22話 卑劣な爪
兄を名乗る東雲アザナとその彼が呼び出したクリーチャーを迎え撃ち非戦闘員のユキナとエレナを守ろうとするノアルは《魔人》の力で応戦していく。
ノアルが応戦する中ユキナとエレナは安全な場所へ避難しようとし、クリーチャーの出現により周りにいた民間人もパニックになりながら逃げ始める。
「フハハハハハ!!見ろよノアル!!オレたち兄弟の戦いを……《魔人》の力を前にして脆弱な人間は逃げるしかない!!オレたち兄弟ならこんな世界は簡単に壊せるぞ!!」
「ふざけるな!!
オレは誰かを傷つけるためにこの力を使いたいわけじゃない!!誰かのために……助けを求める人のためにこの力を使うと決めたんだ!!」
「温いなノアル!!所詮オレたち能力者は力で何かを壊して奪うしか出来ない破壊者!!助けるなんてのは破壊者のやるべき事じゃない!!オレたちの行いで救済となるのは破壊だけ!!破壊して全てを無にして世界をリセットした先にしかそんなものは無いんだよ!!」
「何故……何故そこまで歪んだ思想で話せるんだ!!」
クリーチャーを順に倒していくノアルにアザナは能力者は破壊しか出来ないと自論を述べ、アザナの話を理解出来ないノアルは変化させた両手に闇を強く纏わせると力を溜めてクリーチャーを引き裂こうとする。
「グラシャラスネイル……!!」
闇を纏いし爪でノアルの放つ攻撃はクリーチャーを次々に倒していき、明らかに強固な見た目をしているクリーチャーすらもその防御を無視するように切り裂いて倒すとノアルはアザナを視界に捉えて彼を倒そうと迫っていく。
「はぁぁあ!!」
「……なるほど。純粋種の《魔人》の力が発する闇は魔力による装甲や強化を無視する性質があるようだな。今朝の件でオマエを倒すために硬いのを用意したのに無意味に終わったじゃないか。まぁ……それはそれで面白い」
「何も面白くない……!!こんなことをして、何になるって言うんだ!!」
「得られるものはある。愚かな人間が不要だという証明とオレたち《魔人》の力が優れていることを証明と出来るのだからな」
「そんなことのために、アンタは!!」
「そんなこと?オレたち《魔人》の力がどれだけ優れているかを証明することがどれほどの意味を持つか理解してから話せ!!」
ノアルが理解しようとしないと分かるとアザナは右手に闇を強く纏わせ、纏わせた闇を炎のようにしてノアルに向け放ち、ノアルはアザナが炎のように闇を放つと爪に闇を強く纏わせながら体を回転させながら敵の攻撃を迎え撃つ。
「グラシャラスストラネイル!!」
体を回転させながら何度も攻撃を放っていくノアル。そのノアルの攻撃によってアザナの放った攻撃は消滅させられてしまうが、ノアルがアザナの攻撃を消滅させると同時にアザナは右手に闇を纏わせるとそのまま腕を変化させる。血のような鮮血の赤に染められたアザナの右腕は爪を鋭くさせると甲殻のようなものに覆われ、変化した腕に力を溜めるとアザナは連続攻撃を放つノアルの攻撃を弾くように一撃を放つとともに彼を吹き飛ばしてしまう。
「がっ!?」
「まさか《魔人化》がオマエの専売特許だと思っていたのか?残念だがオレも同じことは出来る。もっとも……オマエのそれよりはかなり優秀なんだがな!!」
吹き飛ばされたノアルを嘲笑うような態度でアザナは叫ぶと変化させた右腕の爪を1つにまとめると剣のように形態変化させ、右腕そのものが剣のようになるとそのままノアルに接近して彼を貫こうとする。が、ノアルはアザナの接近を感じ取ると全身を黒く染めて黒い鬼のような《魔人》となって体を通常より硬くしてアザナの一撃を防ぎ止める。
全身を《魔人》の力で変化させたノアルが自身の攻撃を止めたことにアザナは何故か不敵な笑みを浮かべた嬉しそうな反応を見せ、嬉しそうに笑うアザナの顔を見てノアルは何故笑うのかを彼に問う。
「何故……何故笑ってられる!?
