195話 救いをください
ペインを倒したいヒロムが目にしたのは霊体となっている血だらけのユリナの姿だった。
ペインのそばにいる霊体となっている彼女にヒロムが戸惑っているとペインは彼女に気づいていないのかヒロムを倒そうと闇を光線にして放つが、ヒロムは意識を彼女からペインへと戻すと素手で光線を握り消す。
「ちぃ……!!」
「ペイン、オマエのそばにいる彼女は……」
「オレのそば?何を言い出す?外道輪廻ことか?
目に見えるようになった途端おかしなことを言うつもりか?」
「……」
(ペインは彼女が見えていない。霊装の意志と一体化し、霊装の力と同化することで昇華させてるから見えてるのか?だとしたら彼女は……)
『助けて』
ヒロムが自分だけが見えてるとされる血だらけのユリナの霊体について考えていると彼女がヒロムに話しかける。その瞬間、ヒロムの周りの時間が止まったように他の全ての動きと音が止まり、ペインのそばにいる霊体のユリナは涙を流してヒロムに訴えかける。
『彼を助けて……私への罪悪感で自分を傷つける彼を助けて』
「アンタは……ユリナ、なんだよな?」
『アナタの世界の私と同じ姿なら分かるわよね……私は彼と同じ世界にいた姫野ユリナ。そして、彼をペインに変えてしまった元凶なの』
「待ってくれ!!アンタはリュクスによって殺され、それによってアンタの大切な人はペインに……そして多くの世界を壊したんだろ!?アンタは何も……」
『違うの……。彼は自分と同じような過ちを繰り返さないためにほかの世界を転移してるの』
「過ちを繰り返さないために他の世界を……!?
何言って……」
『全ての始まりは……全てが壊れたのは私がリュクスに攫われたからなの。攫われた私を助けたいなら絶望を受け入れろとリュクスに告げられた彼はリュクスが仕込んだゲームによってガイたちやエレナたちが殺される瞬間を見せつけられた。そして……私が殺される瞬間を映像で見せられた彼は私がいる所に慌てて来て……そこからはアナタが彼の記憶を見たところに続くわ』
「待ってくれ……。アンタの死を受け入れられなかったペインは世界は無意味だって結論付けて破壊してるんじゃ……」
『違うの……本心は違うの。彼はそう思い込むことで本心を押し殺してるの。本当は……アナタたちを救いたいのに』
彼女の言葉が信じられないヒロムが驚きを隠せないでいると霊体の彼女はヒロムに驚愕の事実を伝える。
『彼は絶望を前にしても諦めず強くなれる自分とは違う存在を強くさせて自分を裁かせたいの。守れなかった自分を……私を救えなかったことへの償いとして』
「じゃあ、今のコイツは……」
『アナタを試しているの。どの世界でも彼を別世界の自分だと知った姫神ヒロムは絶望を乗り越えられなかった。でもアナタは違ったの。絶望を乗り越え、今では多くの人の中心にいる。そんなアナタを……彼は救いだと感じているの』
「でもコイツは……」
『彼は私への罪悪感で感情を殺してる。でもたまに……1人になった時に見せてくれるの。アナタが困難を乗り越えた時に「コイツになら全てを託せるかもしれない」って』
「……ッ!!」
『こんなことを他の世界のアナタに頼むのは間違ってるのは私でも分かるわ。でも……アナタにしか頼めないの。お願い……』
ヒロムに全ての真実とペインの思いを語った霊体のユリナは大粒の涙を流しながらヒロムへと自身の願いを伝える。
『彼を助けて……!!
