186話 歪になりても
ヒロムの言葉を受けた科宮アンネが強く叫ぶと彼女の体からドス黒い闇が強く放出され、ドス黒い闇が放出されると科宮アンネの全身を取り込むかのように《カリギュラ》の黒衣が彼女を飲み込み、さらに《ドライネット》が怪しく光りながらそれらと同化していく。
《カリギュラ》、《ドライネット》と同化していくドス黒い闇に包まれる科宮アンネは妖刀である《紅神楽》すらも取り込むとその姿を完全に変貌させる。
「……マジかよ」
ヒロムやフレイたちの前で完全な変貌を遂げた科宮アンネ、その姿はもはや人と呼べるものではなくなっていた。
全身の肌が灰色となり鱗のようなもので体皮が覆われ、鋭い爪を持った両手と鋭利な刃を有した肘、渦巻く角を2本額に持ち髪の全てが茨のように変化していた。
人に近しい骨格をした化け物、そう呼ぶに相応しい容姿となった科宮アンネを前にしてヒロムが拳を構えると彼女は不気味な笑い声を発しながらヒロムを見つめる。
「……コレガ私の全てダ、姫神ヒロム。
今の私ハ人を超越しタ進化しタ能力者としての形を体現しテイル」
「人を超越した能力者?オマエのそれは人を超えすぎた化け物だ。人でもなければ能力者でもない……ただの化け物だ」
「化け物カ。人は自分ノ理解出来なイモノを線を引くヨウニ否定すル事を得意とスる。姫神ヒロム、オマエもその摂理カラは逃れられなイというワケだナ」
「あいにくオレはオマエよりは人間としてマシに生きてる方だからな。化け物に何言われても気にならねぇな」
マスター、とフレイは科宮アンネを警戒しながらラミアとともにヒロムのそばへと一瞬で移動すると彼に話しかける。
「彼女のあの姿は一体何なのです?」
「……呪具2個と妖刀1本を取り込んだって簡単に済ませられるが、より深く掘り下げるならアレはあのクソ女が望んだ強さの形を呪具が歪ませたものだ。誰もが抱く理想の人間像を狂わせられた……それがアレだ」
「呪具だけでそんなことが?」
「あのクソ女が自作したタブレット端末を媒体にした呪具、あの呪具の作製工程があのクソ女の言う通りならあの呪具にはいくつかの呪具をバラして移植していることになる。呪具をバラして新たな呪具の糧にするなんて話は聞いたことないからハッキリ言えないが少なくともあの自作呪具の中には複数の呪具が秘めていた憎悪や怨念が集約されていたことになる。それに……あの姿の変化の仕方、アレはおそらくビーストが関与してるに違いない」
「ビーストってまさか……クリーチャーの生みの親である《世界王府》のあのクリーチャーですか!?」
「あぁ、オレの中でずっとモヤモヤしてた。
何故クリーチャーがクソ女の放った闇から生まれて暴れ始めたのか、何故クリーチャーを意のままにあのクソ女に操れるのか……あの変貌ぶりを見て理解出来た。あれはガイたちが倒してペインがクローザーを生み出すのに利用した《魔柱》のヤツらと同じだってな」
「では彼女の中に……」
「それは分からん。あのクソ女の体内にビーストが魔人の力の因子を組み込んでその力を与えたのかそれとも呪具の中に魔人の力の因子を組み込んだのかは定かではない。けど……あのクソ女に関して1つ言えることはビーストとペイン、2人の厄介な能力者が関与してるってことだ」
(けど腑に落ちない点はある。まずビーストだ。アイツは血の繋がりがあり同じ《魔人》の力を宿すノアルすら拒絶するほど人間を嫌うやつだ。そんな男が仲間になった程度の女に力を与えるのか?それにペイン……アイツはこれまでの行動からしていくつもの平行世界を破壊してきた経験やその世界で起きたその人間の未来をこの世界で再現するなんてふざけたことをするやつだが、今回のこの女も同じような経緯で利用してるのか?)
