188話 ファーストライド
ファーストライド、そうフレイが語る変化と思われる過程を経たヒロムの容姿は普段に比べると少し違う程度だ。両腕に浮かぶ白い紋様、白く光る瞳、一見するとそれくらいしか変化などない。
だが、そんなヒロムを前にして科宮アンネは何を思ったのか後退りしてしまう。
「……ッ!?」
(何故体ガ後ろニ下がっタ!?
私ハ姫神ヒロムニ臆してイルのか!?呪具と妖刀を取り込ミ強サヲ得タ私が女子高生がイメチェンしタレベルの変化シカしていナイ男に恐怖を感ジテルノか!?)
「……さぁ、科宮アンネ。
終わらせてやる」
「……!!
黙レほザクな消え失せロ!!」
ヒロムがゆっくりと歩を進める中科宮アンネは彼を仕留めようとドス黒い闇を強く放出しながら力を一点に集め、集めた力に更なる闇を与えると強力な光線として解き放つ。
「残虐なる悲劇!!」
解き放たれた強力な光線はドス黒い闇を纏いながらヒロムに迫っていくとそのままヒロムを飲み込んで彼を消し去ろうとするが、光線に飲まれる瞬間にヒロムが右手を軽く振ると解き放たれた強力な光線は一瞬にして闇も塵も残すことなく消されてしまう。
「……ァァァァァア!!」
強力な光線が消されると科宮アンネは悲鳴にも近い奇声を発しながら無数の光線をヒロムに向けて放っていくが、ヒロムに迫ると彼女が放った光線は次々に自壊して消滅していく。
ヒロムに触れることも無く、ヒロムに触れられることも無く科宮アンネの放った攻撃は全て消滅していく。
「そンな……どうシて!?」
「どうした?
オマエの力はこんなものか?」
「ゔぅ……アァァァァァあ!!」
攻撃が一切命中しないこと、攻撃の全てが不可解に消されることに科宮アンネが為す術もないまま恐れを抱きながら動揺しているとヒロムは彼女を追い詰めるかのように語りかけ、ヒロムのその言葉を受けた科宮アンネは何かを感じ取り焦りを抱いたのかドス黒い闇をさらに強く放出しながらヒロムに向けて走り出し鋭い爪で彼を引き裂こうとする。
だがヒロムは彼女が迫る中でゆっくりと右手を前にかざすと瞳を光らせ、ヒロムの瞳が光ると科宮アンネの動きが止まり、さらに彼女の両手の鋭い爪が砕け散ってしまう。
「アァァァァァあ!?」
「やめとけ。オマエじゃ今のオレには届かない」
「うるサい……うるサいうるサいうるサい!!
私ハオマエなんカより強イ!!私ガ負けルノは許サレない!!」
科宮アンネはヒロムの言葉を否定するように強く叫ぶと闇を強く放出させ、闇を強く放出する科宮アンネの肉体は大きくなりながらさらなる変貌を遂げる。
腕が6本に増え、背中から歪な角を生やした蛇を6体出現させ、さらに人の姿を少しは残していた彼女の頭は完全な化け物へと変わり果てていた。
『これで私は負けない!!
オマエに負けぬ力を得たこの私がオマエを倒して日本を統治し、私が日本を最高の国に導く!!そしてあの方を忌まわしい牢獄から救い王として献上する!!もうオマエには……』
「オマエが日本を導く?笑わせんなよ。この国を導くのはオレでもオマエでもない……この国に生きる人々の心だ!!」
科宮アンネの言葉を否定するように強く叫ぶヒロムがコブシを強く握ると大気が大きく揺れ、そして彼の拳に光が集う。
「科宮アンネ……オマエの中にこの国に対しての理想があるのは理解出来た!!だが、その理想のために己の心を歪め、人としての器を捨て、支え合う仲間すら裏切った今のオマエにその理想を口にする資格はない!!」
『偉そうに語るな!!
正義の味方にでもなったつもりか!!』
「悪いな。正義の味方なんてのは大っ嫌いだ。
オレは……オレの大切なものを守るために戦うだけの身勝手なヒーローだ!!」
ヒロムが右手の拳に力を溜めると光と白銀の稲妻が今までにない強さで纏われ、力を纏ったヒロムが走り出すと彼の姿が消えると共に空間が大きく歪む。
『な、何が……』
ヒロムが消え、さらに空間が歪むことに科宮アンネが戸惑っていると眩い光が衝撃となって科宮アンネを襲い、それに襲われた科宮アンネが怯んでいると空間の歪みが戻りヒロムが彼女の前に現れて拳を構える。
そして……
「覇皇天……!!」
ヒロムは構えた拳で一撃を放つ瞬間、強い力を纏っているはずなのに不気味な程に冷静で静かに拳を科宮アンネに叩き込む。
ヒロムの拳が叩き込まれた科宮アンネ、だが彼女の体には何も起きない。
『……フハハハハハハ!!
覇皇天?大層な名前の技を口にしながら何も起きないなんて虚仮威しにも程があるわ!!アハハハハハ……』
もう終わりよ、と科宮アンネが笑っているとラミアが冷たく告げ、ラミアが告げると科宮アンネの全身に強い衝撃が駆け抜ける。
『!?』
「マスターは《ユナイト・クロス》ではこの先は戦えないと判断した。マスターの霊装である《レディアント》の中の意志もマスターの動きを最適化するだけの《ユナイト・クロス》では事足りないことに賛同した。だからマスターは……霊装の意志と己の魂を完全に同化させた。それによりマスターは人でありながら精霊でもある新次元の能力者となったわ。そして……その恩恵としてマスターは霊装の力である稲妻を纏う以外の方法を会得した」
「そしてその証としてマスターは白丸を宿した。私たち14人とは異なるマスターの力の楔を解く鍵を担う守護の力を宿した未知の精霊を」
ラミアに続く形でフレイが語るとヒロムの拳が纏う力が一気に解き放たれて科宮アンネの全身を襲い、科宮アンネの全身を襲ったヒロムの力は彼女の全身を貫通するような形で駆け抜けるとフィールドへと広がっていき、フィールドに広がったヒロムの力はジンやユウマ、ゼロやガイたちが対応しているクリーチャーとそれを生み出す闇を1つ残らず消滅させていく。
それも彼らを守るようにクリーチャーと闇だけを的確に狙って消していく。
「な、何だこの力……!!」
「クリーチャーと闇だけを……消してる……!!」
「あれがヒロムの……オレたちのリーダーの力!!」
ヒロムの力がクリーチャーと闇を全て消滅させると跡形もなく消え去り、ヒロムは科宮アンネの体から拳を離すと彼女に背を向け、ヒロムが背を向けると科宮アンネは人に近い姿に戻りながら背中から倒れる。
「……じゃあな」
「……マスターの新たな力、《ソウルギア》は体内へと白銀の稲妻を取り込むと同時に肉体と同化させ強化と進化を同時に行うもの。そしてその状態で放たれる覇皇天は攻撃の一瞬に全てを解き放つ技」
「未完成であの威力ってのが難点よね」
ヒロムが科宮アンネに背を向けると彼の力についてフレイとラミアが話し、2人が話しているとヒロムは息を吸うと叫んだ。
「大淵麿肥子!!
オマエに問うべき責任があるからここに来やがれ!!逃げようなんて考えるなら覚悟しろ……ここで戦った全員がオマエを潰してでもここに連れてきてやる!!」
ヒロムが叫び終えるとガイが音も立てずに彼のそばに現れて彼に話しかける。
「終わらせるのか?」
「ああ、終わらせる。
ヤツの愚かな考えと……ヤツの背後にいるクソ野郎をな」




