19話 獣の道
一方……
場所は変わってとある高校。学校名は私立彩蓮学園。ヒロムやユリナたちの通う姫城高校のある街の隣にある学校で、姫城高校と同じく生徒の中に能力者が存在している。というよりはほとんどの学校に能力者の生徒は必ずと言えるほどに在学してるので言い方を変えれば姫城高校と同じように他より多くの能力者が在学してるというべきかもしれない。
そんな彩蓮学園の2年C組の教室の席に東雲ノアルは座っていた。
1限目の授業が終わったらしく机の上に開かれた教科書とノートを片付けるとノアルは次の授業の用意をしており、用意を終えるとノアルは一息つく。一息ついたノアル、そのノアルは今朝のクリーチャーの事を頭の中で考えていた。
「……」
(《魔人》の力で生み出された化け物、クリーチャー。物にその力を宿させる形で生み出されたクリーチャーには自我と呼べるものはなく生み出しているあのビーストと呼ばれる男に操られていると見て間違いないが……あの《魔人》の力を持つ男は何者なんだ?現存している《魔人》の能力者は純粋種と言われるオレと混血とも言えるソラと鬼桜葉王とともに《一条》に仕えているあの男だけだと聞かされていたが……この世界の広さからすれば誰も認識していなかった《魔人》の力の所有者がいてもおかしくはないのか?いや、そんな憶測だけで判断して大丈夫なのか?そもそも……)
「ノアルさん?」
ノアルがクリーチャーとビーストについて考えていると誰かが彼に声をかける。声のした方へノアルが目を向けるとその先には腰まである長い金色の髪の青く澄んだ瞳を持つ少女が彼の席へと近づいていた。
考えていたことがハッキリまとまっていないがノアルはひとまずそれを後回しにして声をかけてきた彼女に話しかけた。
「エレナ、どうかしたのか?」
「いえ、大したことでは無いのですがノアルさんが何か難しい顔をされていたので……もしかしてまだ学校には慣れませんか?」
「あっ、いや……そんなことはない。キミが優しくしてくれてるし、周りの人も優しいから逆に申し訳なく思うくらいだよ」
「そうですか。でももし何かあったら言ってくださいね。ヒロムさんからノアルさんのことをよろしく頼まれてますので」
彼女は……愛神エレナは優しく微笑みながらノアルに言い、彼女にどう返していいか分からないノアルはとりあえず言葉の代わりに頷く。ノアルが何かを言うでもなく頷くとエレナは優しく彼を見つめ、彼を見つめるエレナは何かを言おうとしたが、それを後ろから別の人物が邪魔をする。
「あら、2人して何話してるのかしら?」
後ろから話しかけてきた別の人物、膝裏まではある長さの水色の髪のモデルのようなスレンダーなスタイルの少女はエレナを後ろから抱きしめるように彼女に迫り、少女の行動にエレナは戸惑いながら彼女に説明した。
「ノアルさんが難しい顔をされていたので少しお話していただけですよ、ユキナ」
「ふーん……。てっきりノアルの事を口説いてるのかと思ったわ」
「そういうのじゃないです。私はヒロムさんにお願いされてノアルさんのお役に立とうとしてるだけですから」
「あら、てっきりヒロムに褒めてもらいたくて下心剥き出しでやってると思ってたんだけど……違うの?」
「違います!!そんなやましい気持ちでやってません!!
