198話 テロリスト・カーニバル
ビーストの口から明かされたソラたち迎撃チームの現状。
致命傷を受けて倒れている、それを聞かされたガイと真助は今すぐ助けに向かいたくて仕方がなかった。
が、ガイと真助がそれをしたくても敵がそれを許してくれない。
リュクスとテラー、リュクスが《強制契約》しているノブナガ、ビーストとヴァレット、そして決闘の裏で極秘に移送されていたはずが敵の手により救われた十神アルトが並んでいる。
《世界王府》の幹部とも言える能力者が6人もあつまり、そこにかの有名な歴史上の人物が精霊として敵となっている。
ビーストとヴァレットが倒したと思われるソラたちが心配なガイと真助が助けに向かいたくても迎えない状況の中、ゼロはヒロムに質問をした。
「おいヒロム。アイツらは何してやがる?」
「アイツら?」
「《一条》のヤツらだ。
オマエらやオレの指導を喜んで買って出たのに肝心のこの状況で何で介入してこない?まさかオレたちを囮にしてるとかじゃないよな?」
「んなわけねぇだろ」
「なら何で……」
「出てこれねぇから出てこないだけだ」
「あ?ヤツらがいたら戦力は……」
「《世界王府》にはまだノーザン・ジャックとヴィランがいる。
葉王たちが介入してコイツらを倒せるとしてもノーザン・ジャックやヴィランが出てくる前にアイツらが疲弊してたら対抗出来るはずの相手に苦戦させられることになる。アイツらはそうならないように見極めて動こうとしてるんだ」
「……疲弊云々を言うならオマエもだろヒロム。
オマエは……」
関係ない、とヒロムは自分を気遣うゼロに対して簡潔に返すと続けて白銀の稲妻を纏いながらゼロに伝えた。
「オレは《センチネル・ガーディアン》、元々この時のためにその名を与えられた能力者だ。アイツらが最後の砦になるのなら……オレは喜んでそのための努力を選択するまでだ」
「オマエ……」
「安心しろゼロ。オレは……死なない。約束したからな、帰るって」
心配するゼロを安心させようと微笑むヒロム。だがその微笑みの裏で彼は思考していた。
(ここからどうするか、全ての流れを掴むためにはそこをハッキリさせなきゃならない。相手は《世界王府》の能力者、それも主要メンバー4人とかつての敵の十神アルト、そして前回追い詰めたノブナガ。ノブナガはガイに任せても構わないかもしれないが……残りの能力者をどうするかだ。リュクスの相手をこのまま真助に任せてゼロにテラーの相手をさせたとしてもビーストと新しいヤツ、それに十神アルトが残る。3人相手にするくらいなら追い詰めるくらいなら可能かもしれないが……問題はソラたちだ。ビーストの言葉通りにソラたちが瀕死なら一刻を争う。十神アルトの出現で葉王や一条カズキが対応してくれていれば助かるはずだが……まだ潜んでる他の主要メンバーを警戒しているアイツらが動けなかったらソラたちは助からない。かと言ってフレイたちの誰かを向かわせるにしてもこの状態で魔力を割くことは難しい。どうすれば……)
ヒロムが頭の中で思考をひたすら働かせて取るべき行動の選択を迷っているとガイが横に並び立ち、並び立ったガイはヒロムの肩に手を置くと彼に優しく伝えた。
「ヒロム、オマエがやるってんなら止めない」
「ガイ?」
「オマエはペインを止めた能力者だ。現状実力があるのはオマエだ。そのオマエが言うならオレたちは何も文句はない。だから……せめて選ぶなら、命を多く救える可能性がある選択をしてくれ」
「……っ」
「その役に立てるのならオレと真助を使え。今オレたちもオマエと同じことを思ってるからな」
「ガイの言う通りだヒロム。責任とかんなもん忘れてオマエ個人の意志を優先しろよ」
「……ああ、ありがとう」
(本当にオマエらは……オレを何度も助けてくれる。
だからこそオマエらのためにオレは戦える。そんなオマエらを守るためにも!!)
