33話 下等な生命
闇を強く纏いながらヒロムに力の差を見せつけようと企むアザナ。対するヒロムは首を鳴らすと静かに拳を構え、ナギトも魔力を足に纏わせると構える。
ヒロムはともかくナギトがここにいることが不思議に思えるのかアザナはヒロムに何故ナギトがここにいるのかを問う。
「何故民間人の……それも大した実力もない下等な生命を連れてきた?オマエみたいな足でまといにしかならないよつなそんなガキがこれから始まるオマエもオレとの戦いについてこれると思ってるのか?」
「別にどうでもいいだろ。大体、この転校生には戦う意思がある。戦う意思があるならオレが共に戦う理由としては十分だろ」
「くだらない……。オマエのことを多少は認めようと思っていたが間違いだったようだな。オマエを倒してそれを分からせてやるよ!!」
「やれるもんならやってみろ。テメェがその魂に宿してるもん全部燃やしてオレを滾らせてみやがれ!!」
ヒロムを倒すと宣言したアザナは右腕を赤く染めると硬質化させた上で爪を鋭くし、爪を鋭利にさせるとヒロムを殺そうと動き出す。アザナが動き出すと負けじとヒロムは白銀の稲妻を強く纏って走り出し、ヒロムに続くようにナギトも走り出す。
走り出したヒロムは一気に距離を詰めると殴り掛かるが、アザナはヒロムの攻撃を回避して右手で攻撃を放とうとする。が、アザナが攻撃を放とうとするとヒロムに遅れる形でナギトが接近してきて蹴りを放ち、放たれた蹴りが攻撃を放とうとするアザナの動きを止める。
「あ?」
「ごめん、クソ野郎。天才はやらせないよ」
「下等な生命でしかない雑魚が……オレに触れるな!!」
させねぇ、とヒロムはナギトを守るように白銀の稲妻を纏わせた蹴りでアザナを蹴り飛ばし、蹴りを受けたアザナは何とかして立て直すと衝撃波を闇とともに撃ち放つ。放たれる攻撃を前にしてヒロムとナギトは左右に分かれるように走り出すことで攻撃を回避し、攻撃を回避したナギトはすかさずアザナの方へと向けて走っていく。
「天才やクソ野郎のアンタに比べたら雑魚で間違いないけどオレと天才のコンビはアンタに負けないから」
「ふざけたことを!!」
接近してくるナギトに苛立ちをぶつけようとするアザナは左腕も赤く染めて硬質化させると爪を鋭利に尖らせ、両手の爪を鋭くしたアザナはナギトの肉を引き裂こうと攻撃を放つ。だがナギトはアザナが攻撃を放つ瞬間のスキを見抜いたのか地を強く蹴るとアザナの頭を飛び越えるように高く跳び、アザナの攻撃が空を斬る間に敵の背後へと移動を終えたナギトは右足に魔力を纏わせると蹴りを食らわせようと攻撃した。
しかし……
ナギトの攻撃が放たれるよりも前にアザナの背中の一部が膨らむとそれは不気味な腕へ変貌し、不気味な腕はナギトの蹴りを防ぎ止めてしまう。
「!?」
「……オマエの武器が機動力というのは簡単に見抜ける。そして、オマエはそれだけしかない」
攻撃を防がれたナギトの動きが止まっているとアザナの背中から現れた不気味な腕がナギトを殴り飛ばし、殴り飛ばされたナギトが地に倒れるとアザナはナギトの方を向くと彼に近づこうとする……が、アザナがナギトの方を向くと同時にヒロムが背後へ現れ、ヒロムは金色の装飾の施された大剣を横薙ぎに振ってアザナの頭部を首から切り落とそうと一撃を放つ。大剣は見事に命中したが、大剣が命中したアザナの首は両腕のように赤く染まって硬質化しており、ヒロムの狙い通りになることなく攻撃が終わってしまう。
「今のに反応出来るのか」
「キサマ……!!
