3話 修羅参らん
異なる場所、2つの場所にて悪事を働かんとした能力者とその仲間を倒した姫神ヒロムと相馬ソラ、黒川イクト。
それぞれが悪名の高さで知られる相手を倒した中、ほぼ同じ時間に彼らと同じように悪党を相手に戦うものがいた。
場所は……街から離れた山の麓。
時間が夜だからか妙な静けさに包まれている、ように思えたがそれは気のせいだった。
「はぁ……はぁ……」
「な、何なんだよアイツら!!」
息を切らしながらも必死に走る2人の男。その2人の男の後方には同じように息を切らす者が何人も走っている。
まるで何かから逃れようと集団で動いているようであり、先頭の2人の異様な慌て方から逃げている対象の異常さが窺える。
「ボスの右腕であるあの人を簡単に倒しやがるし……もう1人は人間離れしてやがるし!!
あんなガキが邪魔するなんて聞いてねぇよ!!」
「聞いた話じゃ同盟結んでたゾノやガビのところも襲われてる!!
オレたちが今まで用意してきた事があんなヤツらのせいで無駄になるなんて……!!」
「とにかく今は事前に受けていたボスの指示に従って一旦はこの先にある集落内に散開してやり過ごそう!!
さすがにヤツらも集落内までは調べるようなことはしないは……」
先頭を走る男の1人が話す途中、後方を走る男集団の頭上を飛び越え、さらに先頭の2人の間を何かが通り過ぎ、通り過ぎた何かは先頭を走る2人の行く先の地面に勢いよく突き刺さる。
突き刺さった何か……1本の刀を目の当たりにした先頭の2人の足は止まり、2人の足が止まると後方から続く男たちも同じように止まってしまう。
男たちが足を止めると彼らの行く手に刺さっている刀のもとへと静かに1人の少年が現れる。金色の髪に青い瞳、黒い衣装に身を包んだ少年は静かに刀に手を伸ばすと握り、地面から引き抜くと視線を男たちの方へ向ける。
「……意外と足が速いな。
まさかここまで来てたなんて」
「あ、ありえない……!!
オマエはもう1人のヤツと一緒にボスが仲間と一緒に足止めしててくれたはずなのに……何でここに……!?」
「ここにいる理由なんて必要ないだろ。オレは敵を見逃すつもりは無いからこうしてここに来ただけだ。それに……オマエらが頼りにしてるボスとやらの部下ならもう会えない」
なぜなら、と少年が話そうとすると山の奥の方で轟音が響くと共に何かが爆ぜたような光が発され、音と光に男たちが反応すると少年は彼らに何が起きてるのかを明かしていく。
「オマエらのお仲間ならウチの暴れん坊が順番に潰してるからな。そのうち頼みの綱であるボスも倒される」
「そんな……」
「オマエらみたいなガキどもに仲間が倒されるなんてありえねぇ!!」
「ありえない話じゃないさ。
実際のところオマエらの実力とオレとアイツの実力を比較してもその差は歴然だ。真っ当な道を進んだ強さと歪んだ思想が邪魔している強さとじゃ強さの本質が違う。真に辿るべき場所を辿っていない強さほど脆く弱いものは無い」
「真っ当な道だと……?」
「何も知らないくせに!!