「ガイ、真助。オマエらに託すぞ」
「ああ、任せろ」
「いつでもいいぜ」
「……アイツらを頼む!!」
ヒロムはガイと真助に一言を強く伝えると瞳を光らせ、ヒロムの瞳が光るとガイと真助の足下に魔法陣が現れて2人を光で包んでいく。
「させるか!!」
何かある、そう睨んだ十神アルトが阻止しようと闇を強く放出しようとするとゼロは滅弓・《ディアブロ》を構えて敵の方へと灰色の稲妻の矢を放って攻撃を阻止する。
「ちぃ!!」
「おい、邪魔すんなよテロリストが」
ゼロの放った矢が十神アルトの攻撃を妨害すると魔法陣が強く光りながらガイと真助を光とともにこの場から消してしまう。
消えた、のは確かだ。おそらく2人は……
「どこかに転移させたな」
何が起きたのか瞬時に察知したテラーはヒロムが何をしたのか声にし、テラーがそれを見抜くとヒロムは深呼吸するとゼロと共に構えた。
構えるヒロムとゼロ、2人の姿にテラーは不思議そうな顔をするとヒロムに対して素朴な疑問をぶつけた。
「何故転移させた?数的に不利な状況にありながらさらに不利になる人数にした?」
「救える命を1つでも多く救う、そのための選択をしただけだ」
「オレとヴァレットが始末したヤツらを助けに行ったとでも言いたいのか?アイツらは直に死ぬ。今更助けようとしても……」
「死なせない、2人なら必ず間に合うしソラたちは生きることを諦めたりしない。アイツらは全員生きて戻ってくる 」
「綺麗事でしかないよね、それ。
ビーストとヴァレット、テラーとオレ、そしてオレの魔剣により使役されるノブナガと表舞台に舞い戻ったアルトがここに揃った今、オマエら2人で何とかなるとでも思ってんの?」
「……勘違いすんなよリュクス。誰もオレたち2人でなんて言ってはいない」
「何?」
ヒロムの一言にリュクスが聞き返すと天高くから無数の氷柱がリュクスたちに襲いかかろうと降り注がれ、氷柱が迫ってくるとヴァレットは爆撃を起こして氷柱を防ぐ。
しかしヴァレットが爆撃を防ぐと数千の刃がどこからか飛んできて襲いかかろうとする。だがそれをビーストはクリーチャーを生み出して身代わりにすることで全て凌ぐ。
氷柱と刃、2つの攻撃に狙われたリュクスたちが警戒しているとヒロムとゼロのもとへと2人の人物が現れる。
「相変わらず……無謀なことをするが、その行動がいつも奇跡を起こしている。だからこそオレたちはヒロムの行動を信じる」
「バカバカしい、奇跡なんてねぇんだよ。
全てはこの男の行動を起こそうとした精神力が生んだ結果でしかない」
ヒロムの行動を無謀と称しながらもその行動が奇跡を呼ぶとも評しながら氷堂シンクが冷気を纏いながら現れ、シンクの言葉を否定しながらも奇跡ではなくヒロムの行動を起こそうとした心を評価するキッド・エスワードが音も立てずに静かに現れる。
「シンク……それにキッドも来てくれたか」
「勘違いするなよ姫神ヒロム。
オレがここに来たのはオマエを助けるためじゃない。《センチネル・ガーディアン》の責務を果たさなければその名を剥奪される可能性があるから来ただけだ」
「理由なんて何でもいい。2人が来てくれたのなら有難い」
「いいや、3人だ」
シンクとキッドの加勢にヒロムが感謝を述べているとどこからともなく声がし、ヒロムたちがその声に反応すると天高くから1人の青年が飛んでやってくる。
茶髪に黒い装束を上下に纏い、羽織を肩に乗せ両腕の前腕に細い帯のような白い布を巻いた青年は飛んでくるとヒロムのそばへと降り立つ。
「刀哉!!」
「よぉ、姫神ヒロム。
オレも加勢するぞ」
「んだよ、千剣刀哉。
オマエも来てたのかよ」
「おっ、キッドか。
オマエさんがいるのは驚きだな」
「神出鬼没がよく言う」
オマエさんもな、と青年……千剣刀哉はキッドに返すとリュクスたちに目を向け、ヒロムのそばにシンクたちが現れるとリュクスは舌打ちをした。
「この状況で《センチネル・ガーディアン》が3人も加勢に来たか……。こうなることを見越してたのなら、たしかに躊躇いなく転移させたのも納得ができる」
「あいにくオレはオマエらを本気で潰したいからな。
覚悟しとけ……《世界王府》、今日この戦いはオマエらのこれまでを覆す戦いになるからな」




