27話 闇の呪縛
何が起きている?
何をされた?
突然現れた《世界王府》のリーダー・ヴィランがビーストこと東雲アザナを逃がそうとするのを阻止しようとヒロムは動こうとした。なのにヴィランにただ視線を向けられただけで体が一切動かなくなってしまったのだ。
「こ……の……!!」
「さて、姫神ヒロム。
血の気が多いのは悩み物だと思わないか?力の差も弁えずにがむしゃらに挑もうとするその姿は勇敢なのか無謀なのか、キミはどっちだと考えている?」
「この……動……け……」
「……ふむ、他者の力を取り込んだせいで万全でなくなった状態のビーストを圧倒するだけの力量を持つからと多少は期待していたのだがどうやら見当違いだったかな。キミはこれまで多くの困難を前にして己の力で乗り越えてきた能力者だ。そんなキミもオレを前にしては動くことも出来ないか」
「く……」
(アイツは一体オレに何をした!?ただ視線を向けられただけなのになんでも身体が動かないんだ!?)
「姫神ヒロム。キミは今のオレが何をしたのか考えているな?」
「……!!」
「なに、そう驚くことではない。キミのような純粋で目的に真っ直ぐ進もうとするようなタイプの人間が思考はシンプルで分かりやすい。そして何よりキミのような人間は簡単に騙されりようされる」
「あ……?」
「姫神ヒロム、キミは大人たちにいいように利用されている被害者だ。我々や我々のようなものから治安を守るためにいいように動かされ、厄介事を押し付けられている。都合よく《センチネル・ガーディアン》に任命されて世間的に国を守ろうとする姿勢を政府が示すために利用されているだけだ。キミは《センチネル・ガーディアン》になるとともに日常を守ろうとしているが、政府の大人たちはキミの思いなど気にかけることも無く利用できるだけ利用して手柄だけを奪って最後はキミを捨てる。キミはそんな扱いで納得できるのか?」
「オレは……利用なんて……」
「我々と来い姫神ヒロム。キミのその力ならば今の世界をより良い方へ変革させることができる。キミの守りたいものを我々のなら必ず守れるしキミが望むならキミが望む世界を作ることも出来る。平穏な日々を送りたいのなら我々の仲間となれ。そうすればキミは今の利用されるだけの存在にはならない」
「ふざけ……」
「ふざけてなどいない。世界を変えることは理想を叶えるために不可欠なことだ。それともキミは立場を与えるだけの大人たちに従っていれば己の理想が実現させると思っているのか?そこにいる仲間や守りたい彼女たち……今もキミが安全な場へ避難させようとしている姫野ユリナを今のキミが守れると思っているのか?」
「なっ……」
ヴィランの言葉には屈しない、そう心が強く抵抗しようとしていた中でユリナの名が出たことでヒロムのその心の抵抗が崩れようとする。そしてそれを狙っていたかのようにヴィランは畳み掛けるようにヒロムを闇に誘うような言葉を口にする。
「大切なものを守りたいのだろ?キミの心の支えでもある彼女たちを救いたいだろ?このままずっと我々に歯向かっていては彼女たちを守るためにキミが傷ついて彼女たちが悲しむだけだ。我々の同胞となればキミは傷つかなくなり彼女たちが悲しむことも無くなる。キミが守りたいものを完全な形と完全な意味で守れるようになるのに……それを拒む理由はないはずだろ?」
「オ……オレは……」
ヴィランの言葉、ただ都合よく言葉を綺麗に並べてヒロムが求めているだろうものを与えるかのような言い方をしているだけだとヒロム自身割り切ろうとしていたが、ユリナの名が出てからヒロムの中で何かが崩れてしまっていた。そのせいかヴィランの言葉を聞くヒロムの中に余計な感情が流れ込み、否定すべきはずのヴィランの言葉に対してヒロムの心は揺らぎそうになっていた。
