29話 息詰まり
自分の体には特に問題は無い、ヒロムは母であり治療を担当した姫神愛華にそう伝えられると同時にノアルが非常に危険な状態にあることを知らされ、愛華に案内される形で別室にいるノアルのもとへ訪れていた。
ノアルがいる病室、そこにあるベッドの上でノアルは呼吸器をつけられ点滴を打ちながらボロボロの体で眠っており、ボロボロの体で眠る明らかに重傷であるノアルのそばで彼に宿る精霊ガウが涙を流して彼に起きるように声をかけるかのように鳴いていた。そしてベッドのそばには彼が守ろうとしたユキナとエレナがおり、ノアルを助けるべく現れた真助が窓を開けて椅子に座っていた、
「ガゥ……ガゥ……」
「んだよ、これ……」
想像していなかったのかヒロムは言葉を失ってしまい、そんなヒロムにユキナは歩み寄るとユキナは今のノアルについて声を震わせながら話していく。
「目を覚まさないの……ノアル。
いつもならケガしてもすぐに治るのに、呼吸も弱いし……脈拍も……」
「ケガが治らないのか?」
「私にもよく分からないの。でも……いつものノアルならケガしても治ると思ってたのに、今回のノアルの兄を名乗ってた人の攻撃で受けたケガが一向に治ろうとしてないの」
「何でだよ?《魔人》の再生能力による治癒が働いてノアルのケガは治るはずなのに……」
「その《魔人》の力をあの男が奪ってるからだろうな」
ユキナの説明、非戦闘員の彼女が彼女なりに知っていることを話しても理解が追いつかないヒロムに彼女に代わって真助が可能性のある仮説を話していく。
「名前はお嬢様方が聞いたのが本名なら東雲アザナらしいが、そいつが《魔人》の力を取り込んだ影響で力を抜かれたノアルの中の力は本来発揮される力を発揮出来なくなってんじゃねぇのか?オレの再生能力も妖刀あってのものだからそれが手を離れれば機能しないし理論としては似ててもおかしくないだろ」
「ならさっさと取り戻すしかない。オマエはオレにまだあの男とノアルの力が同化してないって言っただろ。なら……」
落ち着いてください、と真助の話を聞いて急ごうとするヒロムを宥めるように姫神愛華は言うと真助の話を踏まえた上でヒロムに現状を丁寧に話していく。
「アナタの体に問題がないにしても話によれば《世界王府》のリーダーと対峙して精神を疲弊させられて眠っていたのです。ことを急いで動く前に一度冷静になってください」
「簡単な検査で問題がないってアンタが言ったんだろ?なら……」
「それはあくまで動ける動けないの話です。それに真助さんの話を私も聞きましたがノアルさんの力を奪った《世界王府》の能力者の力とまだ同化していないというのはアナタが気を失う前の段階の話です。現段階ではまだ同化していないのかもう既に同化してるのかすらハッキリさせられない状況なのです。無闇に動いて遭遇して、仮に同化してより強くなっていたらどうするのです?」
「それは……」
「……今言えることはノアルさんはまだ生きています。そして生命維持するだけの力はまだ残っているのは確かです」
「本当なのか?」
「それをガウくんが証明していますし、精霊を宿すヒロムさんならご存知のはずです。精霊は宿主となる人間の命が完全な棄権状態となれば現界出来なくなる。つまり、ガウくんが現界している今は一応は生命維持する力は残っているということでもあります」
「……けど、危険に変わりはないんだろ?」
「そうですね。このままこの状態が続けばノアルさんの免疫力、体力は低下する一方、目を覚まさなかった場合……最悪の場合は外部から何らかの方法で蘇生を試みるしかありません」
今のノアルは危険な状態にある、それを愛華に説明されるまでもなく分かってるヒロムはだからこそ一刻も早く彼を助けようと動きたいが、愛華の言おうとしていることもあながち間違いではない。迂闊に動けば今度は自分が危険に晒される、《世界王府》のリーダー・ヴィランと対峙してどれほど体力を消耗してそれをどれだけ回復させられたか分からないままでは危険は確かなものだ。
だが、だからといって何もしないわけにはいかない。何かしなければ、そう考えるヒロムがどうすればいいのかもどかしさの中で悩まされていると……
「ヒロムくん!!」
ヒロムが悩んでいるとこの病室にユリナが入ってくる。ガイたちや葉王に道を切り開いてもらう形でヒロムはユリナを安全な場所へ連れていこうとし、その果てでビーストことアザナと真助が戦うあの場に向かったのだ。
ユリナの無事な姿を見たヒロムがどこか安心していると、ユリナに続く形で1人の人物が病室へとゆっくり入ってくる。
「……やぁ、天才。起きたんだね」
「転校生……」
「風乃ナギトだよ。まぁ、名前呼びたくないなら別にいいけど」
ユリナに続く形で病室に入ってきた人物……風乃ナギトはヒロムの姿を見ると何故か嬉しそうな表情を見せ、そんなナギトにヒロムは礼を言った。
「助かった。あのタイミングでオマエが現れてユリナの護衛を引き受けてくれなかったらオレはノアルだけでなく真助まで……」
「雑魚の相手は雑魚に任せればいいんだよ。アンタは強いんだからそれに見合った動きをすればいいんだからさ」
「そうか、でも……ありがとな」
ナギトに礼を言うヒロム。礼を言われたナギトが少し恥ずかしそうにしているとガウは涙を流しながらヒロムの方を向くとヒロムに何かを訴えるように鳴き始めた。
「ガゥ……ガゥ」
「ガウ?」
何かを伝えようとしている、それを汲み取ったヒロムはベッドの方へ歩み寄りガウに目線を合わせるように膝をつき、ヒロムが膝をつくとガウは泣きながらヒロムに抱きつく。そして、これまで流していた涙をさらに流しながらヒロムに向けて鳴く。
「ガゥガゥ、ガゥ……ガゥガゥ。
ガゥ……ガゥガゥ」
「……そうか」
「ガゥ……ガゥ……!!」
大粒の涙を流すガウ、そのガウが何を訴えているのかは真助やナギト、ユリナたちには分からなかった。だがヒロムはガウの声を聞くと彼の頭を優しく撫でて励ましていく。
「大丈夫、オレが必ず助けるから。ガウはここでユリナたちとノアルが目を覚ますのを待っててくれ」
「ガゥ……」
大丈夫だよ、とヒロムは優しくガウを自分から離れさせるとベッドの上に乗せ、立ち上がると愛華にある頼み事をした。
「母さん、ユリナたちのことを頼みたい、家に帰らせるにしても送り届けるなりして確実に安全を確保して欲しい。それとノアルのことも頼む。アイツは……ビーストと名乗るノアルの兄は必ずノアルを狙って現れるはずだ」
「分かりました。ユリナさんたちとノアルさんの安全は必ず約束します。警備体制の強化も指示しておきますので……必ず無事に戻ってきてください」
「ああ、そのつもりだ。真助、いけるよな?」
「……当然、いけるさ。
むしろ斬り足りなくてウズウズしてたところだ」
「よし、なら真助はガイたちと合流してヤツの外見的な特徴を伝えて2手でも3手でも分かれていいから探してくれ」
「了解だ。オマエは1人で行くのか?」
いや、とヒロムは真助の問いに軽く答えるとナギトに視線を向け、ナギトに視線を向けたヒロムは彼に言った。
「転校生、オレと来るか?」
「オレが?」
「いいのかヒロム。
そいつは民間人だろ」
「責任はオレが取る。それに……今どうしても転校生と行動したいってのがあるからな」




