31話 駆け出す足
得体の知れない化け物を前にして構えるヒロムとナギト。自分の強さを示そうとするナギトに対してヒロムは余裕がある態度で言葉を返すと走り出す。
「あんまり前に出過ぎて邪魔すんなよ、転校生」
「天才こそ。目先の手柄を欲してミスらないでよ?」
「言ってろバカ」
ナギトの言葉に笑いながら返すとヒロムは一瞬で化け物との距離を詰め、距離を詰めたヒロムは右足で蹴りを放つと化け物の頭に命中させ、蹴りを食らわせるとそのまま化け物の頭を破壊しようとした。
しかし……ヒロムの蹴りを受けても化け物は平然としており、頭を破壊しようとしていたヒロムは化け物に対して大したダメージがないことをすぐに理解すると体勢の悪さなど気にかけることも無く左足で蹴りを放って化け物を蹴り飛ばそうとした。
蹴りを受けた化け物は勢いよく蹴り飛ばされ……ると思われたが体を回転させるなり右腕を地に叩きつけると蹴りによる衝撃を緩和しながら体勢を立て直して構える。
「コイツ……」
「どいてなよ、天才」
何かを感じ取ったヒロム、そのヒロムに邪魔と言わんばかりにナギトは冷たく言いながら前に出ると右手に魔力を纏わせて手刀の一撃を放って化け物の首を斬ろうとする。が、ナギトの手刀の一撃は化け物の首に命中するも頭を切り落とすどころか傷1つつけることなく終わってしまう。
「えっ、硬す……」
「バカ!!さっさと避けろ!!」
傷1つつかない化け物の体の強固さにナギトが驚いているとヒロムは叫んで伝え、ナギトがヒロムの言葉で我に返ると化け物が大きく口を開けながら口元に炎を集めていく。
「至近距……」
「ちっ……ぶっ潰せ、マリア!!」
ナギトの回避が間に合わない、そう感じたヒロムが叫ぶと精霊・マリアが現れ、現れたマリアは両手のガントレットに炎を思わせるような魔力を纏わせながら化け物に拳撃を放つと攻撃を妨害した上でナギトから離れさすように殴り飛ばす。
殴り飛ばされた化け物は地を何度か転がりながら飛んでいくもまた右腕を地に叩きつけると勢いを殺して立ち上がり、立ち上がった化け物は口元に集めていた炎をナギトとマリアに向けて吐き放つ。その化け物の攻撃を前にしてヒロムは黙っていなかった。
「守れ、シェリー!!」
ヒロムが叫ぶと藍色の稲妻がナギトの前に現れ、現れた藍色の稲妻は盾に変化して化け物が吐いた炎を防いでみせる。炎が盾に防がれると盾のもとへと長い銀髪をポニーテールにしたドレスというには肌を多く露出するような奇抜なデザインの黒い衣装を身に纏う少女が現れ、現れた少女は盾を左手に持つと右手に刺突に特化したランスを構えて化け物の方を向く。
「《天凱》シェリー、マスターの命により戦闘に介入します」
「新しい精霊……」
ちょっと、とマリアはナギトが盾を持った少女の精霊・シェリーに驚いている中で声をかけると彼に忠告した。
「キミ、前に出過ぎよ。さすがに今のはマスターの判断が遅れてたらキミ死んでたわよ」
「でもアンタのマスターのあの天才も危険に……」
「キミとマスターでは経て来た場数が違うの。それにマスターはまだ本気じゃないからキミが心配しなくていいわ」
「なんか偉そうだね。というか、天才だからってチヤホヤされてる?」
「好きに思えばいいわ。その代わり……マスターの足を引っ張るようなことをしてマスターに万が一のことが起きれば私は容赦なくキミを殴り潰すから覚悟してて」
少しとはいえ殺意が込められた言葉でナギトに忠告するマリア。そのマリアの言葉にナギトが緊張感を感じているとヒロムはナギトの隣に並び立つと首を鳴らしながらナギトに言った。
「マリアの言葉にビビるんなら下がってろよ転校生。この程度のことでビビんなら足でまといだからな」
