37話 生命のライン
激しさを増していく戦闘。ヒロムとアザナの戦闘は生半可な覚悟では買いにゆくすら出来ないほどに激しさを増しており、廃工場で繰り広げられていた戦いはそこを飛び出て徐々に市街地の方へとズレながら続いていた。
大剣や刀、銃剣、槍の武器を追従させるように浮遊させながら黒い太刀を構えるヒロムは敵を殺そうと猛攻を放っており、ノアルの力と同化しつつあるアザナは力を増している《魔人》の力で変化させた両腕で防ぎながらヒロムの肉を引き裂こうと攻撃を放つ。
互いが互いを殺そうと攻撃を放ち、命を奪おうと放たれる攻撃を互いに避けながら鬼気迫る戦いを展開している。
その戦いの様子をヒロムに同行して来ていたナギトは戦いに介入出来ぬまま2人の戦いを見届けるかのように距離が離れたところから見ていた。見ていた……というのは語弊があるかもしれない。ヒロムとアザナ、2人の戦いを前にしてナギトは介入することが出来ずに傍観者となるしか無かったのだ。
「これが……《世界王府》との戦い……」
(スケールが違いすぎる。オレは心のどこかで姫野さんの護衛をいっとき引き受けてクリーチャーの相手をできたことから多少は天才の戦いについていけると思ってた。でも……現実は甘くなかった。姫神ヒロムの強さは次元が違いすぎる。対等とまでは行かなくてもそれなりにと思ってたのに……)
「これじゃオレは勘違いしてるだけのガキじゃないか」
「だがその勘違いに気づくことこそが強くなるための1歩となるゥ」
ヒロムとアザナの戦いを見ながら己の未熟さを痛感するナギトのそばに鬼桜葉王が音も立てずに現れ、葉王の登場にナギトが驚いているとナギトのそばにヒロムの精霊であるステラが光とともに現れて葉王に話しかける。
「何かありましたか?」
「いいやァ、別にィ。オレはただ戦いの経過観察に来ただけだァ。最悪の場合はアイツに加勢しなきャならないだろうからなァ」
「……ありがとうございます。おそらくマスターはノアルの力が同化するのを防ぐことは諦めてると思われます。あのアザナという男、あの男が内側に秘めている得体の知れないものを感じ取って早々に討つ方に方針を変えられたのでしょう」
「いい判断だなァ。下手に奥手になって力を蓄えられるよりは幾分かマシだァ」
「……一応聞きますがガイたちは?」
「全員無事だァ。何なら街に現れたクリーチャーのほとんどを始末している最中だァ」
「そうですか」
「それよりィ……久しぶりに会うなァ、風乃ナギトォ」
ステラに一通り話すことを話したであろう葉王は視線をナギトに向けると彼に話しかける。話しかけられたナギトは緊張でもしているのか表情が固くなり、彼の表情の固さに葉王は鼻で笑うと彼に言った。
「強さとは何かを知るためにスクールを飛び出したのに何ビビッてんだァ?そんなんじャァ姫神ヒロムのようにはなれねェぞォ」
「……お久しぶりです。アナタはオレの気持ちを汲み取って姫神ヒロムのいる姫城学園へ行くための手続きをしてくれた。そのことは感謝しています。同時に……オレはアナタに疑問を抱いています」
「それはスクールの教育方針についてかァ?」
「はい。オレを始末しようと現れた御剣たちもそうですが、スクールの外の戦いはスクールでは教えていないようなことばかりです。ランキング上位になればいい職につけるなんて話、今になれば不釣り合いな報酬でしかない。《フラグメントスクール》の教育方針がおかしいのは一目瞭然、なのに何故アナタは野放しにしてるんですか?」
「……なァ、ナギトォ。オレがなんで50位手前のオマエの頼みを聞き受けたと思うゥ?」
葉王の質問、その質問を前にしてナギトは答えられなかった。《フラグメントスクール》を抜けたナギトに葉王が手を貸した、その事についてナギト自身は何かしらの理由があるだろうとは思っていた。だが実際にそれについて問われればどう答えていいのか分からなくなる。
「分からないです」
分からない、そう答えるしか無かったナギトだが、ナギトの答えを聞いた葉王は彼に向けて優しく教えた。
「深くは教えられないが《フラグメントスクール》のランキングは飾りだァ。あの飾りが外に出て役に立つことはないしィ、《フラグメントスクール》にいたなんて履歴に書いても無視されるゥ。あそこの真意はランキングとは別にあるわけだがァ、オマエはあそこにいる誰よりも先にその真意に気がついたァ。だからオレはオマエに手を貸したんだァ」
「真意……?」
「……今はまだ分からなくていいィ。ただ目を逸らすことなくアイツの……天才の戦いを見ておけェ。《世界王府》に対抗するための《センチネル・ガーディアン》、それが名前だけでないことをなァ」
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「はぁぁぁあ!!
