20話 因果の再会
時は進み放課後
ノアルはエレナとユキナとともに下校していた。教室内で嘆くように叫んでいたアキナは彼女がレナと呼んでいた人物と何やら立ち寄る場所があるとの事で途中で分かれ、ノアルは目的地が同じ2人と行動していた。だがその道中でノアルは必要以上に周囲を警戒していた。
周囲を警戒している、ノアルのその行動にエレナとユキナは気づいており、警戒を続けるノアルにユキナは優しく声をかけた。
「ノアル、私たちのことを守ろうとして気にしてくれてるのは分かるけど張り詰めすぎじゃない?《世界王府》の件があったとしてもそこまで気にしなくて大丈夫だと思うわ」
「いや、オレが気になってるだけだから気にしないでくれ。少し気になることがあってな」
「だからってずっと何かを警戒して授業集中出来てなかったのは問題よ?」
「……気づいてたのか?」
「バレバレよ。そのせいで皆変に気をつかって話しかけにくくなってたんだから」
「すまない……」
「謝らなくていいのよノアル。ただ……張り詰めすぎていざって時に動けなかったら意味が無いでしょ。仮にもノアルはヒロムから私たちのこと守るように頼まれてるわけならそこもしっかり出来なきゃダメよ」
「……そうだな」
少し気にしすぎたか、ユキナの言葉を受けたノアルは自分の中の異常な警戒心を反省すると共に彼女の言う通りに少し肩の力を抜き、ノアルが周囲への強い警戒心を解くのを感じたユキナは彼に確認するように言った。
「この後はどうするの?このままヒロムの屋敷に向かってヒロムと合流する感じなの?」
「いや、昼休みの時に連絡があってヒロムの帰りは遅くなるらしい。何があったかは詳しく聞いてはいないが先に帰って待ってるように言われたよ」
「そう、それなら仕方ないわね。ヒロムの言う通りに待つしかないけどせっかくなら何かお菓子でも買って行きましょ」
「そうだな。そうし……」
探したぞ、とユキナと話すノアルが彼女の提案に賛成しようとしたその時、3人の前に1人の青年が現れる。ノアルと同じ白い髪、赤い瞳にスーツのような服を着た青年の登場にノアルはユキナとエレナを守るかのように2人の前に立って青年を警戒する。警戒するノアルに青年は優しく話しかける。
「久しぶり過ぎて分からないのは無理ないよな。父さんと母さんがオマエを見捨ててからもう10年も経つ。オレもオマエも成長してるからな」
「何を……」
「ノアル、オレはオマエをずっと探していた。弟であるオマエに会いたくてずっと探していたんだ」
「弟……まさか……アンタはオレの……」
「覚えてないだろうから改めて名乗るよ。オレは東雲アザナ、オマエの実兄だ」
******
とある河川敷
ヒロムはガイとイクト、ユリナとともにそこである人物と会っていた。その人物は……鬼桜葉王だった。
「姫神ヒロムゥ、呼び出した理由は分かッてるがずいぶんと急に呼び出してくれたなァ?」
「オマエの管理不足に対する正当な不満をオマエにぶつけたいからだ。おかげでユリナは危険に晒されたんだからな」
「その点については申し訳ねェとは思ッてるがァ、オマエが派手にやッてくれたおかげで数人が絶対安静な状態で絶賛治療中なんだがなァ」
「オマエがあの転校生のことを知っておきながら教えなかったからだ」
「……ッたくよォ、こッちとしては《フラグメントスクール》なんかよりも重要な事を調べてオマエに知らせようとあえて教えなかッたのによォ。けどォ、おかげでこうして会う口実が出来たならチャラでいいなァ」
「重要な事?何を調べてた?」
これだよ、と葉王はどこからかA4の紙が入りそうなサイズの封筒を出すとヒロムに手渡し、葉王に手渡された封筒を受け取ったヒロムはその中身を確認すべく封を切って取り出していく。封筒から取り出されるのは資料と思われる数枚の紙と2枚の写真、1枚は白髪の青年の顔が写されていてもう1枚は監視カメラの映像にも思えるものだった。その写真には1枚目の写真の青年が写っていた。
「この写真は?」
「初めてクリーチャーが現れた雑貨屋に最後に出入りした客を捉えた監視カメラの映像とその人物の顔写真だァ」
「この男がクリーチャーを呼び出した犯人……つまりはビーストなのか?」
「まァ、結論だけを言うならそうなるなァ。ただァ、そいつが少し面倒でなァ」