オレたちは日本政府が不甲斐ないせいでこうする以外の道を与えられなかったんだ!!」
「それなのに……オマエみたいなガキが偉そうに語るな!!」
「全員構えろ!!コイツ1人ならオレたち全員でかかれば倒せないはずはない!!」
少年の言葉に感情を顕にした2人は武器を構え、後方の男たちもそれぞれが持つ武器を構えて少年を殺そうとする。
彼らのやる気、それを感じ取った少年はため息をつくと刀をゆっくりと構えながらある話をしていく。
「……オマエらみたいに権力に何かを奪われるようなヤツは少なくない。だが、オレが知っているある男はその権力を利用して10何年も暗躍していた男に陥れられても諦めずに立ち上がり戦おうと抗っていた。オマエらみたいにやさぐれてもおかしくなかったのに、アイツは前を進んだ。幾つもの困難にぶつかっては苦悩していたアイツはその身に宿す精霊や慕ってくれる者の支えを受けながら立ち上がり、目標を持ってひたすら走っていた。だからこそアイツは立ち直れた。そんなアイツの努力を……オマエらの存在を野放しにしたら汚すことになる」
「ゴチャゴチャうるせぇ!!」
殺れ、と少年の話を中断させるように先頭の1人が叫ぶと後方の男たちは一斉に走り出し、走り出した男たちの中の銃器を持つ者は少年に狙いを定めると弾丸を放っていく。
「……無駄な事だよ」
放たれた弾丸が迫る中で少年は刀を目にも止まらぬスピードで振るうと弾丸を防ぐ。いや、ただ防いだのではなく弾いている。それもただ弾丸を弾くのではなく弾丸を飛んできた軌道を寸分狂わせることなく弾丸を放った敵のもとへと飛ばし返し、飛ばし返した弾丸で敵を撃ち抜いて数人の動きを封じていく。
弾丸を弾き、弾いた弾丸をそのままの軌道で自身の攻撃に転用する。少年のあまりにも高度すぎる刀捌きを敵は理解出来ず、敵が理解するのを待つことも無く少年は刀を持ち直すと姿を捉えるのが困難な速度で駆け出し、次々に敵を斬り倒していく。
「ぐぁぁあ!!」
「コイツ……速い!!」
「ありがとな《飛天》。
次は……《希天》だ」
少年が何かを呟くと彼の持っていた刀が蒼い炎となって消え、刀が消えると彼のもとへ蒼い炎とともに刀身の白い刀が現れて少年の手に握られる。
白い刀身の刀を手にした少年は刀を構えると同時に走り出し、走り出した少年は残像を無数に残すほどの速度で駆けながら敵を翻弄していく。
「なっ……まだ速くなるのか!?」
「それだけじゃない」
少年が呟くと彼の残した残像が意思を持つように動き出すと斬撃を放ち、放たれた斬撃が敵を襲い倒していく。斬撃を飛ばした残像は静かに消え、残像が完全に消えると先頭の2人を残す形で他の男たちは血を流しながら倒れていた。
「そんな……」
「何なんだよコイツは……」
少年の圧倒的な力を前にして戦意を喪失する2人の男。男たちが戦意を喪失する中少年は刀身の白い刀を蒼い炎にして消すとなぜか動きを止める。
「……さて、コイツら相手に《鬼丸》を使う必要もない。
ここは……《折神》で終わらせるか」
何かを決定した少年は右手を前に伸ばすと蒼い炎を手に集め、集めた蒼い炎は切っ先から柄尻に至るまで青い刀に変化して少年に握られる。
「また刀を……!?」
「コイツ、何本刀を持ってんだよ!?」
「4本だ。
オマエら相手に使うのはもったいない刀を含めて4本だ」
「出たり消えたり……アイツは一体……」
「まさか……アイツは……日本で唯一《霊刀》と呼ばれる特殊な刀を複数本持つとされる天才剣士、《斬帝》の雨月ガイなのか……!?」
「……へぇ、オレのこと知ってるのか。
それは光栄だ。でも、悪党を生かしてやるほどオレは優しくない」
少年……雨月ガイは手に持つ刀《折神》を強く握ると刀身に蒼い炎を纏わせ、炎を纏わせた刀を構えたガイは走り出す。
ガイが走り出すと片方の男は雄叫びのような叫び声をあげると突然全身を鋼鉄へと変化させる。
「!!」
「こうなったらオレの能力《鉄壁》でその刀を折ってやる!!
ダイヤモンドにも負けない硬さになる鋼鉄のこの体、そんな刀で斬れるわけが……」
斬れるさ、と鋼鉄化した男を前にしてガイは迷うことなく蒼い炎を纏わせた《折神》を振って一閃を放つ。
放たれた一閃、それは間違いなく弾かれると鋼鉄化した男は勝ちを確信していた……が、ガイの一撃は男の確信を崩すように結果を覆していく。
放たれた一閃は鋼鉄化した男の体を砕き、砕いた上で肉を抉ると男をそのまま吹き飛ばして倒してしまう。
倒された男の鋼鉄化の力が解け、残された1人は予期していなかった結果を前にして動揺していた。その男に何が起きたのかをガイは明かしていく。
「少しナメすぎだな。この刀が何故《折神》と呼ばれるのか、その由縁はコイツの力にある。コイツは普段力を抑える性質があってな。能力者の能力か体内にある魔力を与えないかぎりはコイツの刀身は斬れ味など皆無の鉄塊でしかないが、能力か魔力を与えた時、コイツはあらゆるものを斬りあらゆるものを折る神の一振りとなる。それ故に《折神》、コイツに斬れぬ物も折れない物もないってわけだ」
「そんな……デタラメすぎる」
「デタラメかどうか試すか?
