39話 何かのために戦いたい
満身創痍の体で現れたノアル。そのノアルは自らの手でアザナを終わらせると宣告するが、それを聞いたアザナは笑うしか無かった。
「ハハハハハ!!何を言い出すかと思えばオマエがオレを終わらせる?笑わせるよ。オレに力を奪い取られて微かにしか残っていない力で何とか持ち堪えてるオマエがオレを倒せると思ってるのか?」
「……それでもオレはアンタを倒す。オレのせいでアンタが道を違えたのならオレが終わらせなきゃならない」
「戯言を。手負いかつまともに力も使えないオマエなど相手にもならん」
「それは……やってみないと分からないことだ」
アザナの言葉に反論するノアルだが、アザナが指摘するように彼の体は万全ではなく、声を出すだけでノアルは息を切らしている。
間違いなく無理してここに来たのが分かる。ヒロムは何故ここに来たのかをノアルに問おうとする。
「ノアル、何で来た?オマエが目を覚ましてるのも不思議な話だけど、そんな体で病室抜けるなんて母さんが許さなかったはずだ」
「それは……」
「オレが連れてきたからな」
ヒロムの質問にノアルが答えようとするとヒロムのそばに闇とともにゼロが颯爽と現れ、現れたゼロはヒロムにノアルをここにいる理由について話していく。
「オレがコイツの目を覚まさせて連れてきた。敵から力を取り返すにも元々の持ち主の体がそばになかったらレジ袋にでも入れて持ち帰る羽目になるだろうと思ったからな」
「おい、ゼロ。母さんが許したのか?」
「母さん?ああ、姫神愛華か。あの女はこの事を知らない」
「なっ……」
「あの女なら病院の警備を頼れる兵士共に任せて自分が責任を持ってユリナたちを運びに行ってて不在だった。だからあの女にも病院のヤツらにも黙って連れてきた」
「ふざけんなよ?何か起きなくても勝手なことしたってオレが怒られるんだぞ」
「んな事言うなよ。つうか、いいのか?そんな呑気に話し込んでて」
「何を……」
ゼロが何を言いたいのかとヒロムが気にしているとヒロムが纏う《レディアント・アームズ》が光となって消えてしまう。武装が消えたことにヒロムが驚きを隠せないでいるとゼロは消えた理由について話していく。
「持続時間にはまだ達してないようだがオマエは大丈夫そうに見えてあの《世界王府》のリーダーと対峙して精神をそれなりに摩耗させられて疲弊してたんだ。体はともかく精神面が万全でない状態ならそれを維持するのは難しいだろ」
「見抜いてたのか?」
「大方それを使う時はもっと余裕のある戦い方をするのがオマエだ。それなのに大雑把な攻撃かつ大技を何度も放って仕留めようとしていたのを見れば自分で理解しながらも悟れぬようにしてたってとこだろ?」
「……どう責任取るつもりだ?」
「あん?」
「今のノアルは正直足でまといだ。オレはアイツを死なせたくないからオレが終わらせようとしたのに……」
「たしかに今のままならな。でも、案外そうでもないんだよ」
何かを知っているような口振りのゼロ。そのゼロの言葉の意味をヒロムが分からないでいる中ノアルはフラつく体を進ませようとする。
あまりにも危険すぎる、そうヒロムが感じているとアザナの消し飛んでいた筈の、片腕が再生を終えて元に戻り、アザナはノアルを睨みながら闇を纏っていく。
「愚か者だと思っていたが度胸だけは1人前だな。その度胸だけは認めてやるが他はクソだ。オマエの望み通りに……終わらせるよ、オマエを」
「……そうだな、兄さん」
アザナがノアルを殺そうと闇を右手に集める中満身創痍のノアルはフラつきながら進もうとする。そんなノアルのもとへと魔力を纏いながら走ってきたナギトが立ち塞がり、ナギトは彼を止めようとする。
「キミは……?」
「ごめん、邪魔して。アンタは行くべきじゃない。アンタが行って殺されでもしたら天才がここまで頑張ったことの全てが無駄になる。だから行かせられない」
「……そうか……キミがヒロムの言っていた転校生か。
そこをどいてくれ……」
