197話 復活のアルト
ペインが倒れ、ヒロムはペインを前にして立ったまま。
傍から見ればその状態だ。
そしてその状態の中でリュクスは全てを悟る。
「……ペインが死んだね」
ヒロムとペインの攻撃の衝撃に巻き込まれ倒れていたリュクスは立ち上がり、立ち上がって魔剣を持ち直すと不敵な笑みを浮かべながらヒロムに語りかける。
「ペインという同一個体の死をもってキミは唯一無二の姫神ヒロムとなったわけだ。おめでとう、感想を聞かせてくれないかな?」
「……」
「おいおい、無視か?
つれないな、せっかく《世界王府》のテロリストの1人を倒したんだろ?熱くなって何か叫んでたようだし……気持ちを語ってくれても構わな……」
リュクスの言葉を遮るようにヒロムは殺気を強く放ちながらリュクスに迫ると《ファーストライド》を発動させた状態で殴りかかり、ヒロムが迫るとリュクスは魔剣でヒロムの一撃を防ぐ。
「問答無用か……っ!!」
「てめぇは黙ってろ……リュクス!!
オマエがいなければペインは……」
「同一個体同士による共鳴か何かが起きたのかな?
なら知ってるよね……そう、ペインの姫神ヒロムとしての運命を狂わせたのはその世界にいたオレだ。けど、オレは関係ない 」
「オマエ……!!」
「事実だろ?
所詮別の世界の事件、別世界の同一個体が引き起こしたことだろ。それをいちいち気にしてたらオレ自身の人生が謳歌できない」
「オマエ……!!
オマエだって大切な人を奪われれば苦しいはずだろ!!」
「そんなものはとうの昔に経験済みだ。むしろオレはオマエのその知ったような口が気に食わない。十数年生きた程度で命の重さを知ったような言い方……オマエにそんな言われ方をされなくても命が重いってことは知ってんだよ」
「ふざけるな……!!」
「ふざけてねぇよ。オレはもう400年以上も生きて命が消えるのを目にしてんだからな」
「400年……?」
そうだよ、とリュクスはヒロムを押し返すとそのまま蹴り飛ばし、蹴り飛ばしたヒロムが難無く受け身を取るのを見届けるとリュクスは自身のことを明かしていく。
「かつてのオレは能力もないただの文学者だった。由緒ある金持ちの息子として父や母の期待を受けて努力するオレを支えてくれるメイドと妻となるはずの許嫁と暮らしていた。なのに……愚かなヤツらが起こした魔女狩りと称した人殺しの祭りで支えてくれていたメイドと妻となるはずだった許嫁は無実の罪で殺されたのさ」
「魔女狩り……?」
「500年生きてる葉王から聞いてねぇのか?
能力者ってのは最近できたワードだ。昔の人間からすれば祟りや呪いの類い、そして魔女の象徴として避けられてたからな」
リュクスが自身の話をする中でガイと真助、ゼロは立ち上がるとヒロムの隣に並び立ち、彼らが並ぶとリュクスはさらに話を進めていく。
「ある日、隣町からオレが戻ると町の広場が賑わっていた。気になったオレが向かうと……磔にされたメイドと許嫁がいた。何かが起こる、嫌な予感のしたオレが止めようとすると町のヤツらは2人を刺し殺し挙句の果てに焼いた!!能力を持たない2人を何の抵抗もなく殺した町のヤツらはオレを見て言ったんだ……『キミのお父さんの報告がなければ魔女を野放しにするところだった』ってな」
「!!」
「その時全て理解した。父にとってメイドと許嫁は飾り、それに心惹かれるオレが許せなかったんだと。そしてその時、オレは世界を呪うことを決めた。絶望とともに押し寄せる憎悪が……オレを能力者に変え、能力を得たオレはわずか2分で町のヤツらを1人残らず滅ぼした。そしてオレはその中に父がいないと知ると家に戻り母を殺した後にその首を持って父を殺しに向かった。あの時のアイツの顔はよく覚えている……全てはオマエのためだと言いたそうな顔で助けを求めてきたが、そんなのは聞く必要もなかったから殺してやった」
