187話 白
ヒロムが静かに白銀の稲妻を纏うと同時に現れた光が形を得ていく。形を得ていく光のその変化を前にして科宮アンネは警戒するように闇を纏うが、ヒロムが深呼吸をして白銀の稲妻を光の方へと分け与えるように放つと形を得ていく光は稲妻を取り込みながら実体を現す。
現したそれ……ヒロムのもとに現れた『それ』を前にして科宮アンネは目を疑った。
「ナ……んだソレは!?」
「紹介してやる。オレの新しい精霊……白丸だ」
ヒロムのもとに現れたもの……それは真っ白な毛並みの小さな子犬だった。豆柴とでも呼べるような小さく可愛らしいその子犬、その子犬は現れるとしっぽを可愛らしく振りながらヒロムに駆け寄る。
「おっ、白丸。
元気そうじゃねぇか。退屈してなかったか?」
「ワン!!」
「ユリナたちにも葉王にも会わせず内緒にしてたからな。こうやってお披露目出来るってなってオマエも嬉しいのか?」
「ワン?」
「あー……単にオレと遊びたかっただけか。
相変わらずオマエは無邪気でワンパクな子どもだな」
「白丸にとってマスターは特別な存在ですものね」
ヒロムは戦闘中にもかかわらず《ユナイト・クロス》を解くと腰を下ろして話しかけ、子犬の精霊・白丸は嬉しそうにしっぽを振りながらヒロムに甘えようと可愛らしく立ち上がり、ヒロムは白丸の体に手を差し伸べて抱き上げる。ヒロムに抱っこされた白丸は嬉しいのかしっぽをさらに勢いよく振り、フレイはヒロムに歩み寄ると白丸の頭を優しく撫でる。
どこか微笑ましい光景、それを見せつけられる科宮アンネはドス黒い闇を強く放出しながらヒロムに向けてビームを放ってそれを壊そうとした。しかし……
白丸を抱くヒロムが科宮アンネを強く睨むと彼女が放ったビームが音もなく消されてしまい、ビームが消されて科宮アンネが驚いているとヒロムは白丸の頭を優しく撫でた後優しく伝えた。
「白丸、せっかく楽しみにしてくれてたのにごめんな。
ここじゃ白丸とは遊んでやれないみたいだ」
「クゥーン……」
「そんな悲しそうな顔するな。あのクソ女を倒して終わったら必ず遊んであげるから、な?」
「ワン!!」
「元気な返事だな、うん。
……フレイ、悪いけど白丸を頼むぞ」
「構いませんが援護の方は?」
必要ない、とヒロムはフレイの言葉に簡単に返すと白丸を彼女に手渡し、フレイがしっかりと白丸を抱いたのを確認したヒロムは科宮アンネの方へと歩を進めながらフレイたちに伝えた。
「今のアイツ程度ならオレ1人で事足りる」
援護は不要、科宮アンネは1人で倒せると口にしたヒロムが歩を進める中、化け物へと変貌を遂げた影響なのか科宮アンネは彼の言葉を聞いていたらしく笑い始める。
「クフフフフ……キヒヒヒ……アハハハハハ!!
私を1人で倒す?援護はいらない?どの口が言ってるのよ!!
今のアンタは最高に面白いわ!!傑作ヨ!!
私ノ攻撃を受けテ頭ヲ変に打っタようネ!!理解出来てナイのかしラ?私ノ力はオマエの力ヲ……」
「オマエこそ理解してないだろ?」
「なニ?」
「今さっきのオマエの攻撃をオレが消した、それを理解した上でオマエはまだオレより自分が強いと言ってるのかって話だ。あの一撃に対しての結果を目にしてもまだそれが言えんのなら……オマエは大した大バカ野郎だ」
「バカ……?
