25話 妖の太刀
アザナの攻撃を受けてもなお平然と動く真助。その真助にアザナが与えたはずの傷は何故か煙のようなものを発しながら消えようとしていた。
何が起きているのか、それがすぐに理解出来たアザナは動揺を隠せぬ様子で真助に問う。
「何故人間のオマエが再生能力を持っている!!何故《魔人》の力を持たない脆弱な人間が……一体どうやってその再生能力を手に入れた!!」
「……うるせぇな。大声でガタガタ言ってんじゃねぇよ。
再生能力を持ってる、そんな理由を今知っても持ってる現実は覆せねぇんだよ。そんなことより……さっさとその首斬らせろよ」
「コイツ……!!」
おそらくクリーチャーからの不意打ちによる攻撃の負傷も謎の再生能力によって消えているのだろう。今のオマエ真助はアザナと同じように傷を負っても再生して何も無かったように戦いを再開するほどの回復力がある。
その再生能力と回復力がアザナの中の何かを狂わせたのかアザナは何故か動こうとしない。
「おいおい、たかが再生能力1つで攻めるのを躊躇ってるとかじゃねぇよな?仮にも悪党ならこのくらいのことで動じずに堂々としてもらわなきゃ斬る楽しみが無くなるだろうが」
「……たしかにそうだな。世間からすればオレは悪党、ならばそれらしく振る舞うのが理想だろうな」
「……?」
「感謝するぞ……心の迷いをわざわざ断ち切ってくれて」
真助の言葉を受けるなりアザナは気を取り直したかのように殺気を放ちながら全身を闇に包ませる。何かある、そう感じた真助は刀を構えるなり斬撃を放とうとした……が、真助が斬撃を放とうとしたその瞬間に闇の中から刃のようなものが飛んできて真助の持つ刀を彼の手元から弾き飛ばしてしまう。
「!?」
「……オマエの強味はその刀による剣撃だろう。ならばそれを封じさせてもらう。そうすれば……オレはオマエを殺しやすくなる」
アザナを包む闇が晴れ、闇の中よりアザナが歩いて現れるが現れたのは変貌を遂げたアザナだった。ノアルが《魔人化》した時のように全身が赤く染まって鬼に近いような見た目となっているが、その姿にはどこか人間とも思えるものが見受けられた。ノアルのとは異なり完全な鬼ではなく鬼と人が混ざったような姿。
その人と鬼とが混ざったような姿となったアザナを見るなり真助はある疑問を抱き、その疑問を言葉にしてアザナにぶつけた。
「オマエ、散々自分は特別で人間や精霊は下等だって見下してたのにその中途半端な姿は何だ?ノアルみたいにハッキリと《魔人》らしい化け物になるなら別として、その中途半端な姿を見るとオマエは人としての心みたいなのが残ってんじゃねぇのか?」
「哀れだな狂戦士、その程度の発想で留まるとは。この姿は言わば人と精霊を超越した《魔人》である証。オレのこの姿こそが新たな世界を総べる支配者としての在り方だ」
「支配者ねぇ。くだらねえな」
「なんとでも言えばいい。この姿のオレは……オマエがどうにか出来るレベルではない。まして、カタナを失ったオマエではな!!」
変貌を遂げたアザナは闇を強く纏うと真助との距離を一瞬で詰め、武器を持たない真助に向けて容赦のない爪の一撃を放つと彼を吹き飛ばす。
アザナの攻撃を受けた真助は体を大きく抉られながら吹き飛ばされ、吹き飛ばされた真助はそのまま倒れてしまう。
「真助!!」
「やはり下等な人間。この姿となったオレには手も足も出ないか」
倒れる真助の名をユキナは叫ぶが、アザナは彼女が何を言おうが気にする様子もなく瀕死のノアルを仕留めるべくノアルのもとへ向かうように歩いていく。
「さて、予想外の介入はあったがこれでひとまずオマエを殺せる。オマエの力が完全に馴染むまで数日はかかるだろうが関係ない。残りのオマエを力を取り込んだ後にオマエをころしてその血肉を喰らえば馴染むまでの時間は早くなるだろう」
終わらせてやる、とアザナは瀕死のノアルの前に立つと右腕を振り上げ、闇を強く纏わせるとそのままノアルを殺そうと振り下ろす。
その時……
「なるほど……まだ不完全ってわけか」
アザナの右腕が振り下ろされるのとほぼ同じタイミングで真助がアザナの前に現れ、真助はアザナの右手を左手で掴み止めてノアルへの攻撃を阻止する。