殺すことに躊躇いすら無いのか!!」
「あるわけないだろ。オマエみたいなクズに情けを感じることも躊躇う理由もない」
「だが急ぐ理由はあるんだろ?あの愚か者を救うにはオレが奪った《魔人》の力を取り戻す必要があり、その力は今もオレと同化しつつある。それを阻止するためにもオマエは焦っているんだろ?」
「理解してるなら……黙って殺されろ」
ヒロムは大剣を手放すと紫色の刀を出現させて装備し、手に持った刀な紫色の稲妻を纏わせるとアザナを斬ろうと一閃を放つ。
が、アザナはヒロムの攻撃の軌道の外に逃げることで回避し、回避したアザナはそこから転じてヒロムを爪で貫こうと試みる……が、先程ヒロムが手放した大剣のもとへと精霊・フレイが現れ、現れたフレイは大剣を掴むとヒロムを守るようにアザナの攻撃を大剣を盾にして止める。
「精霊が……!!」
「させませんよ」
攻撃を止めたフレイは大剣を振ってアザナを弾き飛ばし、弾き飛ばされたアザナにヒロムとフレイは稲妻を撃ち放ってアザナを仕留めようとした。だが、アザナはそんなに簡単に倒されてはくれない。闇を強く放出させるとヒロムとフレイが放った稲妻を相殺し、さらに続けて闇を放出させると闇の中から次々にクリーチャーを出現させる。
「あまり魔力を使わせるなよ……。せっかく馴染みかけてた力が馴染まなくなるだろ」
「そうかよ。なら……魔力を使わせるだけだ。
来い!!ユリア!!セツナ!!」
ヒロムが叫ぶと緑色の稲妻と黒色の稲妻が彼の両手の白銀のブレスレットから放たれ、放たれた2色の稲妻は人の姿を得て変化していく。
1人は緑色の髪を邪魔にならぬように後ろでまとめた髪型をしており、最低限の防御性しか持たないであろうアーマーを機動性を失わないレベルで装備しており、緑色の双剣を装備した少女で、もう1人は長い黒髪に鮮血のような赤い瞳、肩と腕を露出させ、膝から下をも露出させるような黒いドレスを着た黒い太刀を持った少女。
精霊、それだと思われる2人の少女は武器を構え、武器を構える少女たちにヒロムは指示を出す。
「ユリア、セツナ!!目の前の敵をぶっ潰せ!!」
「「はっ!!」」
ヒロムが指示を出すと双剣を装備した少女の精霊・ユリアは緑色の稲妻を、太刀を持った少女の精霊・セツナは黒い稲妻を纏うと同時に走り出してアザナが出現させたクリーチャーの群れの中に突っ込んでいき、2人の精霊は驚くべき速さで群がる雑魚を薙ぎ倒していく。
ユリアとセツナがクリーチャーの群れをほぼ壊滅させるとヒロムは緑色の稲妻を両手に纏わせるとそれをユリアのもつ武器と同じ双剣へと変化させて装備してアザナに接近し、アザナに接近すると同時にヒロムは双剣の一撃を放ってアザナを仕留めようと試みた。だがアザナは両腕を交差させる形で防御の態勢をとるとヒロムの攻撃を防ぎ止め、ヒロムの攻撃を防ぎ止めた際に受けた力の余波によりアザナは軽く吹き飛ばされてしまう。
体勢を崩すほどではない吹き飛ばされ方だったためかアザナは簡単に立て直すと右手に闇を強く纏わせながらヒロムに向けて闇を炎のように解き放ち、アザナの放った闇を前にしてヒロムは緑色の稲妻を双剣に纏わせながら斬撃を飛ばすと敵の攻撃を相殺させる。
「なかなか硬いな」
「オマエこそ……下等な精霊を操るとは思えぬほどに強いな。
その力があれば《世界王府》の描く未来を早く実現出来るのに……惜しいものだな」
「うるせぇクズ。オマエら《世界王府》の能力者は排除しなきゃならない存在だ。そんなヤツらと同じ空気を吸うくらいならオレがオレである間に自害した方がマシだ」
「考え方が幼稚だな。ヴィランほどの人間に気に入られながら道を間違えるとはな。だが……そんなオマエだからこそこの力を試す価値がある!!」
アザナが全身に闇を強く纏う。ただ力を示すだけの行為だと安易に流そうとしたヒロムだったが、たまたま……たまたま視界に入った《それ》を前にしてヒロムは驚きを隠せなかった。
「オマエ、それは……!?」
「感謝するぞ、姫神ヒロム。オマエの存在が……オマエの力があの愚か者の力をオレの力と同化する手助けとなってくれた!!」
ヒロムが目にしたもの……それは……黒く染まったアザナの両腕だった。その黒く染まった腕、その姿はまるでノアルが使っていた力のようであり……




