190話 テラー
大淵麿肥子と繋がっていた『先生』と呼ばれていた男は本性を表し、自らの名を名乗った。
テラー、《世界王府》の能力者であることとNO.9であることをヒロムたちに話し、そして大淵麿肥子や他の大臣がクリーチャーへと変貌したことで落ち着きを見せていた会場はパニックに襲われる。
「さて、姫神ヒロム……私のモルモットを可愛がってくれ」
「モルモットだと……?」
「ああ、オマエたちにとっては証拠だったか?
私の口車に乗せられて《センチネル・ガーディアン》の制度に不満があるとして動かされ、そして今の日本には《センチネル・ガーディアン》にすら勝てない能力者が多いことを国民に思い知らせた上でオマエたちを倒してこの国の希望を摘み取るつもりだったが……いやはや、ペインが危険視して警戒するだけのことはある。《ソウルギア》、ペインがこれまで渡り歩いてきた他の世界にはない力だな」
「オレのことはどうでもいい。
それよりも……モルモットってのはどういうことだ?」
「実験材料だからだ。私にとって下等な人間は私の好奇心を解消する道具・材料でしかない。つまり、大淵麿肥子のような他人を簡単に信用して軽率に動くバカは実験に最適なのだよ」
「オマエ、人の命を何だと……」
「それより……私の味方をした男を気にしてる場合か?」
どういう意味だ、とヒロムがテラーの言葉に問うように言葉を返すと彼は指を鳴らし、テラーが指を鳴らすと客席で何かが爆発するような音がする。
「「!!」」
ヒロムたちが客席の方を見ると客席に巨大な卵のようなものが現れ、現れた卵のようなものからクリーチャーにも似た化け物が次々に生み出されていく。
クリーチャーにも似た化け物が次々に現れることで客席の観客は我先にと逃げようと慌てて出口へと駆け込み、出口に人が集まることで通行が困難となり渋滞となるなり化け物はそこへ向かおうとゆっくりと動き始める。
「何だあの卵は……!?」
「クリーチャーの細胞を用いて私が生み出した新型クリーチャーを生み出すゲートですよ。ビーストのクリーチャーが闇や負の感情を触媒に生まれるその性質をより効率よく進められるように循環させながら好きに生み出せるのですよ」
「なっ……」
「それがオマエの力なのか……!?」
「これは遊び。私の些細な好奇心にビーストの力を借りて形にしただけのもの。こんなものに驚かないでもらいたい」
「てめぇ……!!」
「姫神ヒロム!!ヤツのワードに耳を貸すな!!
今はモンスターの対処を優先すべきだ!!」
「太刀神……分かってる!!
ジンとユウマ、神門アイシャと神明宮新弥はトウマとナギトと一緒に客席を頼む!!
太刀神剣一は四ノ宮総悟を避難させろ!!ガイと真助、ゼロは……手を貸せ!!」
「「了解!!」」
ヒロムが指示を出すとナギトとトウマが風と光の翼を纏いながら客席へと真っ直ぐ飛んで向かい、ジンたちは魔力を足に纏わせて跳躍力を強化する形で後を追う。
太刀神剣一は四ノ宮総悟を支えながら安全な場所へと避難すべく移動を始め、ヒロムとガイ、真助とゼロはテラーとクリーチャーを倒すべく構える。
が、そんなヒロムたちの動きを前にしてテラーは何故か構えようとしない。
「……暑苦しいな。
別に私はオマエたちと戦ってみたいとは思わんのだがね」
「うるせぇよテロリスト。
オマエみたいなヤツはここでぶっ潰す!!」
「その言い方……私だけだと思ったのか?」
「あ?」
「私にも仲間がいるのでね」
テラーが言うと彼の背後に音も立てずにペインとリュクスが現れ、現れたリュクスは魔剣・《ソウルイーター》を手に取るなり軽く振ってかつて魔剣の力で精霊として《強制契約》をしたノブナガを出現させる。
「ペイン……!!」
