40話 純粋な真の魔人
新たな力とも言えるノアルの右腕の変化とそこから放たれた闇と青色の雷を受けたアザナはダメージを負いながら吹き飛ばされる。アザナが吹き飛ばされるとノアルは自分の力に驚いたような顔を見せ、ヒロムも予想外の展開に呆然としていた。
「ノアルが覚醒した……?」
(でも何がどうなってそうなった?ノアルはヤツの策に落ちて力をほとんど奪われていたんだぞ?覚醒に至るにしても覚醒するのに必要となる能力である《魔人》の力がない状態で起こるものなのか?)
「何が起きて……」
「別に不思議な話じゃねぇよ」
ノアルの新たな力にヒロムが色々と考えているとゼロが話しかけ、話しかけてきたゼロは何か知っていると瞬時に察したヒロムは彼に問う。
「……オマエはノアルに何をしたんだ? 」
「何を、とは?」
「とぼけるな。ノアルは瀕死に近い状態で力を奪われてたんだ。そんなノアルがどうやって新しい力を得たんだ?」
「何があったっつうか、オマエは疑問に思わなかったのか?
あの東雲アザナってのはノアルの体から《魔人》の力を奪い取ったんだろ?なら何で……ガウは無事だった?」
「……ッ!!」
「なっ、言われたら不思議に思うだろ?能力を持たないオマエはその魂に繋がりを結ぶ形で精霊を宿しているタイプだがノアル含めたほかのヤツらは魂というよりは能力と繋がる形と言った方が形式は正しい。だとしたらノアルの体から力が消えた時点でガウは消滅してもおかしくなかった」
「でもガウは消えていなかった……」
「そう、ガウは消えるどころか苦しむ様子もなくただノアルのそばで悲しんでいた。繋がりを結ぶ力を失ったに等しいのに何故か……って考えたら答えって1個しかないだろ?」
「ノアルの体から奪われた力の他に……誰も知らない力があったってことか?」
「そういうことだ。実際のところガウを宿したのはオマエと出会った後にオマエとともに過ごしてる中でのことだ。アイツが口にしてた殺しを強いられていた過去とは無縁の中で生まれた精霊……つまりノアルの中で無意識に《魔人》の力の幾らかはノアルの意思に反応してガウとともに変化を成していたんだ。だからガウは消えなかった」
ゼロが語る話、それはあくまで仮説でしかない。だがノアルの身に起きた変化を前にしてしまえばたとえ偶然の出来事でも仮説を信じてしまいたくなる。
そんな中、ヒロムはまだ消えない疑問を解決すべくゼロに問う。
「なら何でその力を奪えなかった?」
「それは知らねぇよ」
「……適当だな、おい」
「それは多分繋がりの違いだなァ」
知らねぇと簡単に返すゼロにヒロムが呆れていると葉王が現れ、現れた葉王はヒロムが疑問に思っている奪われなかった理由について話していく。
「おそらくゼロが話していたガウが繋がりを結ぶ力はオマエと過ごす中で東雲ノアルが守りたいと潜在意識で願ったことで変質した力だァ。対してあの男が奪い取ろうとしたのは下等な生命と見下す人間を消し去る《魔人》としての力ァ。つまりだァ、奪おうとした力の本質と中にある力の本質とが一致してねェのなら意識してようがしてまいが奪えないッてことだァ」
「本質が変わったってのか?」
「そういうことだなァ。そうなったのは姫神ヒロムゥ、オマエが東雲ノアルと出会いコイツを正しく導いた証ッてことだァ」
「オレが……?」
ヒロム、とノアルはヒロムの名を呼ぶと彼に歩み寄り、歩み寄るとノアルはヒロムに伝えていく。
「今の葉王の話を聞いてもオレは自分の心が分からない。だけど、オレは今こうして何かを守るための力を宿せたと思うと嬉しく思う」