「マスター、来ます!!」
ヒロムが思考を働かせていると彼に注意喚起するべくフレイが叫び、フレイの声に反応してヒロムが構えると科宮アンネは雄叫びを上げながら黒い雷をヒロムたちに向けて放っていく。
放たれる黒い雷を前にしてヒロムたちは避けようと考えるが、ヒロムたちが避けようとすると科宮アンネが誰よりもはやく動いてヒロムの背後へと現れる。
「「!?」」
「はや……」
速い、そうヒロムたちが認識するより先に科宮アンネはヒロムに蹴りを放って彼を蹴り飛ばし、蹴り飛ばされたヒロムは慌てて受け身を取って立ち上がろうとするが、蹴り飛ばされたその場所には既に黒い雷が迫っていた。
「しまっ……」
「マスター!!」
黒い雷が迫っていた、もはや躱す余裕はないとヒロムは一瞬諦め欠けるがフレイとラミアが稲妻を纏いながら駆けつけるとヒロムを守るように黒い雷を防いでいく。
2人の精霊が黒い雷を防ぐとヒロムは立て直すチャンスだと判断して白銀の稲妻を強く纏いながら走り出すと科宮アンネに接近して光の大剣を構えながら一撃を放とうとした。
しかし……ヒロムが光の大剣の一撃を放とうとすると科宮アンネは両手の爪に闇を纏わせて鋭く尖らせてヒロムの攻撃を防ぎ止め、ヒロムの攻撃を防ぎ止めた科宮アンネは額の角から天に向けて闇を勢いよく打ち出して天に闇による魔法陣を生成するとヒロムや精霊たちに向けて雷と炎と闇の矢を無数に降り注ぐように放っていく。
科宮アンネの放った攻撃を前にしてヒロムやフレイたちはそれを受けまいと必死に抵抗するように次から次に迫る矢を破壊していこうとするが彼らの思惑を上回る力を発揮しながら増えながら無数の矢はヒロムたちに襲いかかり、ヒロムやフレイたちは防ぐ手が間に合わなくなり科宮アンネの攻撃を受けて全員が負傷してしまう。
「うぁぁぁあ!!」
「「きゃぁぁぁ!!」」
科宮アンネの攻撃によりヒロムやフレイたちは負傷しながら倒れてしまい、ヒロムたちが倒れると科宮アンネは嬉しそうに奇声にも似た声を発しながら笑う。
「アハハハキャハハハ!!
無様ナ姿ね、姫神ヒロム!!所詮オマエの力ハその程度!!
今の私ノ力の前でハ無力ナノよ!!」
「……」
「今の私ハアノ方にも負けなイ強さを宿していル!!
もう私は誰にモ止めらレナい!!」
「……それで十神アルトを超えたって?
笑わせんなよ……ゴミクソ女」
負傷したヒロムは科宮アンネの言葉に冷たく言い返すと立ち上がり、立ち上がったヒロムは首を鳴らした後に服についた汚れを手で払う。そして服についた汚れを払ったヒロムは一息つくと科宮アンネを呆れたような目で見ながら冷たく語っていく。
「オマエのその力で十神アルトを超えたわけねぇだろ。
オマエのそれはせいぜい十神アルトに100歩劣る程度だ」
「強がリヲ。今のオマエハ既に手の内ヲ明かしタ状態。私よりモ先に本気を出して全てを出し切っタ時点でオマエの負けは確定シテイるのよ」
「本気?全て出し切った?
何の話だよ?」
「……なニ?」
「……ったく、オレがいつ完全に本気になったなんて言った?
本気のオレの戦い方云々とは言ったがオレがオマエに対して持てる力全て出し切るなんてことは一言も言ってねぇからな」
「デタらメな事をイうな!!
オマエのその《ユナイト・クロス》ガオマエノ本気の証である事は把握シテイる!!」
「それはついこの間までの話だ。
オレの本気は……《ユナイト・クロス》で終わるほどの小さなもんじゃねぇ」
ヒロムが静かに白銀の稲妻を纏うと彼のそばに光が集まり、集まった光は何かの形を得ていく。
「な、何ダソレは……!?」
「見せてやるよゴミクソ女。
これがネクストステージに到達したオレの新しいスタイルだ」




