24話 狂鬼の刃
アザナに襲われるノアルを守るかのように現れた刀を持つ少年。その少年が発する怪しさと異質な気を前にしてアザナは闇を纏いながら構え、アザナが構えると少年は嬉しそうに刀を持ち直す。刀を持ち直す少年、その少年を知っているのかユキナは意外そうな顔で彼に話しかける。
「アンタ、どうしてここにいるのよ……真助」
「あん?おお、久しぶりだなお嬢さんよ」
「……アンタまさかまた私の名前忘れたの?」
「仕方ねぇ事だな。オレは半年も風来坊のように旅しながら新しい刀探してたわけだからその間に出会ってもないお嬢さんらの名前をうっかり忘れてても仕方ねぇ事だ」
「……アンタって意外と適当なところあるわよね」
「だがその適当さが存外役に立つこともある。まぁ、よほどの事がない限りはそんな場面は来ないわけだけどな」
少年・鬼月真助は飄々とした態度で語り、彼の語る言葉にユキナは呆れてため息をついてしまう。ユキナがため息をついていると真助は彼女が抱くガウに優しく微笑みながら伝えた。
「安心しとけチビ助。この敵はオレがぶった斬るからよ」
「ガゥ……」
「すぐに終わらせるから待っとけ。さっさとぶっ殺してノアルを助けねぇといけねぇからな」
ガウに優しく伝えた真助は視線をアザナに向けると強い殺気を放ち、真助の放つ殺気を受けるアザナは彼を見るなり何かを思い出したかのように話していく。
「この殺気、それに真助という名……なるほど、オマエが《センチネル・ガーディアン》の姫神ヒロムに仕える《天獄》の狂戦士こと鬼月真助か。約1年前に姫神ヒロムに挑むも負け、以降は《天獄》の一員として行動していたオマエは半年前の十神アルトとの戦い以降に行方を晦ましていると聞いていたのだが、何故ここにいる?」
「へぇ、オレのことはご存知ってか。
ならオレがどんな性格してるかも知ってるよな?」
「……当然な。
己の身の負傷など気にすることなくただひたすらに敵を斬るためだけに強者を求める快楽者、それがオマエだろ?」
「快楽者ねぇ。まぁ見方次第ではそれはあながち間違いじゃねぇんだが、少し違うな」
「何が違う?」
「戦いひたすらに敵を斬るためにオレは強者を求めてるわけじゃない。敵が弱いなら楽しむまでもなく叩き斬り、テキが強いなら楽しんだ上で叩き斬る。剣士としての強さの実感と生きていることの意義を示すことで高みを目指す、それがオレの戦いのルールであり敵を斬る理由だからな」
「くだらないな。所詮蛮族の思考、戦うしか脳のない愚か者の発想だな」
「他人の力を奪わなきゃ何も出来ない弱者に言われても何も響かねぇ。偉そうに言いたいなら……本気で来いよ」
「貴様……《魔人》の力を侮るなよ!!」
真助の言葉にアザナは怒りのような感情を見せると闇を強く纏い、《魔人》の力で変化させた右腕に闇を強く纏わせると真助を倒そうと走り出す。走り出したアザナは真助に接近すると彼を殺そうと爪の一撃を放つが、真助は余裕があるのか焦る様子もなくカタナで防ぎ止めると押し返して即座に一閃を放ってアザナの体の肉を削ごうとした。真助の一閃が放たれるまでの流れがあまりにもスムーズ、そしてそのスピードがあまりにも速いせいでアザナは防御することすらさせてもらえずに一撃を体で受けてしまうが、真助の一撃がアザナに命中すると何やら金属を叩いたような鈍い音をさせただけで敵に何の傷も負わせることなく終わってしまう。
弾かれた?それとも何か細工をされたのか?鈍い音の正体について探ろうとする真助はアザナの体に目を向ける。彼の体はおそらく傷を負っていない、だが彼が身に纏う黒衣は刀の刃により傷められて切れている。その部分から覗くアザナの皮膚……それは彼の右腕同様に赤く染まっていたのだ。
「なるほど……《魔人》の十八番である身体変化で硬化したのか」
「さすがは狂戦士、戦いのことに関しては的確な答えを導き出すだけの視野の広さは持ち合わせているらしいな。だがそれを知ったところでオマエにオレは斬れな……」
「関係ねぇよ」
真助は刀を強く握り直すと更なる一撃を放ち、放たれた一撃がアザナに命中すると彼の体を大きく抉って血を流させる。
