200話 ダークネスアウト
《世界王府》の能力者であるリュクスたちを前にして渡り合える実力を見せたヒロムたちは敵を倒すべく動き出す。
先陣を切るべく走り出したヒロムは十神アルトを狙いに定めているらしく標的に向けて迷うことなく走っており、十神アルトもそれを理解しているのか迎え撃とうと闇を放ちながら構える。
リュクス、ビースト、ヴァレット、ノブナガは十神アルトの援護……をするように見せかけてヒロムを倒そうと考え構えているが、シンク、キッド、刀哉、ゼロが彼らの動きに合わせるように左右に広がりながらヒロムの方に向かうのを阻止するような動きを見せて敵を警戒させる。
そんな彼らの息のあった動きを前にしてリュクスは舌打ちをしてしまう。
「コイツら……」
(あくまでアルトを狙う姫神ヒロムのサポートをしつつオレたちも倒そうって考えか。姫神ヒロムがアルトを狙う上で一緒に狙うのではなくオレたちが個人で姫神ヒロムを狙おうとするのを読んで止めようとしている。こちらが個人で手柄を得ようとするのに対してヤツらは一丸となってオレたちを倒そうとしている)
「ならば……それを阻止するだけだ!!」
シンクたちの動きから考えを見抜いたリュクスは魔剣に闇を纏わせると妖しく光らせ、魔剣が妖しく光るとリュクスの周りに魔力の柱が現れる。
「んだアレ?」
「アレが報告に聞いていたあの魔剣の力か」
「警戒しつつ対応するぞキッド、刀哉!!」
その必要は無い、とキッドと刀哉に指示を出すシンクの言葉に対して十神アルトが冷たく言うとリュクスが出現させた魔力の柱がエネルギー体となって十神アルトに吸収され、魔力の柱を取り込んだ十神アルトの痩せ細っていた全身の筋肉が生気を取り戻すように成長すると十神アルトは全身から強い力を放出する。
「なっ……アルト、オマエ!!」
「言ったはずだ、オマエらはオレの引き立て役だとな!!」
十神アルトはビーストとヴァレットに目を向けると闇を腕の形にして放ってビーストとヴァレットの体を掴ませ、ビーストとヴァレットの体が闇の腕に掴まれるとその腕に2人の力が吸われていく。
2人の力を吸い取りその身に取り込んでいく十神アルトの先程まで痩せ細っていた体は見違えるほどに筋骨隆々とした肉体となり、さらに全身から魔力や闇とは異なる異質な力を放出していく。
「下等な人間が……!!」
「格下のくせに……!!」
ビーストとヴァレットは強引に闇の腕を破壊して拘束を解くと十神アルトを睨み、睨まれる十神アルトは彼らに向けて告げた。
「オマエらと仲良く戦うつもりは元から無い。この国を支配するというオレの願望のためにオマエらは利用されるだけだと理解しろ」
「三下のゲス野郎が……!!」
「やべっ、コイツのこと撃ち殺したくなってきた……!!」
「ビースト、ヴァレット。下がるぞ。
これ以上付き合う必要は無い」
十神アルトの態度と行動にビーストとヴァレットが苛立つ中でリュクスは2人に十神アルトから離れるべく1度下がるように指示を出す。リュクスの指示を受けたビーストとヴァレットは仕方なさそうに戦線から下がろうとするが、2人が下がろうとするとゼロは滅弓・《ディアボロ》を構えて闇を蓄積させると無数の闇の矢にして放って2人を襲わせる。
下がろうとした瞬間に放たれたゼロの攻撃、それを前にしてビーストとヴァレットは魔力を攻撃の方に向けて高出力で放出することで盾のようにして防ぐが攻撃を防ぐことに意識を奪われていると刀哉が刀に魔力を纏わせながら一閃を放って2人を吹き飛ばす。
「ぐぁっ!!」
「がっ!!」
「ふむ……浅かったか」
ビーストとヴァレットが吹き飛ばされ倒れると刀哉は手応えの無さを感じているらしく構え直し、刀哉が構え直すとキッドとシンクも攻撃を放とうとする。
が、それを阻むように十神アルトが彼らに向けて無数の光線を放っていく。
放たれる光線をシンクたちは受けぬように躱し、シンクたちが光線を躱すと十神アルトは闇を腕の形にして放って彼らからも力を奪い取ろうとする。
「オマエらの力も寄越せ!!」
「させねぇよ!!」
シンクたちに十神アルトの魔の手が迫るとヒロムが白銀の稲妻を纏いながらそれを阻止するように腕の形にされた闇を破壊し、シンクたちを助けたヒロムはそのまま十神アルトを倒すべく走っていく。
ヒロムに救われ難を逃れたシンクたちはヒロムが十神アルトを倒すことに専念出来るようにするべくリュクスたちを相手にしように構え、シンクたちが構えるとリュクスは舌打ちをして思考する。
「クソが……」
(アルトめ、完全にこの場を自分1人で処理しようとしてやがる!!
