193話 無謀な暴走
「霊魔合身!!」
「キュー!!」
ソラが叫ぶと紅い炎を纏いながら天高く飛び上がったナッツは炎と一体化すると紅蓮の炎の嵐を巻き起こし、炎の嵐はソラを飲み込んでいく。
炎の嵐に飲まれたソラは《ヒート・マグナム》と《フレイム・バレット》を強く握ると両腕と一体化させ、さらに炎の嵐の全てをその身に取り込んでいく。
「ガァァァァア!!」
ソラの髪は逆立つと額に2本の炎の角が現れ、両腕、両脚は赤い甲殻に覆われると鋭い爪を宿し、さらに両肩と胴、腰に赤い甲殻のアーマーが纏われると逆立つ髪が炎へと変化する。
そしてソラの瞳は紅蓮に染まり、ソラは雄叫びを上げる。
全身を変化させたソラの頬から炎の角へと繋がるように紅いライン状の痣が現れ、痣の出現とともにソラは全身から炎を強く放出させると獣のように叫ぶ。
「ガァァァァア!!」
ソラが叫ぶとビースト、ヴァレット、クローザーが吹き飛ばされ、そしてクローザーは全身が炎に飲まれるとそのまま爆散して消えてしまう。
「バカな……!?
クローザーが!?」
「ガルァァァ……」
まるで獣、もはや獣としか言い表せないような状態のソラは炎を強く纏うと一瞬でヴァレットに接近して両手の爪で襲いかかる。
「甘い!!」
ソラが攻撃を放つ前にヴァレットは爆撃を引き起こしてソラを返り討ちにしようとする……が、ヴァレットが爆撃を引き起こそうとするとソラはそれを炎で強引に焼き消すと攻撃を続行する。
「なっ……オレの能力を焼き消した!?」
「避けろヴァレット!!」
分かってる、とヴァレットはビーストの言葉に言い返すとソラの爪を回避し、回避とともにソラの頭へと至近距離から弾丸を撃ち込もうとした。だが……
ヴァレットがソラの頭を狙おうとするとソラの全身から熱波が放たれてヴァレットを吹き飛ばす。
「この……!!」
「これ以上はさせん!!」
ヴァレットが吹き飛ばされる中でビーストは両腕を《魔人》の力で変化させると闇を纏いながらソラを攻撃しようとするが、ソラは体を炎に変えてビーストの攻撃を躱すと腕だけを元に戻して拳撃を叩き込んでビーストを殴り飛ばす。
「!!」
「ガァ!!」
ビーストを 殴り飛ばしたソラは 炎を強く放出するとビーストが飛ぶ先へと先回りしてさらなる一撃を食らわせ、さらに ソラはビーストとヴァレットに向けて手をかざすと爆炎をビームにして放って敵2人を襲わせる。
「「ぐぁっ!!」」
ビーストとヴァレットはソラの攻撃を直撃で受けてしまう……が、流石は《世界王府》の能力者というべきか直撃の瞬間に力を強く放出していたらしく最小限のダメージで抑えていた。
先程と一転して追い詰めるソラ、そのソラの姿にシオンが目を奪われているとノアルはシオンに慌てて伝える。
「シオン、今すぐソラを止めるぞ!!」
「おい、何言い出すんだよ!?
今のソラはビーストとヴァレットを追い詰めて……」
「あの姿は不完全なんだ!!まだソラはあの力の破壊衝動を抑えきれるだけの力を会得していない!!このままだと命が……」
「ソラの命が危ないって言うのか!?」
「違う……キャロやシャロが死ぬ……!!」
「……は?」
ソラが2人の敵を相手にする中でノアルが口にした言葉を受けたシオンは耳を疑った。
キャロとシャロ、それはソラがナッツと同じように宿す子猫の精霊だ。戦う力を持たないソラの力の支えとして宿る幼い2匹は戦闘に巻き込まぬように安全な場所にいるユリナたちにソラが預けている。その2匹の精霊が何故?シオンは耳を疑うしかなく、思わず聞き返す。
「お、おい……何の冗談だよ?
笑わせんなよ……今真剣な戦いの最中なんだぞ?
