ッて生きてきた今までの中でオマエほど狂ってるヤツはいないけどなァ、ノーザン・ジャック。
《世界王府》のNO.2たるオマエが何の用だァ?」
「なっ……」
「《世界王府》の序列2位だと!?」
「この男が……《世界王府》で2番目に強いとされる男だということか?」
「そういうことだ。
理解が早くて関心するよ」
《世界王府》のNO.2、葉王がそれを言葉にして口にするとヒロムたちは驚き、そんな彼らのそばを誰も気づかぬ中で青年……ノーザン・ジャックは通り過ぎると葉王に歩み寄っていく。
通り過ぎる瞬間を気づけなかった、ヒロムとゼロは葉王に向かっていくノーザン・ジャックをここで仕留めようと動こうとする……のだが、2人が動こうとすると何か異常な力が圧となって2人に襲いかかり、その圧が2人の精神を圧倒しているのか動こうとしたヒロムとゼロはそのまま身動きが取れなくなってしまう。
「体が……!?」
「動かねぇ……!!」
「さすがは《センチネル・ガーディアン》にして十神アルトとそれに利用された能力者の愚行を阻止した《天獄》のリーダーと恐れを知らない闇だ。序列2位と聞いて怯むどころか背後から奇襲をかけて始末しようと考えるとはなかなか度胸がある」
「コイツ……!!」
(何なんだこの力は!!
能力とは訳が違う異質なこの力……!!体の中と心全てを見透かすような圧力と一瞬あればオレたちを殺せるとでも言ってるような殺気……!!
その殺気も肌で感じ取れないほど繊細なのにこんなに鋭いなんて……!!)
「精霊の使い手と闇の化身、たしかにヴィランが警戒をするように言う理由が分かるな。東雲ノアルの方はオレが横を通ったまでは認識しているが2人のように動こうとすることすら出来ない状態なのにな」
「なっ……」
「すまない……ヒロム……」
「……気にするな……」
(オレが《レディアント・アームズ》で何とか追い詰めたアザナに初手でダメージを与えるだけの力を得たノアルが動けなくなるだと!?コイツ、本当に何者なんだ……!!)
「……なるほど、面白いところに目をつけたな葉王。
能力者としてのリミッターが外れた能力者……別名がシンギュラリティの能力者。臨界点を超えし能力者の限界すら超える成長と力があればたしかに《世界王府》への対抗策とはなるだろうな」
「今知ッたわけでもないだろォ。
大方オレたちの狙いを理解しながらも野放しにしてたんだろうがァ。十神アルトの件も結局はオマエら《世界王府》が手を出せば阻止されるのを阻止できたはずなのによォ」
「十神アルト……ゼクスに関しては自業自得だ。
駒として能力者を権力で操ることはたしかにヴィランも悪意の1つとして気に入っていたみたいだが、あのタイミングでヴィランが指示を出していないのに独断で姫神ヒロムを始末しようと動いたのが仇となっただけ、それを助ける道理はない」
「さすがは国滅ぼしの《世界王府》。仲間意識は皆無、組織として世界の破壊のために行動してるッてかァ?」
ノーザン・ジャックは葉王にある程度近づくと足を止め、ノーザン・ジャックが足を止めると葉王はノアルから預かっているガウとバウを自分の後ろに隠れさせるとナギトのことを気にかけながらノーザン・ジャックの動きに警戒をする。
何故ナギトのことを気にかけるのか?