「面倒?」
「クリーチャーの中から出てきた物に《魔人》の力が宿ッてることが東雲ノアルによッて判明させられたオレは警視総監の千山の頼みを受けて犯人の特定をするために情報を集めェ、その中でオレは東雲ノアルの家系を調べたァ」
「ノアルを疑ってるのか?」
「そうじャねェよォ。今の日本で《魔人》の力を宿していると確認されているのは純粋種と呼ばれている東雲ノアルと能力の成長により覚醒してそれを手にした相馬ソラとウチの無愛想なアイツだけだァ。その3人の他にいるとなればァ、まず怪しむべきは東雲ノアルの血筋だァ。アイツは10年も前にその力を宿していると知ッた親に貧民街に捨てられた過去があるゥ。そこでオレは東雲ノアルの親とその家族について調べたがァ……」
クリーチャーについて調べる上で葉王はまずノアルの親や家族について調べたと話すが、その話について詳しく話す前に何故か言葉を止めてしまう。何故なのか?言い難いことでもあるかのような葉王の行動に疑問を隠せないヒロムは彼に声をかける。
「葉王、何か言い難いことがあるのか?」
「……言い難いと言うよりは全て話せば長くなるッてだけだァ。
とりあえずその資料には全て書いてるからァ、ひとまずは簡潔にまとめてでいいかァ?」
「あ、ああ……それでいい」
「ならァ……東雲ノアルの親は父も母も8年前に殺害されているゥ」
「「!?」」
「自宅にて惨殺されェ、家の至る所に何かが暴れたような跡があッたらしいィ。そして当時その家にいるはずの長男……つまりは東雲ノアルの兄と思われる子どもだけが保護されたらしいィ」
「まさかそれが……ビーストなのか?」
「そうなるなァ。ただしィ、保護された子どもは数週間後に謎の失踪をしてその後の行方は不明だァ。この失踪した子どもがビーストである可能性が高いと同時にィ、もう1つの可能性が出てるんだよォ」
「もう1つの?」
ノアルの父親と母親は何者かによって殺害されている、そしてノアルの兄と思われる人物は保護されたはずなのに今は行方知らず……あまり良いとは言えない情報の他にまだ何かあるような言い方をする葉王から話を聞き出そうとヒロムは彼に話させようと視線を向け、葉王はヒロムに渡した封筒の中にあった写真の青年について話していく。
「その写真の男は《狩屋敦也》という偽名である研究所の研究員を務めていたがァ、数週間前にそいつが研究所から姿を消すと同時に多くの研究員やそいつの同僚が殺害されるという事件が起きたァ」
「それってかなり前に話題になってた殺人事件なんじゃ……?」
「さすがは情報通の死神ィ。その殺人事件の中で奇妙だったのが1台のPCが見るも無惨な姿になるまで破壊されていたことだァ」
「ならそのPCが手掛かりになるんだな?」
「だからもう調べたァ。何とかしてデータだけを復元したんだがァ……中身はなんとビックリ、《魔人》の力についてのデータと東雲ノアルの情報だッたァ」
「《魔人》の力と……ノアルの事だと?」
「あァ、《魔人》の力に関してはクリーチャーに関連するような情報がほとんどだがァ、それに続くような形で東雲ノアルの事が記されていたァ。何でも純粋種の《魔人》の力を取り込むことでコイツはより強い《魔人》の力をその身に宿そうとしているゥ。どうやッてかは分からないがこの男は今確実に東雲ノアルを狙ッてどこかに潜んでるはずだァ」
「ならノアルにその事を……」
ノアルが危ない、そう感じたヒロムが急いでノアルにその事を伝えようと行動に移そうとしたその時、ヒロムたちの周囲を取り囲むように闇が広がるとそこからクリーチャーが次々と現れ、現れたクリーチャーがヒロムたちを包囲するとヒロムはユリナを守るように立つと舌打ちをした。
「クソ……このタイミング、ビーストはノアルを狙って既に動いてるってことなのか!!」
「みたいだなァ。この数でお嬢さん1人を守りながら包囲網を突破しなきャならないとなるとォ、ビーストのヤツは本気でオレたちを始末するか足止めしたいようだなァ」
「どうするヒロム?」
「姫さん守りながらとなるとさすがに厳しいかな……?」
突然のクリーチャーの出現と包囲に臨戦態勢を取るヒロムたち。ノアルに危機が迫っているかもしれない中、ヒロムは……