もっとも、オマエに鋼鉄化する能力があるなら別……」
「ドラァァァァァ!!」
手に持つ刀《折神》についてガイが話してる最中、どこからともなく叫び声が聞こえ、その声とともに轟音が鳴り響く。鳴り響く轟音は次第にこちらへ近づいているらしく音が大きくなり、同時に眩い光が大きくなって迫ってくる。
「ダリャァ!!」
眩い光……雷撃が爆ぜる中で逆立った銀髪の赤目の少年が2mはあるであろう大男を殴り飛ばし、殴り飛ばされた男はガイの刀を前にして臆する男を押し潰す形で倒してしまう。少年に殴り飛ばされた大男は全身を刃で切り裂かれたかのようなひどい切り傷を負っており、所々火傷も負っていた。
「……」
「よし、次!!
次に倒されたいヤツはかかって来やがれ!!」
刀について語り、これからその力を見せようとした矢先にそれを邪魔されたガイはため息をつくと《折神》を蒼い炎にして消し、刀を消したガイは銀髪の少年のもとへ歩み寄ると彼に声をかけた。
「シオン、残念な知らせだが残りの敵はオマエが殴り飛ばした男に踏み潰されて倒れたからこれで終わりだ」
「……何?」
「戦いでやる気になるのはオマエらしいけど、やり過ぎだな。
オマエの《雷》の能力は音が響くからかなりうるさかったぞ」
「あぁ!?
オレは敵を倒して集落を守ろうとしただけだぞ!?」
「……まぁ、麓の集落に敵が近寄らずに済んだからいいけどな。
とにかく今回はここまでだ」
「……んだよ、それ。
納得いかねぇな」
「仕方ないだろ?元々オレたちの担当したこのエリアに潜伏してた敵がそもそも数多くなかったんだしすぐ終わるのは当然だ」
戦い足りないのか銀髪の少年・紅月シオンはガイに文句を言うが、文句を言っても何も無いとしてガイは彼を納得させようと彼に語りかける。だが根っからの戦闘好きなのかシオンは納得しようとせず、そんな彼の頑固さにガイは少し呆れていた。
すると……
「こっちも終わったみたいだな」
ガイとシオンが話していると姫神ヒロムが相馬ソラと黒川イクトとともに歩いて現れ、現れたヒロムにシオンは迷うことなく不満を述べた。
「おいヒロム!!
こっちの敵は歯応えが無さすぎた!!せっかくウォーミングアップが済んだばかりなのにこのまま終わるなんて許せねぇから相手になれ」
「嫌だね。
どうせオマエ、オレに勝てねぇだろ」
「あぁ!?
この間は僅差で負けただけだ!!」
「負けは負けだろ。
それに前回ので何連敗だよ」
「うるせぇ!!
とにかく今回は負けねぇから今すぐ……」
黙ってろ、とヒロムに戦いを申し込むシオンをソラは蹴り飛ばして黙らせるとガイに話しかけた。
「1人も逃がしてないよな?」
「当然。
二手に分かれて手下を逃がされた時は少し焦ったけど何とか全員倒したよ」
「つうか3人の悪党が同盟結んでってのも妙なもんだけど、《世界王府》のヤツらはなんでこんな手応えのねぇ雑魚を選んだんだ?
世界的に恐れられてる犯罪能力者の集まりって噂があるのに、今回の3悪党は国内でそれっぽい悪名で恐れられてるレベルだろ?」
「イクトの言う通りだな。オレたちが倒したガビってのは一撃で終わるレベルだったしな」
「この大男……《重鈍》のクローラーもシオンが物足りなさを感じるくらい弱いみたいだし。
ヒロムの方は……その様子だとハズレみたいだな」
まぁな、とヒロムはイクトが話し始めた3人の悪党の1人であるゾノについて簡単に答えを済ませると彼らに3人の悪党を倒した上で分かることを話していく。
「3人の能力者について分かってることは《世界王府》の支援を受けれるという状態に至ったことだ。これが《世界王府》の何かしらの思惑から来るものならここから先に何かが続くってことの報せなのかもしれない。オレたちのチーム……《天獄》が日本政府と警察双方の承認のもとで攻撃の正当化と防衛目的での武力介入が許された国を守る《センチネル・ガーディアン》の役目を与えられてる以上は何が起きても油断は出来ない」
「つっても大将のわがままで気が向いた時しか犯罪者の始末は引き受けない自由集団になってるけどね」
「……一応学生だからな。
って、この話はここでしなくてもいいだろ。さっさと帰って寝るぞ」
話をさっさと終わらせるとヒロムは足早に帰っていき、ガイたちは顔を合わせて微笑むと彼の後をついていく。
チーム《天獄》、それは彼らが姫神ヒロムを中心に結成した自衛を目的としたチーム。そのチームに与えられた《センチネル・ガーディアン》とは一体……