189話 陰謀のエピソード
数分後……
特別観覧席に隠れていた防衛大臣の大淵麿肥子は複数人の他の大臣を引き連れる形で現れ、大淵麿肥子が何を語るのかを聞こうと逃げようとしていた観客たちは客席に戻っていた。
ヒロムはガイ、ナギト、真助、ゼロ、トウマ、最終戦を戦い《カリギュラ》を共に相手にしたジンとユウマ、最終戦に参加していた神門アイシャと神明宮新弥、そして緊急で治癒を施された四ノ宮総悟が太刀神剣一に支えられながら待ち構えていた。
「さて……大淵麿肥子。
弁解するならさっさとしろよ」
「な、何の話だね?」
「とぼけんなよ。この決闘、もはや最終戦は中止に近しい結果だ。
だがその結果と展開を踏まえてオマエがどう考えてるのか教えろよ」
「中止だというなら仕切り直しだ!!
そもそもオマエは精霊の使用禁止のルールを無視した!!その時点でルール違反で反則負けのはずだ!!」
うるせぇよ、とジンは大淵麿肥子に近づくと顔面を強く殴り、殴られた大淵麿肥子が倒れるとジンは睨みながら強く言った。
「安全なところで見てるだけのクソ野郎が偉そうに言うな!!
こっちは本気で戦ってたんだぞ!!その結果が出たも同然なのにかってに仕切るな!!」
「何をするんだ!!おい《始末屋》!!
この小僧を何とかしろ!!」
断わる、と四ノ宮総悟は大淵麿肥子の命令を強く拒否するとその理由を話していく。
「貴様は姫神ヒロムはこの国の防衛戦力として不足しているとし、さらには《センチネル・ガーディアン》は不要と豪語していたが結果はどうだ?姫神ヒロムは防衛戦力として不足しているどころか現状この男に代われるだけの戦力としての力を持つ能力者がいない事が明らかになった。挙句の果てには貴様が用意した能力者は誰1人として《センチネル・ガーディアン》側の能力者を追い詰めることすら出来なかった。貴様がルール違反ギリギリで雇用したアーサー・アストリアも役に立たない始末だ」
「黙れ!!口答えとは何事だ!!
そもそも決闘をめちゃくちゃにしたのはオマエのところの能力者の女だ!!私は悪くない!!」
「そうか。ならばその責任を取って《始末屋》は解散させてもらう。ただし、ジンに関しては姫神ヒロムの下につけさせてもらうぞ」
「何を勝手に……」
「《始末屋》のメンバーオールで賛成した決定事項だ。
ジンのフューチャーのためにもこうする必要がある」
「私はオマエたちに金を払うと言ったんだぞ!!
それを無碍にするつもりか!!」
「文句があるなら勝手にしろ。その代わり、今回参加したオレたちや神門アイシャたちは貴様に手を貸さんぞ。最後の姫神ヒロムの一撃、あんなものを見せられたら勝てるなんて都合のいいことは思えないからな」
「そういうことだ。ファイトするならメンバーはゼロからセレクトするんだな」
大淵麿肥子に《始末屋》の解散と彼への協力の拒否を告げた四ノ宮総悟と太刀神剣一はジンの方を見ると彼に伝えた。
「ジン、勝手で悪いがオマエは姫神ヒロムと行け。
オマエの《ギアバースト》はその男といた方が完成に近づくはずだ」
「待てよ四ノ宮、オレは……」
「その代わり、強くなったオマエがオレたちを雇って《始末屋》を作り直せ。オレたちは姫神ヒロムと戦えたオマエに追いつけるように鍛錬に徹する」
「ユーならノープロブレムだジン。
その強さへの向上心、諦めないハートがあれば遠くないフューチャーでまたオレたちは集まれるさ」
「太刀神……」
「そういうことだ姫神ヒロム。勝手で悪いがジンを任せるぞ」
「……勝手すぎるだろ。
まぁ、アンタらの実力はよく分かったし別にジンが作り直す努力するなら引き受けてやるよ」
「恩に着る」