先程受けたアザナの攻撃によるダメージは回復している気配はなく、真助は負傷した状態で立っている。だがアザナは真助が立っていることそのものが信じられなかった。
「オマエ、何で立っていられる?」
「……悪いな。
オレは簡単には死なねぇんだよ」
アザナが驚く中で真助はどこか楽しそうに言うと右手を横に伸ばし、伸ばされた右手は黒い雷を纏う。黒い雷が真助の手に纏われると黒い雷は棒状の形を作り上げながら真助の右手に収まろうとし、真助がそれを掴むと黒い雷は赤黒い刀身の刀へと変化していく。先程までの方などは明らかに違う刀、その刀を手にした真助の体のキズは一瞬で消えていき真助は全身に黒い雷を纏うとアザナを蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされたアザナは何とかして受身を取って体勢を立て直し、アザナが体勢を立て直すと真助は赤黒い刀身の刀を構えながらアザナに向けて話していく。
「オマエの言い方からしてノアルから奪い取った力が完全にオマエに馴染むまでにはまだ時間がかかるってことだろ?つまり、オマエをここで切り刻んでノアルにその血肉を喰わせりゃ……ノアルは力を取り戻せるって訳だよな?」
「この……脳筋が!!」
「ったく、こんなことなら最初から試作品じゃなくてこっち使えばよかったぜ。この刀……妖刀「狂鬼」をな」
「妖刀だと……!?」
赤黒い刀身の刀、それが妖刀だと知るとアザナはさらに驚いた顔を見せる。妖刀、それは特殊な力を持つとされる刀。霊刀、魔剣、妖刀の力を持った3種の特殊な刀剣。その3種の中でも使い手ではなく刀剣そのものが使い手をえらぶとされる危険が伴う刀剣が妖刀だ。
その妖刀を手に持っている真助。真助が妖刀を持っていると知った途端アザナは闇を強く纏うと同時に両手の爪を鋭くさせ、アザナは真助が動くよりも先に動こうとした。
「オマエの力量、実力は並の戦士とは比較ならないことは理解出来た。だが妖刀を持っているからといってオマエが真に使い手として認められているとは限らない!!」
真助が手に持つの妖刀が真助を使い手として認めていないと発言するアザナは真助に迫ると爪での攻撃を放とうとする……が、真助は何食わぬ顔で妖刀《狂鬼》を振るうとアザナの放とうとする攻撃を防ぎ止め、そこから真助は黒い雷を纏わせた妖刀《狂鬼》で一閃を放ってアザナの胴の肉を削ごうと襲いかかる。
が、アザナは左腕をさらに硬質化させて甲殻のようなものを纏わせると真助の一撃を防ぎ止めてしまい、真助の攻撃を止めたアザナはすかさず右手の爪で真助を刺そうと……考えたらその瞬間、真助は妖刀を強く握ると力任せに振り下ろしてアザナの左腕が纏う甲殻のようなものを破壊し、攻撃を防ぎ止めるものが無くなった妖刀は黒い雷を強く纏いながらアザナの左腕を斬る。
妖刀に斬られたアザナの左腕は流血してしまい、アザナは左腕を庇うように動くとともに真助の更なる一撃を警戒して後ろに飛ぶ。
「この力……まさか本当に妖刀の持ち手として選ばれたのか!?」
「テメェが勝手に否定してただけでオレは選ばれてないなんて言ってねぇよ!!」
アザナが驚く中で真助は黒い雷を妖刀に纏わせると敵に向けて解き放ち、解き放たれた黒い雷は無数の狼の頭の形をしたエネルギー体となってアザナに襲いかかる。
「受けろ……黒狼絶雷刃!!」
狼の頭の形をしたエネルギー体は次々にアザナに襲いかかり、アザナはいくつかを闇放出することで破壊して防ぐもの破壊できなかったエネルギー体に噛みつかれるように炸裂する攻撃を放たれるとそのダメージを受けながら後退りするように怯んでしまう。
「ぐっ……」
「案外その姿ってのは大したことねぇようだな。このまま……」
アザナにトドメをさそうとするかのように真助が妖刀《狂鬼》を構えようとするとどこからか白銀の稲妻が飛んできてアザナに襲いかかり、稲妻に襲われたアザナは吹き飛ばされてしまう。
稲妻が飛んできた方に真助が視線を向けるとその先には……白銀の稲妻を纏ったヒロムがいた。そのヒロムは殺意に満ちた瞳でアザナを睨んでいた……