今私ノ事をバカと言っタのかァァァア!!」
ヒロムの一言を受けて声を荒らげる科宮アンネはヒロムへと一気に接近すると鋭い爪で彼を貫こうと一撃を放つ……が、科宮アンネが爪の一撃を放つとヒロムは落ち着いた様子で科宮アンネの攻撃を掴み止め、さらに掴み止めた相手の攻撃をそのまま押し返すと科宮アンネの体に蹴りを入れて勢いよく蹴り飛ばして倒してしまう。
「!?」
ヒロムに蹴り飛ばされた科宮アンネは何が起きたか分からぬまま立ち上がるとヒロムを殺すべくもう一度攻撃を放とうと闇を強く放出させ、放出させた闇を爪に纏わせると斬撃を飛ばしてヒロムを殺そうと試みた……が、科宮アンネが放った闇を纏いし斬撃をヒロムは素手で掴み止めると握り潰し、さらにヒロムは科宮アンネの方へと右手を伸ばしながら指を鳴らすと強い衝撃を撃ち放って彼女を吹き飛ばしてしまう。
「バカな!?」
吹き飛ばされた科宮アンネは驚きと戸惑いを隠せぬまままた倒れ、倒れた体を急いで立ち上がらせると彼女はヒロムを警戒するように構える。
が、科宮アンネが構える中でヒロムは首を鳴らすと突然何かの話を始めた。
「オマエはさっき精霊風情とか精霊如きとか言って精霊を見下してくれたが、オマエは精霊の意味を理解して無さすぎる」
「精霊の意味?」
「精霊の在り方というべきだな。
精霊にはいくつかの系統がある。フレイたちのような戦闘を可能とする力を備え宿主の力となる精霊がいれば精霊として宿りこの世に生まれるだけで力がなくとも宿主に対してその恩恵として新たな力を与える精霊、後者のタイプでありながら宿主と心を1つにすることで精霊自らが宿主の新たな力となるタイプもある。オレが宿す精霊は基本的に戦闘可能な力を備えているタイプだけだが、白丸だけは違う」
「……あの子犬ニ戦えルダけの力がアルはずガナイ!!
どうせオマエニ何カ恩恵ガアルタイプだロ!!」
「そこは否定しないが……白丸は今オレが話したどのタイプとも違う」
「ハ?
笑わセルな……オマエの精霊ガ何でアロうと関係ナイ!!」
ヒロムの言葉を否定するように科宮アンネは天に闇で描かれた魔法陣を出現させ、出現させた魔法陣から雷や炎や氷、さらには無数の光線をもヒロムに向けて放ち、放たれたいくつもの攻撃は周囲に爆撃を起こし戦塵を巻き上げながらヒロムへと襲いかかる。
爆撃と戦塵によりヒロムの安否確認は難しい、だが手応えを感じているのか科宮アンネは高笑いをする。
「アハハハハハハ!!
死んダ死んダ!!無様に死んダ!!
結局オマエは私ニは勝てナい!!アハハハハハ……」
「人の話は最後まで聞くべきですよ、科宮アンネ」
ヒロムを倒したと思っている科宮アンネが笑っていると白丸を抱くフレイは自らの主が倒されたかもしれない状況にあるにもかかわらず落ち着いた様子で科宮アンネへと語っていく。
「マスターがアナタに語ろうとしていた話はアナタが冷静に考え進退を決める材料にも出来た内容、そしてアナタ自身のその傲りを理解する チャンスだったのです」
「傲リ?進退?そんなものを今更口にして何ニナる!!
もウオマエのマスターは死んダ!!これデ私ハ……」
「マスターが死んだというのなら、何故私たちは消えないのでしょうね」
「ア?」
「教えるほどのことではありませんが、私たち精霊は魔力の枯渇やマスターの生命活動の停止が起きないかぎりは特別な理由がない以上消滅することはありません。つまり、私たちがまだいるということはマスターがまだ生きているという証拠です」
「ならバもう一度攻撃しテ確実に……」
「無理ですよ、アナタでは。
白丸を現界させた時点でマスターの勝ちは確定しています」
フレイが語ると爆撃と戦塵が吹き飛ばされるように中から白銀の竜巻が巻き上がり、白銀の竜巻が爆撃と戦塵を全て消し去るとその中よりヒロムが現れる。
現れたヒロムは瞳を白く光らせ、両腕に何かの模様にも見える白い紋様を浮かべていた。
「姫神ヒロム……!!」
「科宮アンネ、アナタの敗因はマスターを侮った事です。
マスターより自分が優れている、そう思い込んだせいでアナタは本来見なければならないものを見ることが出来なかった」
「ナニを……!!」
「今のマスターはアナタの言い方をするのならば能力者を超えた能力者です。そして今のマスターのこの姿こそがネクストステージとなるファーストステップ……《ソウルギア》の第1段階・ファーストライドです」




