34話 冷酷な覇王
ヒロムは自らの目を疑いたかった。ここへと来たのは仲間であるノアルを助けるため、そのためにアザナを倒さなければならないからここへ来た。その上でアザナを倒そうとしていた、なのに……
ヒロムの攻撃を防いだアザナ自身の《魔人》の力で赤く染まっているはずの両手は黒く染まっていた。黒く染まったその両腕、その姿はヒロムが何度も見てきたノアルが《魔人》の力を発動させた時の姿に似ているのだ。
何故だ?何故だ?
「どういう事だ……?
何でノアルと同じように……」
(そもそも《魔人》の力による身体変化に個体差があるかすら曖昧だが、ここまでの感じからしてノアルの変化とアイツの変化には別と言えるだけの差はあったはずだ。なのに、何で……)
「オマエ、何をした……!!」
「オレは何もしていない。さっきも言ったがオマエの存在とその力が同化する手助けとなってくれたんだよ」
「ふざけたことを言うな。オレはオマエとノアルの力を同化させないためにオマエに攻撃を……」
アザナに反論しようとしたヒロムが言葉を発する中、ヒロムは自身が言おうとした言葉の途中で何かに気づくとアザナを睨みながら彼に問い詰める。
「オマエ……オレを騙したのか?」
「フフフ……ハハハハハハハ!!
傑作だよ姫神ヒロム!!あまりに純粋すぎて笑えてくる!!」
「オマエ……最初からオレをその気にさせるためにあんな事を言ったのか!!」
「その通りだよ。オマエは別に何か手立てがあって攻撃してきたわけじゃ無さそうだったからな。だからオレはあえて魔力を消耗すればオマエの望みが叶うようにわざと口を滑らせた。怒りを抱きながらも冷静な判断をするオマエは当然それを聞き逃すことも無く親切にそれを聞き入れ、オレを追い詰めて魔力を使わせて同化を阻止しようとしてくれたわけだが……確証もないことに対して何の違和感も感じずにオマエが攻撃してくれたことでオレの力はある特殊な反応を引き起こしてくれた」
「特殊な反応だと?」
「下等な生命たる精霊とそれを使役する人間に上位種たる《魔人》の力が劣るはずがない、それをオレだけでなくオレの中の《魔人》の力も思っていたらしくてな……オレの力はそれを証明するべくあの愚か者の力を急激に取り込み同化させたのさ」
「なっ……」
「そのために天才の攻撃を受け続けてたの……?
殺されるかもしれないのに、何で……」
「言葉には気をつけろよ雑魚。
オマエはともかくオレが精霊に頼るだけの男に殺されるはずがない。オレは強い、だからこそ姫神ヒロムの攻撃を受けても問題ないと判断出来たのさ」
「イカれてる……」
「所詮この世そのものがイカれてるのだから個人が他の価値観の外にあろうがそんなものは気に留める必要のないこと。ならばオレはオレのやることをやるだけ、そのために必要なものを利用したに過ぎない」
イカれてる、ナギトのその一言を受けてもアザナは何食わぬ顔で語っていく。だが、アザナの語る言葉を前にしてヒロムは白銀の稲妻を強く纏うと敵を強く睨み、双剣を構えたまま敵を強く睨んだまま走り出す。
ヒロムが走り出したことにナギトが驚いていてもヒロムはそれを気にすることなくアザナに迫っていき、アザナに迫ったヒロムは迷うことなく双剣でアザナを殺そうと一撃を放つ。
が、アザナは《魔人》の力で変化した腕で防ぎ止め、攻撃を止めたアザナは不敵な笑みを見せながらヒロムに告げる。
「オマエがオレを倒そうと意気込むのは勝手だがその判断によって愚か者を救う術は薄れゆくだけだ。それを理解していないのならやはりオマエは……」
「うるせぇ」
アザナの言葉を最後まで聞こうとすることなくヒロムは双剣で斬りかかり、ヒロムの双剣の攻撃をアザナは体を右側に移動させる形で回避すると呆れながらカウンターの一撃を放とうとした。しかし……
アザナがヒロムにカウンターを仕掛けようとするとヒロムの後方から勢いよく大剣が飛んできてアザナに襲いかかり、襲いかかってきた大剣を前にしてアザナは体勢を多少崩しながらも防ぐとそれを後ろへと流し飛ばす。大剣を何とかしたアザナ、そのアザナに向けて今度はどこからともなく光弾と炎の弾丸が飛んでくるとアザナに襲いかかって命中、弾丸が命中するとアザナは仰け反ってしまう。
