28話 ダレカ
暗い
何も無い
気がつけば暗闇の中にヒロムはいた。ここが現実かどうかはヒロムには見当が簡単につくが、何故こうなったのか分からなかった。
「……なんでオレがここに?」
心当たりがないヒロム。何故ここにいるのか?どういう経緯でここに来たのか?それらが分からなかった。
「……この感覚は間違いなく《精神世界》だが、どうしてここにオレが来てるのかが謎だな。誰かに無理やり連れてこられるような場所でもねぇし、かと言って無意識で来るような場所でもねぇし……」
《精神世界》、ヒロムは今自分がいるこの暗い場所のようなものをそう呼ぶ。それがどういうものかはこの場ではヒロムにしか分からないのだろうが、ヒロム自身も自身で理解出来ていない点があるらしい。それが何なのか分からない中でヒロムはひとまず歩を進める。
正確な足場があるのかすらハッキリ確認出来ぬような暗い中でヒロムは進むべき方向や踏み入るべき場所が分かっているかのように歩いていく。
「ここが仮に《精神世界》でないにしても《精神世界》に繋がる何かがあるはずだ。それを見つけ出して……」
ここがどこなのかハッキリさせるための何かを探そうとするヒロムが歩く中、突然ヒロムの進もうとする先に何かが現れる。暗いこの場を照らすかのような微かな光、その光をヒロムが不思議に思って足を止めると微かな光は徐々に大きくなると形を得ていき、形を得た光は人の形を成していく。
「これは……?」
(何だこれは?ここが仮に《精神世界》でないならって考えで《精神世界》との繋がりを見つけようとした。だがこれは何だ?フレイたち精霊でないのは確かだがこれから感じ取れるものはフレイたちに近いものがある。けど……確証がない。これが何なのかハッキリ分からねぇから答えが出せないのもあるけど……)
『悩まれていますね』
「!?」
目の前の形を得ていく微かな光が何なのかをヒロムが思考していると何かがヒロムの後ろから声をかける。その声に反応してヒロムが後ろを向くと声のした方には人の形をした光が存在していた。人とは言いながらも女性にも思えるシルエットを持つその光を前にしてヒロムは警戒するように拳を構えるが、ヒロムが拳を構えると暗いだけのこの場が明かりを得てその全容を晒していく。
荒廃した大地、荒れ果てたその大地に立たされるヒロムの頭上にある天の空は真紅に染まっており、本来ならどちらかしか姿を見せていないはずの太陽と月が真紅に染まる空に共存していた。
「……オマエは誰だ?」
『まだ名乗れないわ』
「名乗れない?」
『アナタの前にこうして私が現れたのはアナタが自分の中に秘めている可能性を掴もうとしたからです。そして私は本来ならその可能性の先にいる存在、アナタの前に現れて話すことも名乗ることも許されないのです』
「なら何故今現れた?それにここはどこなんだ?見た感じ《精神世界》とは違うみたいだけどオマエは知ってんだろ?」
『ここはアナタがいずれ到達すべき《可能性の世界》。秘めている可能性をアナタが掴もうとしたことが原因で本来ならまだここに足を踏み入れるはずのないアナタは迷い込んだのでしょう。そしてアナタは……彼に狙われる』
彼、振り向いた先にいた女のようなシルエットの光が口にしたその言葉が何なのかヒロムは一瞬考えてしまうが、何かに気づいたヒロムが後ろを振り向くと先に現れ形を得ていた微かな光が光から実体を得てその姿を現す。
その姿はヒロムによく似ていた。だが全身が……頭からつま先までのあらゆる物が闇のように黒く染まっており、目は鮮血のように赤く染まりながら妖しい光を帯びていた。そしてその両手には剣が握れていた。右手に白い剣、左手に紫色の剣を持ったヒロムに似たそれは剣を強く握るとヒロムに襲いかかろうとせんと走り出す。
「!!」
『気をつけて。アレは……今のアナタを許さない』
女のようなシルエットの光は一言言うとヒロムに伝えると消え、消えた光が残した言葉の意味を気にする暇もなくヒロムは白銀の稲妻を纏うと剣を構えるそれを迎え撃とうと走り出す。
「オマエが何かは知らねぇが、可能性云々ってんなら試してやる!!」
消えた女のようなシルエットの光が言う可能性というものを信じるとともに剣を構えるそれを倒して可能性とやらを試そうとするヒロムはそれに向けて蹴りを放つが、剣を構えるそれは音もなくヒロムの前から消えて蹴りを躱すと背後へと音もなく現れ、背後へと現れたそれは紫色の剣に闇を強く纏わせると斬撃を放ち、放たれた斬撃はヒロムを襲うと勢いよく吹き飛ばしてしまう。
吹き飛ばされたヒロムは勢いよく倒れてしまい、倒れるヒロムの前へ剣を構えるそれは音も立てずに移動すると冷たく告げる。
『……オマエじゃまだオレは使えない。その程度じゃオレはオマエを認められない』
「使えない……?オマエは……」
『オレが何なのか、その答えは自分で見つけろ』
剣を構えるそれはヒロムにトドメをさそうと剣を振り下ろす。為す術もないヒロムは……
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「うぉっ……!!」
勢いよく起き上がるヒロム。だが、場所が変わっていた。先程まで相対していた剣を構える何かがいた場とは異なり殺風景な部屋……端的に言うなら病室だ。そしてヒロムはベッドの上にいた。ここは先程いた場所に関係しているのか、そんなことをヒロムは迷わずに答えを出せた。
「……現実か」
(さっきまでいたあの世界……後に現れた光はあそこを《可能性の世界》とか言ってたが《精神世界》とはまた違うのか?違ったとして、あそこに何故オレは行けたんだ?)
「目が覚めましたね」
ヒロムがベッドのウエディング考えていると病室の入口の扉が開き、その先から1人の女性が中へと入ってくる。
長い黒髪、ヒロムと同じピンク色の瞳の女、黒いドレスのような綺麗な装いに身を包んだ女の登場にヒロムはため息をついてしまう。
「……アンタが主治医代わりってか?」
「主治医などというものではありませんよ。たまたまこちらに用があったので来ていたタイミングでヒロムさんが東雲ノアルさんと一緒に運ばれたと聞いたのでわたしも手をお貸ししただけです」
「タイミングがよかっただけってか……母さん」
「そういうことですがそのタイミングがよかったおかげで大事には至らなかったのです」
母さん、ヒロムにそう呼ばれた女……現在の《姫神》の家の当主である姫神愛華は優しく言うとヒロムのもとへ歩み寄るとヒロムにここに彼が運ばれたことについて話していく。
「《世界王府》との戦闘後に突然倒れられたと聞きましたが、体に異常はありませんでした。簡易的な検査は済ませて問題ないと判断しましたのでもう大丈夫ですよ」
「仕事が早いな」
「私は日本で数少ない治癒能力者で幾つかの病院を管理している身ですからね。息子のヒロムさんの事を調べることも治療することも造作もありませんよ」
「……なら、ノアルは?」
ノアルはどうなのか、彼女は自分とノアルが一緒に運ばれたことを口にしていた。それを聞き逃さなかったヒロムは愛華に尋ね、尋ねられた愛華は嘘偽りなく隠すことも無く搬送されたノアルについてヒロムに話していく。
「とても危険な状態です。状況については報告を受けましたが外傷だけでなく体の中もとても危険な状態で非常に緊迫している中で何とか一命を取り留めた所です」
「そんなにひどいのか?」
「……どれほどの状態か、それはヒロムさんの目で確かめてみてはどうでしょうか」