異種二刀……覇王乱撃斬!!」
黒い太刀を片手に持つヒロムはそばを追従させるように浮遊させている大剣をもう片方の手に持つと異種二刀流となって更なる猛攻を放ち、アザナはそれを闇を強く纏わせた黒く染まりし右腕で全てを防ぎ止める。攻撃を防ぎ止めたアザナはヒロムに向けて左手でビーム状の闇を放っていくが、ヒロムはそれを黒い太刀で両断して消してしまう。
「ふっ……やるな、姫神ヒロム。
さすがは《覇王》の名を持ち《センチネル・ガーディアン》に選ばれただけのことはある。そして悪にしか関心を抱かないヴィランに興味を抱かせたその力、下等な生命として終わらせるには惜しいぞ」
「まだ言ってんのか、クソが。
弟よりも己の欲を優先したクソ野郎がいつまでも他人を見下してんじゃねぇよ」
「欲、か。なら聞くがオマエに欲はないのか?下等な生命である人間、その人間は醜い欲に塗れている。愚かで滑稽な欲塗れの下等な生命、それが人間だ。オマエら人間はその欲を認めない、それ故に下等なんだよ」
「欲に塗れているのが下等な生命ってんならオマエも下等な生命ってことだよな?」
「何?」
自身の言葉に対するヒロムの一言、その一言を受けたアザナはヒロムを冷たい眼差しで睨むと両手の爪を鋭くさせながら闇を纏わせると刀剣のように斬撃を放ちながら襲いかかる。アザナの放つ斬撃をヒロムは大剣で防ぎ止めると黒い太刀を手放して銃剣へと持ち直して炎を撃ち放って迎撃し、炎を避けたアザナはヒロムに迫ると彼に爪による突きを放つ。
アザナの攻撃をヒロムは銃剣で防ぎ止め、攻撃を止められたアザナは《魔人》の力で徐々に身体を黒く染めながらヒロムに向けて強く言った。
「オレのどこが貴様ら下等な生命と同じだと言う!!
オレは人間を超越した!!それ故にクリーチャーを従えし魔人の王として存在している!!それなのに貴様はオレを人間と同列だと言いたいのか!!」
「命ってのは誰にでも平等に与えられるものだ。その命をどうやって輝かせるか、それこそが人が真に示すべき答えだ。そこから目を逸らして力に固執しているオマエの方が誰よりも愚かで醜いんだよ!!」
「綺麗な言葉を並べて説法のつもりか?無駄なことを。
そうやって人は他人を騙して生きる。そんな人間を生かしておいて何の価値がある?」
「そんなのは個人が決めていくことだ。オマエがとやかく言うことじゃねぇんだよ!!」
アザナの言葉を強く否定するとヒロムは彼を蹴り飛ばし、彼を蹴り飛ばしたヒロムは大剣と銃剣を投げ捨てると白銀の稲妻を全身に強く纏う。
「……いくぞ、《レディアント》。
オマエの力、オレに貸せ!!」