「!?」
「まだ終わらねぇ」
ヒロムは手に持つ双剣を投げ捨てると琥珀色の稲妻を両手に纏わせ、琥珀色の稲妻をガントレットに変化させて装備したヒロムはアザナに接近すると拳の連撃を叩き込んでいく。
拳撃を受けるアザナは防御することも反撃することも出来ぬままヒロムの攻撃を一方的に受けてしまい、攻撃を放つヒロムは拳に力を溜めるとアザナを殴り飛ばす。
殴り飛ばされたアザナは勢いよく地に叩きつけられてしまうも何とかして体勢を立て直して構えようとするが、立ち上がったアザナに向けて先程ヒロムが投げ捨てた双剣が矢のように勢いよく飛んできてアザナに襲いかかる。
「くっ……!!」
飛んでくる双剣をアザナは両手に闇を纏わせると破壊しようとするが、アザナが破壊しようと攻撃を放とうとすると双剣は緑色の稲妻へと変化していくとアザナが両手に纏わせる闇を消滅させるようにぶつかり、アザナの闇は緑色の稲妻によってかき消されてしまう。
闇が消された、その事にアザナが一瞬だけ驚いているとヒロムはいつの間にか黒い太刀を構えてアザナの背後へ移動しており、アザナがそれに気づく前にヒロムは太刀に黒い稲妻を纏わせると強力な一撃を背後からアザナに食らわせる。反応することすら出来ずに身に受けてしまったアザナは吹き飛ばされると倒れてしまい、倒れたアザナが《魔人》の再生能力で背中の負傷を治しながら立ち上がろうとするとヒロムは太刀を投げ捨てて彼に言った。
「オマエが何企んでたかはよく理解した。その上で言っておくが……その程度の企みでオレを止められると思うな。オマエがノアルの力を同化させたならノアルの力を取り出せるようにオマエを殺すだけだ。オマエを殺してからでもゆっくり取り出せるだろうからな」
「オマエ……!!」
「ノアルの力と同化したとしれば手を止めるとでも?甘いんだよ。オレはノアルを助けるためなら手段は選ばない。オマエの四肢を引きちぎることになっても殺す、オマエが命乞いをしても殺す……オマエが生きている限りオレはオマエを殺す気で攻撃する」
「イカれてるなオマエ!!
あの愚か者の力を同化させた後に無事に取り出せるかはっきりしないのに躊躇いなく殺すのか!!」
「うるせぇぞカス。散々クリーチャーで人々を恐怖に追い詰めてきたオマエには最初から死以外の道は用意されていないんだよ。未来で死ぬかここで死ぬかの差……ならオレはここでオマエを殺して終わらせる」
「くっ……!!イカれてるクソガキだな!!」
「何とでも言え。オレにこんな決断をさせたのはオマエなんだからな。オマエに何を言われても今更すぎて何も感じねぇんだよ」
「……そうか、そうか、そうか!!
それならばオマエに面白いことを教えてやろう!!オマエはここに来る途中で実験体に遭遇したろ?」
「実験体?」
「天才とオレが倒した言葉を話すあの化け物のこと?」
「その通りだ。あの愚か者の力を取り込んだことでオレはこれまでに無い高性能なクリーチャーを生み出せるようになった。それをもし、時間差で街に出現させることが出来るとしたら……オマエはどうする?」
「……」
「あの化け物を時間差で……!?」
「オマエらは迷うことなくここに来たみたいだが、《センチネル・ガーディアン》のオマエがここにいる以上街の守りは手薄に等しい。そんな街にクリーチャーが現れたら誰が対処する?対処出来ないだろ?つまりこのままいけば街は……」
笑わせるな、とヒロムは両手のガントレットを消すと不敵な笑みを浮かべながら語るアザナに冷たく告げた。
「オレがいなければ街は壊せると?ふざけたことを言うな。オレが何のために真助をガイたちのもとに向かわせたと思ってやがる」
「真助?ガイ?オマエの仲間が何だと?」
「オレがアイツらとここに来なかったのはオマエが物を媒体にクリーチャーを呼び出した時に対処できるように戦力をバラけさせるためだ」
「なっ……まさかオレと同じように布石を!?」
「ナメんなよビースト……いや、東雲アザナ。
オマエが何か企んでるならオレたちが止めるだけだ。守るために戦う、今のオレたち《天獄》が簡単に崩せると思うなよ」