それは彼の実力がこの場にいる能力者の中で最も弱いからだ。ノーザン・ジャックを前にして動こうとする意思が働いたヒロムとゼロ、2人までとは行かずともその気持ちだけは心に持てていたノアル、ノーザン・ジャックを前に平然としていられる葉王とは異なり彼は能力者としての力が4人に比べると劣っている。
ヒロムが追い詰めたアザナ、アザナとヒロムの戦いを見守ることしか出来なかった彼ではノーザン・ジャックの異質な力を前に気を保つだけでも厳しいと葉王は考えていた。
だが、葉王がナギトのことを気にかけているとノーザン・ジャックは葉王に告げた。
「そこの民間人には手は出さん。そんな人間を殺してもなんの価値もないからな」
「お優しいことだァ。目撃者は必ず殺す絶対の暗殺者様が優しさを見せるとはなァ」
「……オマエのことは殺したくて仕方ないが今回はヴィランの指示が優先だ。アイツの指示を蔑ろにするのは許されないからな」
「ヴィランの指示だと?」
「今回はただの挨拶だ。オレの目的はヴィランの計画に外せないビーストの回収がメインだからな。それ以外の行動……この会話を除けば戦闘と暗殺は禁止されてるんだよ」
「NO.1のヴィランのご命令なら飼い犬のように尻尾振ッて応じるッてか?ずいぶんと余裕だなァ」
「お得意の言葉遊びはよせ。禁を解いてオマエと戦ってもオレはいいが、オマエの方は民間人と大事な能力者を失うことになるぞ」
「……人質ッてことか?」
「悪く言えばな。オレを前にして動けないなら人質にもならな……」
葉王との会話を淡々と続けるノーザン・ジャックが話している最中、動けぬはずのヒロムは白銀の稲妻を強く纏うと動き出し、動き出したヒロムはノーザン・ジャックに迫ると拳撃を放つ。
ヒロムが動けたことに驚くことも無くノーザン・ジャックはヒロムの拳を蹴りで防ぎ、攻撃を防いだノーザン・ジャックに更なる攻撃を仕掛けようとしたヒロムが動こうとするとノーザン・ジャックは音も立てずにアザナのそばへ移動する。
「この野郎……!!」
「驚いたな……。
ヴィランと接触して精神を追い詰められて疲弊してるはずなのにその精神力、まだそんなのを残していたか」
「あ?何の話だ?」
「よせ姫神ヒロムゥ。
ビーストと戦って疲労が溜まってる今のオマエがまともに戦える相手じャないィ」
「だとしても今ここで……」
「十神アルトを倒せたオマエでもヤツは倒せないィ。
ヤツは……ノーザン・ジャックはァ……これまで1人で10を超える国を壊滅させた暗殺者だァ」
葉王の口から明かされたこと、ノーザン・ジャックは……10を超える国を壊滅させたという言葉にヒロムたちは言葉を全て奪われてしまう。
国を壊滅させた、それだけを聞いても驚くことなのに目の前にいる序列2位のノーザン・ジャックは国を壊滅させるという行為を10を超える回数行っているというのだ。
対峙して異質な力を感じ取り、そしてそれを感じた上で今のを聞いたヒロムは武器や拳を交えることなく敵の底知れない強さを感じ取ってしまう。
格が違う、ヒロムがほんのわずかでもそう感じるとノーザン・ジャックは葉王に告げる。
「10を超える国を壊滅させたと言っても所詮は雑魚の寄せ集めだった。だがこの日本はちがう。オマエや国内最強の一条カズキ、そしてオマエらが育てているその能力者が相手なんだ。それなりに楽しんだ上で壊してやるから楽しみにしておけ」
「ならオマエも楽しみにしとけェ。勝つのは……オレたちだからなァ」
「……そのくらいの気持ちでなければ面白みがない。
次に会う時は……葬儀の用意でもしとけ」
別れの言葉を告げたノーザン・ジャックはアザナの肩の上に手を置くと彼と共に姿を消し、ノーザン・ジャックがアザナと消えるとヒロム、ゼロ、ノアル、ナギトは勢いよく膝から崩れ落ちる。
「ふざけやがって……!!」
「あれがオレたちの敵……」
「天才でも手が出せないって何なの……」
「クソ……!!」
(これが世界の名を冠するテロリストたちの操り手の組織の力……!!
オレたちは……)
「勝てるのか……?」