そういうユキナこそヒロムさんにお礼言われたくてたまにノアルさんの手助けしてるじゃないですか」
「私はそんなんじゃないわよ。ただ私はヒロムの力になれるのなら自分を犠牲にしてでもどんな事も助けたいってだけよ」
「でも褒められたいんですよね?」
「そこは当たり前よ」
エレナと水色の髪の少女・美神ユキナの会話が続く中話についていけないノアルがどうしていいのか分からず戸惑っていると……
「ちょっと待ちなさい!!」
エレナとユキナの会話に割って入るように突然長い赤髪の少女がやって来て、声高々にエレナとユキナに向けて告げた。
「ヒロムに認められるのは私なのよ!!エレナとユキナじゃなくて私が最後にヒロムと幸せになるんだからそこ忘れないで!!」
「……」
「……」
突然現れた赤髪の少女の突然の言葉に教室は一瞬だが静寂に飲まれるもすぐに元に戻り、エレナとユキナはため息をつくと彼女に注意した。
「アキナ、そんなことを声を大きくして言ったらヒロムさんに迷惑がかかるからやめてと何度言えば分かるの?」
「え?いや、私もほら……ヒロムへの気持ちは負けてないって言いたかったんだけど……」
「というかあまりの自分のしつこさにヒロムに避けられてるとか気にしてたのに反省してないの?」
「甘いわねユキナ。不安になるのは人として仕方ないけど、恋する乙女が負けを認めたら勝負はそこで終わるのよ!!」
「……ヒロムに相手にされてないなら始まってすらいないわよ」
「え……」
「そうですね。あと、ヒロムさんは今は《センチネル・ガーディアン》の1人だから悪目立ちさせるようなことは避けた方がいいと思う」
「あれ〜?2人とも冷たくない〜?」
「普通です」
「普通よ」
「ひどい〜!!
購買に行ったレナにも同じようなこと言われたし!!
ノアルは私の事優しくしてくれるよね?」
「いや、オレは……」
エレナとユキナに辛辣な言葉を告げられた少女……朱神アキナは助けを求めるかのようにノアルに優しい言葉を求め、求められたノアルは少し困りながらも彼女に何か言おうとした……がアキナへ何か言おうとしたその時、ノアルは何かを感じ取ると視線を窓の方に向ける。別に窓の方には何かあるわけではない。だが、ノアルはその方向から何かを感じたのだ。
「……」
(今のは一体……?何かがオレを見ていた。エレナたちや他の生徒たちがいる中でオレに対してピンポイントで殺気を向けていた。
強い負の念が込められた視線……一体何がオレに対してそんな視線を向けているんだ……?)
「……え!?ノアル!?
無視されるのはひどいんだけど!?」
「え、ああ……すまない。
聞いてなかった」
「聞いてなかった!?それもひどくない!?」
「すまない。少し……考え事をしていた」
(今朝のビーストと名乗っていたあの《魔人》の能力者、あの男と今の視線には何か関係があるのか?そもそも何故あのビーストという男はオレのことを毛嫌いするようなあんな態度を見せていた。今の視線が仮にビーストだとしたら……ヤツは何故かオレを狙う?)
「……オマエは一体、誰なんだ……?」
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ノアルが何かの視線を感じていた頃……彼が視線を感じて目を向けていた方、彼のいる所から1kmほど離れたところにある建屋の屋上にビーストが立っていた。1kmほど離れていてはそれなりの距離で遠くにいる人物など目視で確認など出来ないと思われるが、それでもビーストは視線をノアルがいる彩蓮学園の方へと剥けていた。
「……忌み子のくせに幸せを感じるとは贅沢な身分だ。今のうちに味わえばいい。オマエの居場所はそこでないことをすぐに理解させてやる」
「ここにいたか、ビースト」
ビーストがノアルに対しての不気味で異常な感情を見せる中でノーザン・ジャックが彼のもとへ現れ、ノーザン・ジャックが現れるとビーストは感情を抑えてノーザン・ジャックに尋ねた。
「次の指示が出たのか?どこを破壊すればいい?」
「落ち着けビースト。次の指示は新たなクリーチャーの作成だ。《センチネル・ガーディアン》では手も足も出ないような新たなクリーチャー、それをどうにかして1体生み出せというのがヴィランの指示だ」
「新たなクリーチャー、か。ずいぶんと簡単に言ってくれるな。だが……タイミング的にはちょうどいい。ノーザン・ジャック、ヴィランに伝言を頼めるか?」
「その伝言が指示を実行する前に何かしたいって話ならヴィランはすでに見抜いている。オマエが考えてるそれが遂行されてから新たなクリーチャーを生み出せ、これがヴィランの指示と伝言だ」
「……そうか、さすがは我らがリーダーだ。
話が早くて助かる。それなら、早々に私用を済ませてヴィランの望みを叶えよう」