それを見て感じ取ったらしく真助はヴィランの発する異様な力を前にしながらヒロムに向けて叫んだ。
「騙されんなよヒロム!!オマエが今ここで戦ってるのは誰のためでも無いはずだ!!オマエがそうしたい、そう考えたからオマエが動いてるんだろうが!!オマエがオマエ自身のためにやりたいことをやってるのなら迷うな!!」
「真……助……?」
「今までのオマエは立場なんざ関係なく居場所を守るために権力者だろうが何だろうが挑んでたはずだ!!そんなオマエだからこそオレはオマエについて行くことを決めたんだぞ!!それをそんなクソ野郎の言葉に惑わされて失うってんならオレがこの《狂鬼》で四肢切り落としてでも止めてやる!!」
ヴィランの言葉に惑わされるヒロムを叱咤するように叫ぶ真助。その真助の言葉に続くようにエレナとユキナもヒロムに思いを伝えていく。
「ヒロムさん!!私たちのことは気にしないでヒロムさんがやりたいことをやってください!!」
「そうよヒロム!!私たちのためとか言ってそんなヤツの言うことに従ったりなんかしたらぶん殴るわよ!!」
「ヒロム!!オマエがどうしたいのか……それをそいつに教えてやれ!!」
「オマエ……ら……。
そう、だな……こんなヤツに屈したら……終わりだよな……。
なら……オレは……オレを……信じる!!」
真助、エレナ、ユキナの言葉を受けたヒロムの心に何かが起きたらしく彼は気持ちを再起させて拳を強く握り、ヒロムが拳を強く握ると同時に彼のピンク色の瞳が銀色に変化していく。瞳の色が銀色へと変化するとヒロムの全身から白銀の輝きと稲妻、そして光の粒子が嵐が吹き荒れるかの如く放たれ、放たれる白銀の輝きや稲妻、光の粒子を前にしてヴィランは威圧されてしまう。
「この力は……!!」
「ああああああああぁぁぁ!!」
白銀の稲妻をこれまでのどれよりも強く纏うとヒロムはヴィランを倒そうと走り出し、ヴィランに接近するとヒロムは拳に稲妻を纏わせながら一撃を叩き込もうとした……が、ヒロムが一撃を放とうとするとヴィランは右手をかざすだけでヒロムの攻撃に触れることなく止めてしまう。
「!?」
「……なるほど!!キミの力はまだ発展するようだな!!
その力、この先希望に満ちるのか絶望に堕ちるのか見てみたいものだ!!」
「ゴチャゴチャうるせぇ!!」
ヒロムの攻撃を触れずに止めるヴィランは何故か嬉しそうに語り、そのヴィランを黙らせようとヒロムがさらに力を高めるとヒロムとヴィランとの間で強い衝撃が生まれて2人を引き離すように吹き飛ばす。
吹き飛ばされるヒロムとヴィランは互いに受身を取り、受身を取ったヒロムは拳を構えると走ろうとした。だがヴィランは違った。魔力にも似た異質な何かを体から放出するとそれを闇へと変化させ、変化させたそれをビーストことアザナと自分の周囲を包むように広げていく。
異質なそれが何か分からぬことからヒロムは構えながらも攻撃に転じられず、そんなヒロムを見ながらヴィランは彼に告げる。
「姫神ヒロム、キミはいずれ思い知らされることになる。キミの信じるものはキミが思い描くような綺麗なものでは無い。この世界の矛盾と穢れを目の当たりにした時にキミがまだ同じことを口に出来るのか試させてもらう。次に会うとき、キミがどのような結末を選ぶのか楽しみにさせてもらう」
「逃げるつもりか!!」
「逃げる?違うな。我々のここでの目的は果たされた。それ故に次の目的のために移動するだけだ。それに……心に決着をつけるのは今ではない。まして今の不完全なキミを相手にするのは面白味がないからな」
「てめぇ……!!」
では、とヴィランは一礼すると闇を大きくさせながらアザナとともに闇の中に飲まれ、闇が消えると2人の姿は消えていた。
逃がさない、そう思いヒロムは動こうとしたが身に纏う白銀の稲妻が突然消えると何故か体の力が抜けてそのまま倒れてしまう。そして意識が……