「復讐心が能力を……」
「不思議な話じゃないさ。精神的ショックにより後天的に能力を得るものもいるからね。ただし……オレの場合は違う。オレの場合は憎悪が全ての力となった。そしてその力を得た代償にオレは神に死ぬことを奪われた」
「死ぬことを奪われた!?」
「じゃあコイツは……不死身!?」
「野郎……不死身のくせして攻撃避けてたのか?」
「当たり前だろ鬼月真助。避けなかったらバレるだろ? 」
「そんだけの理由で……」
「まぁ、長く生きてりゃいいこともあった。この魔剣と契約してオレはあの世の魂を引き戻して精霊としてこの身に宿す力を得た」
「まさか……」
「そのまさかだよ。オレはオレを愛してくれた2人を強制契約した。でも結果は最悪だった。メイドの方は自我もあり精霊としての強さを持って現れたが仮面で素顔を隠すようになり、笑顔を見せなくなった。そして許嫁は……別人のようになって現れた」
「オマエ……大切な人を苦しませて苦しくないのか!?」
「だからオレはオマエが嫌いなんだよ姫神ヒロム。
生まれながら多くの精霊を宿して当たり前に共存している……何も失わずに生きてるオマエが、オレは大嫌いなんだよ」
「ただのヒロムに対しての八つ当たりじゃねぇか」
「それも陰湿な八つ当たりだ。そんなくだらない理由でヒロムを殺そうとしてたなんてな」
「くだらなくて結構だ。
オマエらにオレは理解できない。そしてこの世界はオレを受け入れない……だからオレはこの世界を壊す」
リュクスが指を鳴らすと彼の前にノブナガが現れ、さらにリュクスが話を終えるとそれを待っていたかのようにテラーが彼の隣に並び立つ。
「死者を呼び戻す、いつ聞いても知的好奇心が刺激される」
「……マッドサイエンティストが。
楽しむなよ」
「楽しんではいないさ。キミの力はヴィランの計画のためにも必要なものだからこそ評価してるのさ」
「……くだらないね。
利害が一致してるから互いに利用し合ってるだけの関係なのに評価してるなんて言われても何も感じない」
「そうか。ならこれ以上は何も言わないでおこう。
それよりも……」
「そろそろ目的は達成させられるはずだ」
何かを待つようにリュクスとテラーが不敵な笑みを浮かべると天から何かが勢いよく2人の前に落下し、落下した何かは煙を巻き上げながら周囲に衝撃を走らせる。
何が落下したのか分からぬヒロムたちは吹き飛ばされぬように耐え、ヒロムたちが衝撃に耐える中煙を巻き上げた落下したものが正体を現す。
「……久しぶりの外の世界だ。
空気は相変わらずまずいし、何より景色がクソだ」
煙を 消すように現れたもの……それは男だった。伸ばすだけ伸ばして放置されたような白い髪、痩せ細った体 、血のような赤い瞳の男は不敵な笑みを浮かべながら周囲を見渡し、男の姿を目にしたヒロムは叫んでしまう。
「十神アルト!!」
「その声……オマエか、姫神ヒロム!!
会いたかったぞ……オレをこんな風にした憎き男!!」
ヒロムと男……十神アルトが睨み合う中、ガイと真助は十神アルトの姿を目にしてある事を気にしてしまう。
「ま、待て……コイツが本物の十神アルトだと言うなら……」
「迎撃チームのアイツらはどうなったんだ……!?」
倒れたさ、と闇と共にビーストとヴァレットが現れ、現れたビーストはヒロムたちに冷たく告げる。
「オマエらの仲間は致命傷を受けて今頃死ぬのを待ちながら倒れている。助けに行きたいのなら行け……ただし、これだけの能力者を前にして背を向けられるならな」