「それにリュクスと……」
「厄介なノブナガとか言うのもいるみたいだな」
ペインとリュクス、そしてノブナガの登場にヒロムたちの構える力が強くなる中でテラーはペインに向けて何やら文句を言い始める。
「ダメじゃないか、ペイン。
姫神ヒロムがこんな力を秘めていたのなら事前に教えてくれなければ困るぞ」
「うるさいぞテラー。オレは忠告しておいたはずだ。
姫神ヒロムを侮るな、ヤツには想定を上回る力が眠ってると教えたはずだ」
「そんな曖昧なものは情報 ではない。ただの推測だ。
私が欲しいのは確かな情報だぞ」
「オレはオマエのモルモットとは違う。
モルモットのような利口さを求めるのならオマエの手で情報を集められる駒でも用意しろ。それかリュクスに強制契約させろ」
「やめてくれないかなペイン。
オレはこんなマッドサイエンティストに手を貸すつもりは無いよ。ここに来たのはあくまで時間稼ぎの足止め、戦えないテラーの代わりにこの世界のもう1人のキミとその仲間を相手にしに来たんだ」
「ふん……」
「おい、時間稼ぎってのはどういうことだ?」
言葉の通りだ、とペインはリュクスの口にした『時間稼ぎ』について反応したヒロムに向けて自分たちの目的を明かしていく。
「テラーのあやつり人形となった大淵麿肥子とかいう男が十神アルトの極秘移送を話してくれたからな。この決闘を隠れ蓑にして行うとさえ分かれば移送先の場所や移送のタイミングが分からずとも待機さえしておけば勝手に教えてくれるのは分かったから楽に用意が出来た」
「テラーの計画だと仲間になったハウンドこと科宮アンネに与えた呪具で全滅させてる手筈だったのに……しぶとさだけは相変わらずだね。おかげでビーストが十神アルトを回収するまでキミたちを足止めしなきゃならなくなったんだから」
「生憎、オマエらの思い通りには動かないのがオレたちだ。
ビーストが1人で回収に向かってるってなら返り討ちにあってるだろうな」
「誰が1人だって?」
「何?」
「オレたちは《世界王府》……仲間の能力者は他にもいる」
「そういうわけだから姫神ヒロム、大人しく殺されてよ♪」
******
その頃……
ヒロムたちの決闘が行われていたスタジアムから離れたところにある地点で火が上がっていた。黒煙が巻き上がり、街の人々は悲鳴を上げながらクリーチャーから逃げていた。
「きゃぁぁぁぁ!!」
街の人々がクリーチャーから逃げる中、逃げる人々とは逆にクリーチャーの方へと相馬ソラは歩きながら紅い拳銃・《ヒート・マグナム》を構えて次々に炎の弾丸を撃って敵を倒していき、さらに紅月シオンが雷の槍を出現させるとそれを用いて敵を薙ぎ払っていく。
そして
東雲ノアルは《世界王府》の能力者であるビーストと対峙していた。
「ビースト……!!」
「愚かな魔人が……邪魔をするか?」
「当然だ。オマエが狙うあの男はかつて日本を裏で都合よく支配していた男だ。そんなヤツを野放しにさせるようなことを見過ごすことは出来ない」
「覚悟しとけビースト。こっちはオレとシオンとノアルの3人、対してオマエは数稼ぎのクリーチャーとオマエ1人だ。戦力差は歴然だ」
「それは違うな」
ビーストは1人、ソラがそう口にすると突然魔力の弾丸がソラたちに向けて飛んでくる。
「!!」
飛んでくる魔力の弾丸をソラは炎を放つことで防ぎ、ソラが魔力の弾丸を防ぐとビーストのそばに怪しい男が現れる。
黒いゴーグルで目を隠し、体にフィットするボディースーツを着た上に銀色のアーマーを装着した怪しい男、その男は右手に魔力を纏わすとソラたちに名乗る。
「よぉ、ガキども。
オレはヴァレット、《世界王府》のNO.7の地位を与えられた能力者だ。覚悟しろよガキども……殺してやるからよ」