なのに……」
「オレの宿すガゥやバゥ、それにナッツはオレやソラの力に適応してアシストするだけの力を秘めてる精霊だ。だからこそ不完全で暴走した力を前にしても無事でいられる。けどキャロやシャロは違う!!あの2匹はそもそも存在するだけでソラの力を高めてくれる存在、存在するだけで効力を発揮する精霊だがソラが引き起こした暴走や力の過度な上昇による負荷のフィードバックについて処理する力は持っていない!!」
「さっさと倒して止めればいいだけの話だろ!!
今すぐなんて……」
「早くしないとダメなんだ……!!
でないとソラは……敵を倒すことに意識を奪われている今のソラがキャロとシャロを殺してしまい、その自覚もなく正気に戻ったソラは自分の手で大切な家族を殺したと後悔させられることになるんだぞ!!」
「っ……!!」
ノアルが口にした言葉、大切な家族を殺したと後悔させられることになると言われたシオンはノアルが慌てて止めたがるその理由を知ると全てを察してしまう。
今のソラは自分ではおそらく止まろうとしない。そして守りたいもの、これまで共にすごしてきた幼い命を無自覚に奪うとも知らない。シオン自身は過去に、そして仲間の多くが大切な人を失うところを何度も遭遇してきた。それをソラは自らの手で引き起こそうとしているのだ。
「面白い……相馬ソラ!!
オマエのその力、認めてやる!!」
ヴァレットは魔力を強く放出させると自身を中心とした爆炎のドームを生み出し、そして爆炎のドームが太陽のように燃え盛る中でヴァレットはソラを倒そうと構える。
「相馬ソラ、オマエはオレがこの手で殺したくなった!!
その力、その全てをぶつけてこい!!」
「ガァァァァア!!」
ソラを倒すべくヴァレットが力を高める中でソラは雄叫びを上げながら紅蓮の爆炎を全身から放出させ、両手の爪を炎で強化しながら構える。構えるソラは突然血を吐き、ソラが血を吐くとシオンは慌てて止めに入ろうとする。
「やめろソラ!!」
(ダメだソラ!!ノアルの話が本当ならオマエが吐血するほどの負荷を今あのチビ猫たちも受けてるんだ!!やめてくれ……オレが姉さんを殺し、ヒロムが目の前で父親を失ったあの苦しみをオマエだけは体験しないでくれ!!)
「オマエだけはそっちにいくなソラ!!」
ソラを止めようと必死に走るシオン、だがシオンがソラを止めようとするとソラはヴァレットではなく迫り来るシオンの方を向くと爆炎をシオンに向けて放つ。
敵と認識された、今のソラが破壊衝動に駆られるが故にシオンが標的にされたとシオン自身は理解し、そしてソラの一撃を全身に受けてしまう。
「がぁぁぁあ!!」
「ガァ……シオ……ン……?」
シオンが全身をひどく負傷して倒れるとそこでソラは正気に戻ったらしく、ソラが正気に戻り倒れるシオンを目にした瞬間にヴァレットの攻撃が彼やノアル、シオンを巻き込み巨大な爆発が3人を襲う。
爆撃が徐々に過激になると3人は為す術もないまま全身負傷して 倒れ、ビーストとヴァレットを追い詰めようとしていたソラは元の姿に戻るとナッツと共に倒れる?
「くっ……」
唯一意識のあったノアルは何とか立ち上がり戦おうとするが、ビーストはそんなノアルを蹴り飛ばすとソラに向けて右手をかざし、かざされた右手が妖しく光るとソラの体から紅い炎が少し飛び出してビーストの手の中に取り込まれる。
「ソラの力を……!?」
「半端な《魔人》の力でここまで達したとなれば回収せぬ手はない。これでオレはより強くなれる」
「この……」
「残念だったな、ノアル。
オマエと紅月シオンだけは冷静だったのに1人の男に全て壊された……同情するぜ」
「待て……!!」
「行くぞヴァレット。
これで移送車を狙うのを邪魔するものはいなくなった」
ビーストはヴァレットを連れて闇と共に消え、ビーストとヴァレットが消えて数秒後にどこか遠くで爆発音が鳴る。
十神アルトを狙って敵が暴れている。なのに……
「クソ……!!」
敗北した。ノアルたちはビーストたちを相手にして敵の目的を阻止できずに敗北してしまった……