これ以上彼が苦しまなくていいように彼を闇から助けて……!!』
「……」
『アナタに頼むのは間違いかもしれない。だけど……』
「任せてくれ」
霊体のユリナの言葉を聞いたヒロムは拳を強く握り、そして深呼吸をすると彼女に伝えた。
「必ずペインを止める。そしてアンタと一緒に闇から解放する。
同じ姫神ヒロムとしてでは無く、絶望に立ち向かう1人の能力者として苦しみから救ってみせる」
『……ありがとう……ヒロムくん』
彼女の頼みをヒロムが聞き受けた、そのことに対して彼女が礼を言うと時の流れが戻る。時の流れが戻るとペインがヒロムに接近して殴ろうと一撃を放つ。
「何をよそ見している!!」
ドス黒い闇を纏わせた拳で一撃を放とうとするペイン。そのペインの拳が迫る中でヒロムは拳を強く握るとペインの拳を強く殴って押し返し、押し返されて怯んだペインを強く睨むと彼の顔を強く殴った。
「!!」
「……よそ見してんのはオマエだろうがペイン!!
自分を偽って逃げんじゃねぇよ!!」
ペインを殴ったヒロムは次々に攻撃を放ってペインにダメージを与え、ペインを数度殴ったヒロムはペインの胸ぐらを掴むと強く叫んだ。
「悲しみを乗り越える力がないなら誰かを頼れば絶望しなかったはずだろ!!オマエ1人で抱え込んでも解決できないなんて昔から分かってただろうが!!」
「何を……!!」
「そうやって自分の気持ちを偽って大切な人を悲しませるな!!
オマエが大切な人を失って悲しんでるようにその人も今のオマエを見て苦しんでるんだぞ!!」
「オマエ……またオレの記憶を見たのか!!」
記憶じゃねぇ、とヒロムはペインの言葉を強く否定すると頭突きを食らわせ、頭突きを受けてペインが怯むと胸ぐらを掴む手を離すと共に蹴りを入れて敵を蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされたペインは素早く起き上がると両手に 力を纏わせながら合掌させ、ペインの両手が合掌されると蒼い炎、紅い炎、黒い雷、雷 、闇、氷、影の刃がヒロムに向けて放たれるが、ヒロムは白銀の稲妻と光を纏わせた拳で正拳突きを放つと衝撃波を生み出してペインの攻撃を消し去ってしまう。
ペインの攻撃を消し去ったヒロムは拳を強く握るとペインにある事を伝えた。
「絶望を乗り越える存在を見つけるためだけに仇敵と組むなんざ間違ってる!!オマエがどんな理想を抱こうと自分の感情を偽るような行動だけは取っちゃダメだ!!罪悪感を感じてるなら……せめて彼女が他の世界では笑えるように動けばよかっただろうが!!」
「オマエ、誰のことを言ってる!!
オマエの言う彼女ってのは誰なんだ!!そいつは誰なんだ!!」
教えてやるよ、とヒロムは右手に光と白銀の稲妻を集めて強く纏わせると力を高め、そして拳を構える中でペインに伝える。
「オマエが絶望していることに誰よりも悲しみを感じ、今でもオマエを愛している人だ!!」
「オレを今でも……愛している……?
まさか……」
「終わらせてやるペイン!!
負の連鎖を……憎しみの連鎖を……オマエの中にある絶望の枷も何もかも!!」
「黙れ!!」
ペインはヒロムの言葉を強く否定するように叫ぶとドス黒い闇を右手に収束させ、ヒロムが拳に力を高め構えるのを真似るように構えると走り出す。
ペインが走り出すと黒と白の歪に混ざったような何かも強い力を纏いながらヒロムに迫っていくが、ヒロムは全ての力を拳に集めるとペインが迫るよりも先に拳撃を放つ。
「覇皇天!!」
ヒロムが拳撃を放つと光と白銀の稲妻が衝撃とともに大地を駆けながら解き放たれ、解き放たれた力は歪に混ざったような何かを吹き飛ばしながらペインに迫っていく。
「ディエンド・バースト !!」
ヒロムが放った攻撃が迫る中でペインは拳撃を放つとドス黒い闇を解き放ちヒロムが放った攻撃を押し返そうとぶつける。
2つの力が激しくぶつかり合う。負けたくない、その想いが強くあるヒロムとペインの攻撃がぶつかり合い空間が歪むほどの力が2つの力の間で生まれる。
そして……