「……お優しい気遣いありがと、天才。けど、大丈夫だよ。
ちょっとだけ驚かされただけだからもう失敗しないよ」
「なら結構だ。とりあえずヤツの硬さは分かったからやり方を変えるぞ」
「作戦あるの?」
「作戦なんてねぇよ。むしろんなもんは用意したところで実戦では役に立たねぇよ」
ただ、とヒロムは白銀の稲妻を全身に纏うと拳を構えながらナギトに化け物を相手に戦う上でのある注意点を話していく。
「作戦がなくとも戦況に応じて随時戦い方を変えたり立ち回りを見直すのは戦いの基本だ。オマエを狙って現れたヤツらにもそれっぽく言ってたけど、戦闘において色々教えられても実戦で役に立つ知識なんて実際そんなにねぇから臨機応変に対応する他ねぇ」
「どんなに勉強ができても意味ないってこと?」
「実際に使えない知識を持ってても意味は無い。現に今のオレとオマエは得体の知れないアレに関しては何も知らないしアレについての知識もない。どうにかして攻略するしかないってのが今の……」
「じゃあ、アンタの考えられる手でアレにトドメをさしてよ。時間稼ぎならオレが引き受けるから」
「……話聞いてたか?」
時間稼ぎを引き受けようとするナギトにヒロムは今さっき戦いについて語っていたのにと呆れてしまうが、そんなヒロムにナギトはおそらくヒロムがあえて口にしていないであろう現状ハッキリしていることを口にした。
「知識云々もだけど正直な話オレとアンタとアンタの精霊とでは戦いにおける経験値の差が違いすぎる。スクールの中でしか戦って無いに等しいオレが下手に攻撃するよりはアンタの確実な攻撃で仕留めた方が得策だろ?」
「それはそうだが……時間稼ぎってのはそう簡単じゃないぞ。アレに関しては硬さ以外何も分からないからな」
「なら早い話がオレが時間稼ぎながらアレに関して何か引き出すからその全部をアンタが受け止めて動いて欲しい」
「オマエ……」
「別にカッコつけたいとかじゃないよ。ただ単にこのままアンタに全部任せるなら何が役に立ちたいと思ったから言っただけ。だから変に気を遣わなくていいよ」
時間稼ぎを申し出るナギトの瞳、彼の瞳はまっすぐヒロムを見つめており、ヒロムは彼の瞳を見ると彼の意思を感じ取る。
「……分かった。なら30秒だけアレを頼む。その間に仕留める用意をしておく」
「うん、頼むよ」
ヒロムの言葉に頷くとナギトは走り出し、走り出したナギトは迷うことなく化け物へと迫っていく。
「いくよ、モンスター」
(天才の一撃を受けても平然としてられるくらいアイツは硬い。オレがどんなに頑張っても多分決定打にはならない。そんなことに時間を割くくらいなら確実な決定打を決めてくれる天才のためにやれることをやるだけだ)
化け物に迫る中でナギトは両足に魔力を纏わせると加速し、ナギトが加速しながら接近してくると化け物は雄叫びのような声で吼えると拳を構えてナギトを殴ろうとする。攻撃が来る、そう感じたナギトは化け物の攻撃が放たれるよりも前に右へと軽く跳ぶと続けて地を強く蹴って一気に化け物の背後へ回る。急激な加速による後方への移動を行ったナギトの動きに対応出来ない化け物はナギトがいないところを殴ろうと空を切り、ナギトは化け物の気を引きつけようと後ろから蹴りを食らわせる。
蹴りを受けた化け物が反応してナギトの方を向くとナギトは化け物が振り向くと同時に後ろに跳んで距離を取るとさらに翻弄しようと走り出……そうとしたが、化け物はナギトが走り出そうとした瞬間に胴体に不気味な口を出現させると強い衝撃を撃ち放ってナギトを吹き飛ばしてしまう。
「!?」
(ウソ……だろ?そんなのって……)
「……グゲ……ゲゲゲ……」