26話 最悪の加勢
アザナと真助の戦いが激しさを増す中、そこに割って入るかのように現れたのはヒロムだった。白銀の稲妻をその身に纏いしヒロムは殺意に満ちた瞳でアザナを睨んでおり、その視線を受けるアザナはヒロムを見ながら彼に言う。
「意外と早かったな、姫神ヒロム。
てっきり足止めをくらってここには来れないと思っていたんだが……どうやって辿り着いた?」
「オマエには関係ないだろ」
「関係ない、か。目の前でボロ雑巾のように倒れるノアルを目の当たりにして怒りに満ちてるといったところか?」
「うるせぇぞカス。オマエが何企んでようが関係ねぇ。世界に仇なすオマエは……オレたちの日常を壊すオマエはここで殺す!!」
アザナが何を言おうと聞く耳を持たないヒロムは強い殺意を抱きながら地を強く蹴ると走り出し、ヒロムは一瞬でアザナに接近すると敵に蹴りを放つ。アザナはヒロムの放った蹴りを難なく避けてみせるが、アザナが蹴りを避けるとヒロムは体を勢いよく回転させて次なる攻撃となる回し蹴りを放つと一撃目を避けたアザナに叩き込む。
「!?」
二撃目となる回し蹴りを予期していなかったのかアザナはそれを無防備に受けると一瞬怯んでしまうが、全身を《魔人》の力で変化させているからかすぐに立て直すと闇を纏いながら爪の攻撃を放つ。が、アザナが放つ爪の攻撃をヒロムは水面の流れに身を任せるような動きで無駄な動きなどなく綺麗に避けると白銀の稲妻を拳に集中させて敵の顔を渾身の一撃を叩き込むように殴る。
「オラァ!!」
白銀の稲妻が集中させられたヒロムの渾身の一撃の拳撃。その拳撃の力はアザナの力を上回っていたのかアザナは勢いよく殴り飛ばされ、アザナが殴り飛ばされるとヒロムは追撃しようとした。だがそんなヒロムを止めぬように真助は彼にアザナに関してのある事を伝えた。
「ヒロム!!
ヤツがノアルから奪った力はまだヤツと同化していない!!ここでヤツを倒してヤツの中から何とかして力を奪うことが取り戻せればノアルは助かるはずだ!!」
「……なら躊躇う理由はない!!
セレクトライズ!!《マジェスティ》!!」
真助の口から奪われたノアルの力がまだアザナに完全に取り込まれていないこと、今アザナを倒せばノアルを救えるかもしれないと伝えられたヒロムは身に纏う白銀の稲妻を強くさせると右手の白銀のブレスレットを金色に光らせて金色の装飾が施された大剣を出現させて装備してアザナを斬ろうと迫っていく。
だがアザナはそれを受けてやるほど優しくはなかった。
「調子に乗るなよ」
アザナが指を鳴らすとヒロムの行く手を阻むように何体ものクリーチャーが現れる。現れたクリーチャーを前にしてヒロムは足を止めるかと思われた……が、ヒロムは足を止めるどころか加速しながらクリーチャーに迫っていく。
「どけ!!」
加速しながらクリーチャーに接近するとヒロムは目にも止まらぬ速さで大剣で連撃を放つと行く手を阻むクリーチャーを瞬殺し、クリーチャーを倒したヒロムは地を強く蹴るとアザナとの距離を一気に詰めて一撃を放つ。
「くっ……!!」
止まることの無いヒロムに気圧されながらもアザナは何とかしようと右手に闇を強く纏わせてヒロムの大剣の攻撃を防ごうとするが、今のヒロムの力を想定しきれていないアザナの力では大剣を止めることが出来ずに攻撃を受けてしまい、大剣の攻撃を受けたアザナの右腕は鋭い一撃によって切断されてしまう。
「ぐぁっ!!」
「はぁぁ!!」
「この……!!」
右腕を切断されたアザナに更なるダメージを与えようとヒロムは白銀の稲妻を強く纏いながらアザナに斬撃を放とうとするが、これ以上ダメージを受けてはならないと判断したアザナは左腕に《魔人》の力を集約して硬化させて防ぎ止める。防ぎ止めたアザナだが、ヒロムの大剣の一撃があまりに強すぎたのか防いだにもかかわらず力の余波で吹き飛ばされてしまう。