ふざけやがって……!!オレたちが計画を立てた上でテラーが仕掛け人となってアイツを表に出させるタイミングを作ってやったのに……!!)
「恩知らずもいいところだな、ったく」
「リュクス、ビーストとヴァレットを連れて引き上げる用意を」
十神アルトの事を厄介だと頭の中で思い、恩知らずと言葉にするリュクスにテラーは突然撤退の用意を進めるよう促す。
テラーの突然の言葉が分からないリュクスが不思議に思い聞い返そうとすると、それよりも先にテラーが十神アルトについて、そして自身について語っていく。
「キミは私が想定外の事態を楽しむマッドサイエンティストと評価してるようだから教えておこう。私は不測の事態が発生したことにより生まれる想定外の人の動きを見てみたいだけだ。そして十神アルトのこの自分勝手な行動については想定していた。彼と面会し、彼と話をした時から彼の拘束が解かれた時、彼は復讐心を強く抱いていましたからね。ですから先手を打っておいたのですよ」
「先手だって?」
「面会の際、私は彼に接触することは不可能でしたが私には関係ないこと。私の手が回っているものを看守に差し替え、その上で仕込んだのですよ。十神アルトの能力でもある《強奪》の放つ技のスナッチイーターがスイッチとなる爆弾を。そして、その起動条件が今成立した」
全て計算通りと言わんばかりに語るとテラーは指を鳴らし、テラーが指を鳴らすと突然十神アルトの動きが止まる。
そして、動きが止まった十神アルトの体が突然人とは思えない不気味な動きをしながら膨らんでいき、数倍に膨らんだ十神アルトの体は血を吹き出しながら姿形を変えていく。
3メートルはあると思われるサイズにまで巨大化し、骨格が狂ったらしく歪な形となった腕や脚、さらに背中から不気味な翼が勢いよく生える。
「な、なんだ……これは……!?」
「ビーストから預かっていたクリーチャーの因子を用いてゲートを生み出した際に生み出した十神アルト専用の変異因子ですよ。急激に外部から新たなエネルギーを取り込むことを引き金として因子が目覚め、目覚めた因子が十神アルトを新たな存在へと変化させる。実験途中の危険物ですが……一度ミスしてる人間をモルモットにするのならば関係の無いことですよ」
「き、貴様……テラー!!」
「安心なさい十神アルト。
因子が適応すればアナタは人を超える」
「ふざけるなぁぁぁあ!!」
何が起きてるのか分からないヒロムたちが距離を取って見る中で十神アルトは叫び、叫びに呼応するように彼が闇に飲まれていく。闇に飲まれる十神アルト、すると闇が繭のように変化すると硬質化し、硬質化したそれを突き破るように壊しながら中から何かが姿を現す。
灰色の肌、色素の失われたような白い髪、そして黒目が2つある両の瞳を持った人に近しい姿をした十神アルトだった。人に近しい、とはいえ人なのか怪しい。肩や背中には骨にも思える突起が出ており、そして額には 明らかにおかしい赤い瞳があったのだ。
『…… 』
「ダークネスアウト、実験は成功だ。
十神アルトはかつて得ようとした神の力 に並ぶ《魔人》の力を会得した」




