32話 歪な命
「グゲ……ゲゲゲ……」
吹き飛ばされたナギトが倒れる中、化け物はゆっくりとナギトの方へ向けて歩き出す。その中で化け物は鳴き声なのか何なのか分からない声を出し、ナギトが何とかして立ち上がろうとする中で化け物はナギトが想像すらしていない事をしてしまう。
「グゲ……グゲ……ブザマ……」
「え……?」
「ブザマ……ブザマ……無様だな」
気のせいかとナギトは思おうとした。だが今化け物は明らかに人の言葉を話した。
「コイツ……人の言葉を使うの……!?」
「人の言葉……?これが?
下等な生命の言語、口にするのは容易い」
「下等な生命……?」
「そう、我ら《魔人》はオマエたちのような下等な生命とは違う。我らは成長を重ね、いつしかこの世界を支配する」
「……《魔人》ってあのクリーチャーとか呼ばれるやつ?アイツらに知能なんて無さそうだったのに……」
「我らの主たるあの方は人に加担する裏切り者の力を取り込み力を増している。その力で生み出された我らにもその恩恵は与えられる。下等な生命に潰されるだけの雑魚では無くなり、そして我らが主たるあの方が築く世界の人種として確立されるのだ」
「……変なの……」
人の言葉を話す化け物、その化け物の言葉を聞くナギトは化け物の言い分を前にして思わず笑ってしまう。
何故笑う、不思議で仕方の無い化け物は首を傾げるとナギトに問う。
「何故笑う?何がおかしい?」
「……だっておかしいだろ。世界を支配するとか大層なこと言いながら生みの親は安全なところに逃げてるんだろ?結局は勝てないと思ってるからオマエらを使わなきゃ何も出来ないんだろ?」
「黙れ……!!我らの主たるあの方は今裏切り者の力をその身に同化させるために大きく動けぬだけ!!動けるようになればオマエらなど……」
「あぁ、ごめん。30秒経ったよ」
「何を言っ……」
「ナイス時間稼ぎだ転校生」
30秒、ナギトの言うそれが何のことか分からない化け物が不思議に思っていると白銀の稲妻を纏ったヒロムがナギトの前に現れ、現れたヒロムは化け物に向けて拳撃を叩き込むと同時に稲妻を炸裂させるとその衝撃で化け物を吹き飛ばす。
「グガ……!!」
「時間稼ぎを言い出した時は半信半疑だったがナイスな活躍だ。おかげでビーストがどういう状況なのかとクリーチャーが成長してることが分かった」
「案外役に立った?」
「十分にな。とりあえず……コイツを終わらせる」
ナギトを褒めるように一言言うとヒロムは化け物を仕留めるべく何かを始めようと指を鳴らし、ヒロムが指を鳴らすと化け物の周囲に炎が現れ、現れた炎が化け物を飲み込むとそのまま全身に広がっていく。
炎が広がる中化け物は苦しそうにしながら必死になって消そうと試みるが、炎に飲まれる化け物の右腕は炎に焼かれる中で焼け焦げて灰となって散ってしまう。
「グゲギャァ!!」
「すごい、これが天才の……」
「これが私の力です」
ナギトが驚いていると彼のそばに1人の少女が現れる。肩までの長さの赤い髪に緋色の瞳、赤のラインが施された黒いレオタードにも見えるボディースーツを着用し、黒いニーソックスを脚に履き赤いブーツを履いた少女。赤い刀身の剣を持ったその少女が現れるとナギトは彼女が何者なのかすぐに理解してしまう。
「アンタも……精霊、なんだよな?」
「はい、私はステラと申します。そしてあの炎は浄化の力を宿しています。私の力は悪意ある攻撃や能力を祓うことが出来、悪意から生み出された化け物は抵抗してもその炎に焼かれるのです」
「浄化の力……」
「アナタが時間稼ぎをしながら敵の正体を暴いてくださったからこそマスターは私の力を頼られたのです。そして……彼女の一撃がトドメをさします」
少女の精霊・ステラが視線をある方向に向けるとそこには1人の少女がいた。長いブロンズの髪をポニーテールにした瑠璃色の瞳を持つ少女で、上半身は胸部を隠す布のみで下はホットパンツの上に腰布を巻くという露出度高めの姿をしていた。その少女は瑠璃色の弓を構えており、少女は炎に焼かれる化け物に狙いを定めると弓へと風を集めて矢を形成させ、形成させた矢を迷いなく射ち放つ。
「彼女はセレナ。風を生み出し嵐を巻き起こす力を持つ精霊です」
放たれた矢は風を纏いながら加速し、加速した矢は纏う風を螺旋状に回転させて竜巻のようにさせながら化け物を貫き、化け物を貫いた矢は纏いし風を炸裂させてその力で化け物の全身を爆ぜさせる。
「べギヤァァァ!!」
全身が爆ぜた化け物、運良く頭部は無事だった化け物は地に転がる中でヒロムやナギトに向けて告げる。
「……これはまだ、始まり……!!これから我ら《魔人》による世界への攻撃が始まる……!!オマエら下等な生命は為す術もないまま滅び……」
うるせぇ、と化け物を黙らせるようにヒロムは残っている頭を踏み潰す。踏み潰された化け物の頭は塵となって消えてしまい、化け物が完全に消滅するとヒロムは一息ついて精霊たちに声をかける。
「助かったぞマリア、ステラ……それにセレナも。
それと……転校生、オマエが囮になってくれなきゃ早々にカタをつけられなかった」
「いいよ天才。アンタなら何とかするって分かってたから囮になったんだから。それより、アンタって何体精霊宿してるのさ?」
「あ?14人だけど?」
「14人!?」
ヒロムが宿す精霊の数、その数を本人の口から聞いたナギトは驚きを隠せず、驚くナギトはヒロムが言った14人という数字を疑ってしまう。
「そんなはず……」
(スクールで聞いた話じゃ精霊の力に左右されるにしても同じような人型の精霊を身に宿せる数は多くても2体か3体だった。それをこの天才は14人も宿してるって言うの?生きてるうちに精霊を宿すことすら奇跡に等しいのに……)
「その反応から察するに《フラグメントスクール》で精霊について何かしら教えられたみたいだな。けど、これだけは教えておいてやる。オレは生まれた時から精霊を複数人宿してる異常な体質だ。オマエが教えられた知識の中にはいない得意な存在だから深く考えようとするな」
「……分かった、そこまで言うならこの話はここで終わらせる。
それよりどうするの?あの化け物がクリーチャーの進化系ならアンタの仲間の奪われた力は敵の中に着実に取り込まれてるってことだよね?」
「あぁ、思ったより早いペースでな。
けど、自分を守ろうとしたヤツの判断が間違いであることの証明でもある」
「間違い?」
「……いくぞ。猿山の大将を殺しに」
******
15分ほど経過した。
ヒロムとナギトは化け物を倒した地点から移動して廃工場へと来ていた。古びた建屋の中に入っていくとそこにはビーストと呼ばれている《世界王府》の1人である東雲アザナがいた。
2人を待ち構えていたかのように立っているアザナはヒロムを見ると闇を強く纏いながら彼に問う。
「……ヤツの仇討ちに来たのか?無様に醜態を晒したあの愚か者を助けにでも来たか?」
「うるせぇよクズ。どんな理由かなんかオマエみたいなクズには関係ない。オマエはオレを怒らせた……オマエを殺す理由としては十分なんだよ」
「フッ……オマエも相当愚かなようだな。ならば教えてやろう、今のオレはオマエの理解の外にいる《魔人》だということをな!!」