「ノアル……」
「過去の罪は死ぬまで消えないと思う。だが今この力が何かを守るために使えるのなら、オレはヒロムのため……この世界を守るために使いたいんだ」
「ガゥ!!」
「オレとガウはまだ無知だ。だからヒロム……オマエがオレたちを導いてくれ」
自分を導いてほしい、そう口にしたノアルの意思が彼の中で何かを引き起こし、彼の体から光となって現れるとガウの前で形を得ていく。
ガウのような小さな灰色の体、小さな手足のガウのような竜種の赤子と思われるものとなり、光が変化したそれは愛らしい目でガウを見つめる。
「……バゥ?」
「ガゥ?ガゥ!!」
現れた愛らしい灰色のそれが何か分からずガウは一瞬不思議そうな目で見るも何かを感じたのか突然それに駆け寄ると頬擦りをする。ガウに頬擦りをされるそれは嬉しそうにしており、その様子を見るヒロムはこの光景に驚きを隠せなかった。
「まさか……新しい精霊!?」
「らしいなァ。どうやら東雲ノアルの強い意志が新たな命を生み出したようだなァ。力の変化と生命の誕生……さしずめ純粋種の魔人が真の魔人となッたというところだなァ」
「バゥ〜」
「ガウがガゥって鳴くなら……バゥって鳴くコイツは……」
バウだ、とノアルはガウが頬擦りをするそれに歩み寄って腰を下ろすと左手で頭を撫でながら名前と呼ばれるものを口にし、ノアルが口にした《バウ》という言葉を聞いたそれは嬉しそうに鳴く。
嬉しそうに鳴く様子からそれの名は《バウ》となり、ノアルはガウとバウに優しく伝える。
「もうオレは傷つかない。ガウにもバウにも悲しい思いはさせない。だからオレのそばにいてくれ」
「ガゥ!!」
「バゥ!!」
「……ありがとう、2人とも。
葉王、すまないが2人を任せていいか?」
「2人というよりは2匹なんだがなァ。
まァいいィ、子守りは任せとけェ。オマエは……」
「オレは……オレたちはアイツを倒す!!」
ガウとバウを葉王に任せたノアルは立ち上がるとアザナの方を向いて構え、ノアルが構えるとヒロムは白銀の稲妻を纏いながら並び立ち、ゼロは黒いクロスボウ・《ディアボロ》を構える。
「慣れないだろうから手伝うぞ」
「クリーチャーの始末だけで体が訛ってんだ。アイツをオレに殺させろ」
「2人とも、ありがとう」
「……反吐が出る」
ノアルの一撃を受けて吹き飛ばされていたアザナはノアルたちに向けて冷たく吐き捨てるように言うと立ち上がり、立ち上がったアザナは闇を纏っていく。
纏われる闇、それは徐々にどす黒く染まるとより強い力を秘めながら膨れ上がっていき、大きくなるドス黒い闇を前にしてヒロムは白銀の稲妻を強くさせる。
「コイツ、まだこんな力を……!!」
「弱そうに見えても《世界王府》、それなりの力はあるってことだろうな」
「それでもここで止める。これ以上クリーチャーを生み出させない為にも……《魔人》の力をこれ以上悪用させない為にも!!」
アザナの闇がさらに濃く、さらに強くなる中でヒロムたちは強い意志を持って構え、ヒロムたちが構えるとアザナは彼らを殺そうと動こうとした。しかし……
「そこまでだビースト」
何かがアザナのことを《ビースト》と呼ぶと彼が発する闇が消され、そして音も発することなくアザナとヒロムたちの間に何かが現れる。
黒いロングコートに身を包み至る所にベルトを巻き、金色のメッシュの入った黒髪の青年。鋭い爪を有したガントレットを装備したその青年が現れると葉王の顔色が変わる。
「アイツはァ……ノーザン・ジャック!!」
「よぉ、葉王。
まだ死んでなかったか」