よく見ればアザナの体は先程の真助の一撃を止めた時のように《魔人》の力で赤く染まって硬質化させられていたようだが、真助が2度目に放った攻撃はそれをものともせずにアザナにダメージを与えた。
「何……!?」
斬れない、真助に対してアザナがそう言おうとしたと同時に放った真助の一撃は彼の言葉を否定するかのようにアザナにダメージを与え、ダメージを受けたアザナは信じられないような顔をして傷口から溢れる血を手で拭おうとしていた。
「バカな……!?何故オレがダメージを……!?」
「……んだよ、案外簡単に斬れるじゃねぇか」
アザナが動揺する一方で真助はどこか面白そうに笑みを浮かべながら刀についた血を払い、真助は刀をもう一度構えるなり次の攻撃を放とうと振り上げ、真助が刀を振り下ろす前にアザナは闇をさらに強く纏うと後ろに飛ぶ……が、アザナが後ろに飛ぶと同時に振り下ろされた真助の刀は強い力が加わっているのか巨大な斬撃が飛ばされ、迫り来る巨大な斬撃をアザナは右腕で何とかして防ぎ止める。だが斬撃を防ぎ止めた右腕は防御による反動なのか変化したアザナの右腕すらも負傷していた。
「この力……オマエ、人間か?」
「当たり前だろ。オレは人間だよ。
つうか、力に頼りっぱなしのオマエの実力ってのは大したことねぇな」
「……《魔人》の力を見下すつもりか」
「《魔人》の力なんてのは能力の一種だろ。それを独自の価値観で特別視するのは勝手だがその価値観が全員に通用するものだと思うなよ?
オマエが誇りにしてるその力とやらはオレの前では無意味だ」
「下等な人間が……身の程を弁えさせてやる!!」
真助の言葉を受けてアザナは体の負傷を《魔人》の力で再生させて治癒させると闇を周囲に放出しながらクリーチャーを出現させる。
アザナの再生力、そしてクリーチャーの出現。それらを前にして真助は攻撃の体勢に入る中で思考する。
「へぇ……」
(遠くから少し聞こえていた程度だから信用出来ないと思ってたがどうやらノアルから力を奪い取ったってのは事実か。元々のコイツの力の高さなのかノアルから力を奪い取った恩恵なのかはさておいてコイツを殺すには再生力を上回る力が必要になる。それにこの化け物……)
「……いいね!!斬れる獲物が増えるのなら大歓迎だ!!」
「言ってろ、愚かな人間が!!」
アザナが叫ぶとクリーチャーは真助に襲いかかろうと動き出し、真助は嬉しそうに笑いながら刀を強く握ると斬撃を放ちながらクリーチャーを倒していき、クリーチャーを倒しながら真助はアザナとの距離を詰めようとする。
「オラオラ!!こんなもんか!!」
「……甘いな」
アザナとの距離を確実に詰める真助、だがアザナが指を鳴らすと同時に真助の背後にクリーチャーが1体現れ、現れたクリーチャーの爪が真助の背中を抉るような攻撃を食らわせる。
「……!!」
「真助!!」
「愚かな人間が調子に乗るからだ。その傷ではまともに動けまい。クリーチャーの餌として……」
「グダグダうるせぇな」
クリーチャーの攻撃を受けた真助は怯むどころか強い一撃を放つとクリーチャーを撃破し、クリーチャーを倒すと止まることなく真助はアザナに斬り掛かる。
止まらない真助、その真助の一撃をアザナは変化させた右腕の爪で防ぎ止める。
「何……!?」
「どうした?こんなもんか?あの程度じゃオレは殺せねぇし倒せねぇぞ」
「この……!!」
挑発するかのような真助の言葉を受けたアザナは真助の刀を押し返すと彼の攻撃の手を止めるべく爪で真助の右肩を抉るような攻撃を放ち、放たれた攻撃が狙い通りに命中すると余裕の笑みを見せる。
「これでオマエは刀を振るう力を出せないだろ。これなら安心してオマエを……」
「あ?」
アザナの攻撃を受けたはずの真助は迷うことなく刀を振り、予想外の攻撃がアザナはギリギリで避けると距離を取るべく後ろに飛ぶ。何故?何故まだ攻撃出来る?アザナは確実に真助の攻撃の手を止めるべく最善の手として肩を抉った。なのに……
何故だとアザナが不思議に感じていると真助の右肩は煙のようなものを発しながら敵の攻撃で負わされた傷を徐々に消していく。
「再生能力、だと……!?」
「んー……この程度ならこのくらいの再生速度だな」
「バカな……何故ただの人間が再生能力を!?」
「……知りたきゃオレに斬り殺されろ」