「ぐぅ……!!」
吹き飛ばされるアザナは何とかして受身を取ると立て直し、右腕をすぐに再生させるとヒロムの次の動きを警戒して構える。右腕の瞬間での再生を前にしてヒロムは何かを感じたのか一度足を止めると大剣を構え直し、構え直すヒロムの姿にアザナは顔を顰めてしまう。
「コイツ……」
(話に聞いていたのと違うな。コイツの戦い、目の前のことで怒りに支配されてるように見えて隙を見せることなく冷静に対処するだけの気持ちの余裕を維持している。ヴィランやノーザン・ジャックの情報通りならコイツは《流動術》と呼ばれる先読み技術があるらしいし、何より今のオレ自身がアイツから奪った力に適応しようとするが故に万全の状態で戦えないというハンデがあるせいでこのまま戦っても後手に回されるだけだ)
「まったく、さすがは今の日本の流れを《世界王府》の支配から一度は守り抜いた男といったところか。その実力、ヴィランが評価して認めるだけのことはある」
「ゴチャゴチャうるせぇぞクソ野郎が。実の家族を……弟であるノアルをその手で苦しめて楽しいのか?」
「所詮は捨てられた存在、それを有効活用しただけだ。それを咎められる理由はどこにもない」
「たった1人の弟じゃないのか?その弟を苦しめるなんてどうかしてる。目的のためならなんでも利用するって言いたいのか!!」
アザナのノアルに対しての冷酷な言葉にヒロムは白銀の稲妻を強く纏い大剣を握る手に力を入れると走り出して敵を斬ろうと迫っていく。アザナとの距離を着実に詰め、射程距離に達したと同時にヒロムは大剣を勢いよく振り下ろ……そうとしたが、ヒロムが大剣を振り下ろそうとしたその瞬間にヒロムと真助の全身に身の毛もよだつような恐怖にも似た異質な力が襲いかかり、2人が怯んでしまうと同時にヒロムが振り下ろそうとした大剣が粒子へ変わると風に流されるように消えてしまう。
「「!?」」
「これは……まさか……」
「家族、弟、そして仲間のため……素晴らしく光に満ちた感性だ」
何が起きたのか分からないヒロムと真助とは異なりこの異質な力の正体が何なのかを理解しているアザナが驚いているとアザナの前に静かに1人の男が現れる。
スーツにも思えるような黒い装束を身に纏い、オールバックに整えられた黒髪と狂気のようなものを秘めた赤い瞳を持つ男。その男を前にしてヒロムと真助はこれまでに感じたことの無いような異常なまでの異質な力を感じ取る。そして、ヒロムは現れた男を知っていた。
「オマエは……!!《世界王府》のリーダー……ヴィラン……!!」
「……ほう、オレを知っているか。いや、今朝のオレの演説を見ているのなら知ってて当然だな」
「ヴィラン、何故ここへ?」
「質問するなよビースト。オレはキミに指示を出したはずだ。新たなクリーチャーを生み出すための新たな力を得た場合早々に撤退せよ、と。キミが得たその力は完全に同調するまで時間がかかる上に一種の足枷となってキミ自身の力を一部抑制してしまう。本来のキミならあの2人など余裕があるはずなのに追い詰められているのはそれが原因だ。我々の計画の要ともなるビーストをこのまま敗北させて失うのは許せない。それ故にオレが来た」
「撤退しろ、と?」
「その通りだ。今回の計画の第1段階は達せられた。キミは去りたまえ」
「了か……」
「させるか……!!」
現れた男……《世界王府》のリーダー・ヴィランがアザナを逃がそうとするとヒロムはそれを阻止すべく動こうと試みた。だがヴィランがヒロムを見つめるとヒロムの体は何故か動かなくなってしまう。
「なっ……!?」
「勇敢な姿勢は評価しよう、姫神ヒロム。だが相手を間違えてはならない。ここにオレが来たのなら……キミの相手はオレだ」