「声を出すだけで息を切らしてるアンタが行けば確実に殺される。そんなアンタを行かせるなんて……」
いいんだ、とノアルはナギトに向けて言うと止まろうとせずゆっくり歩きながら彼に向けて自分の意思を明かしていく。
「オレは元々人殺しの道具として利用されるためだけに生かされていた。来る日も来る日も《魔人》の力で人を殺させられ……その力をヒロムが止めたあの男の悪事に使われた。ヒロムが止めたあの事件はヒロムの功績と《センチネル・ガーディアン》の任命とでハッキリさせられずに終わったが……オレの中には暴かれないままだった自分の罪が重荷でしかなかった……」
「だから死にに行くっての?」
「……あの男にやられて力を奪われた時、オレは……心のどこかでそれを望んだ。ここで終われるのならオレは楽になれる……そんな風に考えた。でも……同時にオレは抱いたんだ。罪に汚れた力を奪われてもやり直せるのなら……誰かのために戦いたいと。オレは今度こそ誰かのために力を使える人間になりたいって」
「東雲ノアル……」
「……ヒロムと過ごす中で色んなことを学んだ。だからこそ望んだんだ。オレは……」
「ガゥ!!」
ノアルがナギトに話しているとノアルの後ろから彼の宿す可愛らしい精霊・ガウが鳴き、ガウが鳴くとノアルは優しく頷くとナギトに伝えた。
「……オレは1人じゃ無力だ。何も知らないし世間のことも理解出来ていない。だからこそオレはこの子と……ガウと1から学んで生きたいんだ」
「ガゥ!!」
「それがアンタの戦う理由なの?」
「そうだ……だからオレは止まれない。
オレたちはまだ……何も知れてないから……!!」
ナギトに向けてノアルが自分の意思を伝えると彼の胸もとに光が現れ、現れた光は紫色の輝きを放っていく。
突然のことに驚きを隠せないノアルだが、ノアルは紫色の輝きを前にして何故か落ち着いた様子を保っていた。
「……そうか、オレはまだ掴めていなかったんだな」
優しく微笑むとノアルは輝きを放つ光を手に取り、ノアルが光を手に取ると彼の全身が紫色の輝きを帯びていく。輝きを帯びるノアルの体から傷が消えていき、ノアルの体から全ての傷が消えると彼の乱れた呼吸が元に戻る。と同時に輝きは紫色の炎となってノアルに纏われる。
突然のこと、ノアルの体が万全となったことにアザナは信じられないといった顔を見せながら拳を握り、そしてノアルを睨みながら彼に問う。
「オマエは今何をした?」
「……何が起きたかは分からない。けど、この力は多分オレのために現れたのだと思ってる」
「ふざけるなよ……?
オマエの中からほとんどの力を奪ったんだ。それなのに!!
オレが知らない力をオマエが持ってるはずなないんだよ!!」
アザナは闇を強く纏うとノアルに向けて走り出し、アザナが走り出すとノアルはナギトの横を通ると前に出て右手を前に出す。
「恥晒しが……《魔人》の名に泥を塗るような真似をするオマエに力など宿るはずがない!!」
「オレは忌み子で愚か者なのかもしれない。けどオレは……そんなオレを信じてくれる仲間たちや人々を守るために生きたい!!
僅かな希望も守れるような力を宿せるならオレは……オレが《魔人》の全てを覆してでもこの手で守ってみせる!!」
ノアルが強い意志を口にすると彼の右腕が紫色の炎に包まれながら変化していく。紫色の炎は闇へと変化しながら青色の雷を発生させ、ノアルの右腕は紫色に染まると細身かつメカニカルな姿へと変化すると前腕部に盾のようなものを形成、さらに爪を細身かつ鋭利なものへ変化させる。
「魔人化させただと!?」
「これまでのとは違う。この魔人化は……誰かを守り助けるための力だ!!」
変化した右腕に力を強く纏わせたノアルは闇とともに青色の雷を発生させながらアザナに向けて攻撃を放ち、ノアルに応戦しようとアザナも攻撃を放つ……のだが、アザナが放った攻撃とぶつかったノアルの攻撃は敵の攻撃を簡単に押し退けるとそのまま敵に命中してダメージを与える。
「何!?」
「いくぞ兄さん……いや、東雲アザナ!!
オマエのその歪んだ心はオレが解放する!!」