「ひとまず傷治せよ。
それと神門アイシャとエセ関西べ……神明宮新弥」
「待てや姫神ヒロム。自分今ワシのこと……」
「詳しくは後で話すがオレに手を貸してほしい。
頼めるか?」
「私は構わんぞ」
「……しゃあないな。この流れやと断れんて」
助かる、とヒロムは神門アイシャと神明宮新弥に礼を言うと放置していた大淵麿肥子の胸ぐらを掴んで無理やり立ち上がらせると強く睨みながら問い詰める。
「オレは別に決闘をとやかく言うつもりはねぇ。ただ……オマエが裏で繋がってた『先生』と呼ぶヤツをここに呼べ」
「お、オマエには関係……」
「関係ないわけねぇだろ。《世界王府》に内通していた科宮アンネの言い方からしてオマエと繋がってたそいつも《世界王府》に関与してる可能性があるんだよ。それとオマエと後ろのヤツら、そいつが《世界王府》に内通してるしてない次第で全員に責任を問わす」
「お、オマエに何の権限があってそんなことを……」
「《センチネル・ガーディアン》は《世界王府》の殲滅するために僅かな可能性も見逃さない。オマエの関与の有無次第ではオマエの家族も何もかもを終わらせるのも可能なんだよ」
ふざけるな、と大淵麿肥子はヒロムの手を振り払うと叫ぶように反論した。
「私はこの国の防衛大臣だぞ!!
オマエみたいなガキより権力がある!!オマエみたいなガキに指図される言われはない!!そもそもオマエがさっさとカタをつければここまでのことにはならなかったんだろ!!そうやって自分を見せつけるのが楽しいか?そんなヤツに国の防衛戦力なんて任せられるか!!」
大淵麿肥子は好き勝手にヒロムを否定する言葉を口にする。すると客席から次々に大淵麿肥子に対しての不満の声が飛び始める。
「ふざけんな!!」
「何もしてないヤツが彼を否定するな!!」
「そうよ!!文句があるならアンタが自分でなんとかしなさいよ!!」
「な、何を……」
「これが世間の声だ間抜けな政治家。
もう一度チャンスをやる……オマエと繋がってた『先生』とやらをここに呼べ」
「あ、あの方は……」
「いい感じに混沌としてきたな、大淵さん」
ヒロムの冷たい眼差しを受け、客席からの不満の声に耐えられなくなったのか大淵麿肥子は酷く狼狽え、大淵麿肥子が言葉を詰まらせているとフィールドの入口から1人の男が歩いてくる。
スーツの上から白衣を羽織った黒髪の眼鏡の男、その男を前にして大淵麿肥子は助けを求めるかのように駆け寄ると頭を下げる。
「せ、先生!!
助けてください!!こ、このままじゃ私は……」
「助ける……か。
困ったな。モルモットを助ける趣味はないんだがな」
「も、モルモット……?
先生、何を……」
「オマエが『先生』か。
《世界王府》との繋がりについて問いたいが話を聞かせてくれるよな?」
「お好きにどうぞ。
そんな余裕があるのなら……ですが」
「あん?
何を……」
「こういうことですよ」
大淵麿肥子に先生と呼ばれた男が指を鳴らすと突然大淵麿肥子と他の大臣が胸を押さえて苦しみ始め、苦しむ大淵麿肥子たちが口から闇を吐き出すとその闇が大淵麿肥子たちを包み込み、彼らをクリーチャーへと変貌させる。
大淵麿肥子たちがクリーチャーへと変貌した、その光景を目の当たりにした観客たちは再びパニックに襲われ、ヒロムたちは男を敵と認識して構える。
ヒロムたちが構えると男は自らについてしその正体を明かしていく。
「初めまして姫神ヒロムとそのお仲間、そして取るに足らない能力者たち。私の名はテラー……《世界王府》のNO.9の能力者だ」
「《世界王府》の……主要メンバーか!!」
「さて姫神ヒロム……私のモルモットを可愛がってくれ」




