30話 誘い誘われ
ノアルが眠る病室を後にした真助はその後何とかしてガイ、ソラ、イクト、シオンを見つけ出し、さらに偶然ガイといた葉王にも話をつけると彼らにノアルの現状とビーストこと東雲アザナについて説明、さらにヒロムはノアルを救うためにアザナを倒そうとしていることを伝えた。
「……ってことだ。とにかくノアルが意識を取り戻すにはアイツ自身の力を取り返して再生能力を機能させなきゃならねぇ。今のままだと命が危険な状態に晒され続けてノアル自身が死にかねない」
「けどそのアザナってのを見つけなきゃならないんだろ?
その……アテはあるのか?」
「いや、ない。とりあえずアザナってのと接触下オレがオマエらに状況説明して手分けして探すくらいのレベルだ」
「絶望的に情報がないな……」
「さすがの大将もノアルのことで頭に血が登りすぎだね」
真助は話を聞いたガイは現状確実な手立てが無いことに不安視し、イクトもガイと同じ考えらしくヒロムの考えに反対の様子だった。だが、ソラは違った。
「いや、だからこそ真助をここに寄越したんだろ」
「え?」
「どういう意味だよソラ。大将になにか考えがあるっての?」
「普通に考えたら分かる話だろ。
アイツがわざわざそんな非効率的な指示を真助に出すと思うか?アイツは普通と違って多くの精霊を宿しているんだから精霊を使って探させることも出来る。なのにそれをせずにオレたちに探させようとするのは精霊より効率のいい方法がここにあるって事なんだろ」
「いやいや、その方法ってのが分かんないのにどうやって……」
「なるほどォ、さすがは相馬ソラだなァ。戦闘センスでは雨月ガイや黒川イクトと互角レベルだが状況判断と分析ィ、そこからの考察力は2人より優れているなァ」
「葉王も分かってるのか?」
当然だァ、とガイの言葉に葉王は返すと彼とイクトに、そしてシオンと真助、既に理解しているソラに向けてヒロムの意図を語っていく。
「姫神ヒロムは東雲ノアルの力を取り戻すためにビーストを探させようとしているわけだがァ、オマエらの言い分だと手掛かりがないって言いたいんだろォ?けどよォ、姫神ヒロムが指示を出さなくともオマエらはビーストを探す手掛かりを既に手をしてたんだよォ」
「手掛かりを?」
「あァ、それも恐らくはビーストが警戒すらしていないものをなァ」
「いやいや、訳分からん。何で?だってビーストと面識あるのは大将と真助と負傷してるノアルだけだろ?ビーストってのが《魔人》の力を持ってるのなら同じように《魔人》の力を持ってなきゃ感知なんて……出来な……あっ!!」
話していく中で何かに気づいたイクト。そのイクトの反応に葉王は頷くとソラを見ながらガイたちに全容を明かしていく。
「黒川イクトが今口にしたがァ、《魔人》の力を感知する簡単な方法の1つは同じように《魔人》の力を持っているものがその気配を感じ取ることだァ。性質的に似ているとされる東雲ノアルの力が奪われたなら本来は探す手立てはないと思うがァ、今ここには同じように《魔人》の力を宿している相馬ソラがいるゥ。つまりだァ、東雲ノアルの力を取り込んで力を増しているビーストの力の気配を感知することは可能ッてわけなんだよォ」
「だが葉王。それならビーストがソラを野放しにするわけないよな?自分を探せる存在がいるのにそれをスルーするとは思えないな」
「それについてはいくつか理由が考えられるゥ。1つはビーストが相馬ソラの有する《魔人》の力を過小評価していることにより現段階で脅威にはならないと判断してることォ。もう1つはビースト自身が相馬ソラが現れるのを前提に放置してるかだァ。この場合ならァ……ビーストは相馬ソラの力も狙ってることになるがなァ」
「つまり、ビーストを探すのは相応のリスクがあるってことか」
「早い話がそうだなァ。そして姫神ヒロムが2手でも3手でも分かれてッてのは相馬ソラだけでなくビーストと対峙して気配をよく知ッてる鬼月真助が気配を掴む方法を取り入れるッてことだろうなァ」