アンタの行いでどれだけの人が苦しんでいると思っている!!アンタは……アンタはどうしてこんなことをするんだ!!」
「どうして?そんな分かりきったことを聞くか?この世界の残酷な現実は人類を堕落させている。己の価値観の外にあるものを拒絶し、自分たちと異なる異質な部分を持つものを晒しものにして社会から消そうとする醜さがあるのにそれを当たり前としている!!そんな人類に何の価値がある?争うことでしか生きれないような身勝手な人類など滅ぼしてしまえば何もかも楽、オレたちにはそれを可能にする力があるんだ。だからオレは躊躇いなく破壊ができる。そしてオレの力で誰かが苦しむのならそれはオレの望み通りだ!!」
「価値観が違うからこそ人は共存できるんだ!!アンタはそれを自分の思い通りにしたいという価値観で破壊しようとしてる身勝手なだけだ!!」
「なら聞くがノアル、今のこの状況で誰がオマエのことを助けてくれる?共存などと綺麗事を語ったが周りにはオマエに共感して立ち向かおうとしてる人間は誰もいない。この状況こそが人類の醜さを証明していると何故分からない!!」
アザナはノアルに強く言うと右腕に闇を纏わせながら強力な一撃を放って吹き飛ばし、吹き飛ばされたノアルは全身の変化が解けて元に戻ってしまう。
「くっ……!!」
「ガゥ!!」
吹き飛ばされたノアルが倒れるとどこからか彼の宿す黒竜の雛の精霊・ガウが現れてノアルに駆け寄り、ガウが駆け寄るとノアルはフラつきながら立ち上がるとガウに話しかける。
「……ガウ、少し力を貸してくれるか?」
「ガゥガゥ!!」
「ありがとう……ガウ。
……《ノワール・クロス》!!」
ノアルの思いに応えるようにガウが鳴くとノアルは叫び、ノアルが叫ぶとガウは闇に変化してノアルを包み込むと彼と一体化していく。黒い鬼のような姿となっていたノアルの体は騎士のように変化し、闇は形を変えると竜を彷彿とさせるアーマーとなるとノアルの体に次々に武装されていく。鋭い爪はその手に健在、鬼から騎士に変化したノアルのその姿を前にしてアザナは何故か不快感を抱いたような表情を浮かべて彼に言う。
「……下等な精霊と手を取るなどオマエは《魔人》の恥晒しだ。ここで死んで汚点を拭うことしか許されんと思え」
「ガウはオレの大切な家族だ。精霊とか関係なく……オレは家族や仲間を守ると決めたんだ!!」
ノアルは闇を強く纏うとアザナを倒そうと走り出し、アザナに迫ると次々に攻撃を放って敵を倒そうとした……が、ノアルが放とうとする攻撃を前にしてアザナは一瞬だが優しく微笑むのノアルに衝撃的なことを告げる。
「……死ぬ間際、母さんが言ってたな。『ノアル、アナタを見捨ててごめんなさい』って泣きながらな」
「……!?」
アザナの口から告げられた言葉にノアルの心が揺らいだのかノアルの鋭い爪はアザナにあと少しで命中するところで止まってしまう。ノアルの攻撃が止まるとアザナは不敵な笑みを浮かべながら闇を強く放出しながら右腕に力を溜めて一撃をノアルにぶつけ、アザナの一撃を受けたノアルはガウとの《ノワール・クロス》が解除される形で倒れてしまい、ノアルは全身負傷した姿で倒れ、ガウもけ軽傷を負っていた。
「く……」
「ガゥ……」
「フハハハハハ!!自分を捨てた親の言葉に惑わされるなんてオマエは本当に弱いな!!そんなんだから強さを手にすることも出来ねぇんだよ!!」
「この……」
「ガゥ……ガゥ……!!」
アザナが高笑いをする中、ガウは起き上がると小さな体でノアルを守ろうとする。そのガウの姿が気に食わないアザナは舌打ちをするとガウを殺そうとする。
「……精霊如きがオレの前に立つな!!人間の真似事しかしない下等なオマエらは消えろ!!」
アザナは右手に闇を纏わせるとそれをビームのようにして放ち、アザナの攻撃を前にして驚いて動けないガウは思わずその場にしゃがみこんでしまう。このままではガウが……その時だった。
ノアルは負傷した体を起き上がらせるとガウの前に立ち、そしてガウに危害が及ばぬように抱きしめて自身の背をアザナの放った攻撃に向けてその身に敵の攻撃を受けてガウを守ったのだ。
「ガゥ!?」
「がっ……」
身を呈してガウを守ったノアルは深手を負ってしまい、アザナの攻撃を受けた衝撃からかノアルの手から離れるようにガウが飛ばされ、飛ばされたガウは地面を転がるように倒れるもすぐに起き上がると慌ててノアルのもとへ向かおうとした、が……
ガウが向かおうとしたその時、負傷がひどいノアルが動けぬ中でアザナは彼に近づくと右手に闇を強く纏わせながらノアルの体を貫く。
「ぐぁっ!!」
「ガゥ〜〜〜!!」
「哀れなノアルよ、ここで終わりだ。
オマエの力は……今ここでオレがいただく!!」