「それで見つけられるのか?」
「さァなァ。だが方法としては間違いでは無いィ。姫神ヒロムとしてはビーストを見つけさえすればいいッて話なら可能かもしれないし無謀な可能性もあるゥ」
「つまり……」
「ビーストを見つける上でリスクを回避するのは不可能だァ。それを把握した上でやるしかねェッてことだァ」
ビーストこと東雲アザナを見つける手立てとそのための人員は揃っている。だが敵を見つけるためには何らかのリスクと直面することになる。それを避けることは困難であり、彼らは……
******
同じように病院を後にしたヒロムはナギトを連れて歩いていた。が、そのナギトはどこかヒロムのことを警戒しているらしく少し距離を取るように後ろを歩いていた。
警戒されている、それを感じ取っているヒロムは別に足を止めることもなくただ前に進むべく歩いていた。特に気にする様子もなく、ただ歩き続けるヒロム。そのヒロムの背中を見ながらナギトは彼に質問した。
「これからオレをどこに連れていくつもり?さっきの人助けようとしてるならオレはいらないよね?」
「いいからついてこい」
「一応気になるから質問してるんだけど。目的も分からないままついていくのって不安を感じるしね」
「……別に警戒しなくていい。オレはただオマエと話が出来る場所に行きたいだけだからな」
「オレと話?他人に聞かれちゃ都合悪い話なの?」
「オマエに対する配慮だよ。オマエ自身の話になるからなるべくアイツらに聞かれないようにしてるだけだ」
「オレの話?」
ナギトについて、そう切り出したヒロムは足を止めて彼の方を見るとナギトに対して単刀直入にある質問をした。
「ガイと一戦交えていたオマエの実力はそれなりに把握しているが、オマエの動きに少し疑問を感じてな。オマエ……誰にあの動きを教えられた?」
「動き?」
「言い方を変えてやろうか?オマエのあのトリッキーな動き、アレは個人で編み出して実現できるようなものじゃない。実戦投入するには1ステップどころか2ステップ、3ステップほど反応までのラグがあるあの動きを《フラグメントスクール》で教えられたとは思えないし、教えられたとしてもそれは個人的に指導されたと考えるべきだろうからな」
「そんな深読みするほどのこと?」
「昼間の1件で《フラグメントスクール》の実力の一部分は観れた。だからこそ疑問を持つしか無かった。オマエとあの動きを超えるほどの技量をヤツらが持ってないとなれば早い話がオマエは個人的に指導されたと考えるのがきれいなんだよ」
「え……もしかしてオレとあの天才剣士との一戦を見たのと今朝の御剣たちとの戦いでそこまで見抜けるの?」
「まぁ、オマエがあえて話そうとしない本心までは見抜けねぇけどな。その辺を理解しなきゃ見えねぇもんもあるけどとりあえ……」
ヒロムが何か言おうとしたその時、ヒロムとナギトに向けて何かが飛んできて2人を襲おうとする。だが迫り来る何かに気づいたヒロムは素早くナギトを連れる形で避けることで命中を免れ、避けたヒロムが何かが飛んできた方に視線を向けるとその方向から何やら得体の知れないものが歩いて来ているのが見えた。
「アレは……」
全身が黒い。人にも思えるような体躯をしながらも四肢の所々から骨のようなものが肉を抉るようにして姿を見せている。頭部はもはや人の皮を失ったかのような骨が完全に剥き出しにした状態で歪な角を生やしていた。
明らかにおかしい何か、化け物と呼ぶに相応しいそれはヒロムとナギトを前にして咆哮にも似た叫び声を上げると走り出す。
化け物が走り出すとヒロムは舌打ちしながらも構え、ナギトも続くように構えるとヒロムに確かめるように言った。
「アレの相手するために連れてきたとかじゃないよね?」
「当たり前だ。アレに関しては想定外だが……オレたちの邪魔をするなら潰すだけだ」
「なら……天才にオレの強さを見せてあげるよ」
「言ってろ。オマエの手を借りなくてもオレが終わらせてやる」




