184話 精神を狂わす器
科宮アンネの放った闇と衝撃波に襲われ吹き飛ばされたヒロムは体を負傷しながらも立ち上がると科宮アンネの次の動きに備えて構え、構える中でヒロムは科宮アンネについて考察していく。
「……厄介なクソ女だ」
(《カリギュラ》に《流動術》を教えると同時にあのクソ女も《流動術》を何かしらの方法で会得してやがったか。さっきの一件でガキの意識が微かに戻った影響で《カリギュラ》の自我が目覚めたことで呪具でありながら高度な先読みが可能となり、あのクソ女も同レベルとまで行かなくとも2つの力でオレの動きを的確に読むだけのレベルにまで高めてやがる。加えて《カリギュラ》の黒衣の操作もレベルが格段に上がっててスキがない)
「……とはいえ苦戦してばかりもいられないんだよな」
「無理しなくていいのよ姫神ヒロム。
アンタはあれだけの数を1人で相手していたのだもの。魔力を消耗していなかったにしても体力はそれなりに消耗してるはずだし、そうでなくても多勢を相手にしていたことで集中状態が続いて精神が摩耗してるはずよ。ましてこちらは万全の状態で《カリギュラ》も私も《流動術》を使える……そんな相手に善戦しようなんてのは簡単ではないはずよ」
「はいそうですね……で引き下がるほどバカじゃねぇんでな。
それにオレとしては不可解なことがあるせいで解決せずにはいられない」
「不可解なこと?」
「オマエだよ。オマエみたいな欲にまみれた雑念の塊が何故《流動術》を会得できたのかが謎だ。《流動術》は高度な集中状態が求められ、一切の雑念や思考の乱れを許さない。だからこそ一定の年齢を超えた段階で《流動術》は会得者の精神が多くを学んだことにより多くのものを抱くことで会得できないという壁が生じる癖ものになった。それを何故オマエみたいなのが会得できた?」
「会得ではないわ。正確にはラーニングよ。
この新しい呪具……《ドライネット》の力でね」
科宮アンネが《流動術》を会得した謎、その謎の秘密を解き明かす鍵として彼女が示したのは彼女が持つタブレット端末だった。そして彼女は今それを呪具と称した。
聞き間違いの可能性を考えたが、この状況でそれはありえないとヒロムはため息をつくと科宮アンネに対して何故タブレット端末を呪具と称したのかを問う。
「ここに来て余裕があるのか随分とユニークなジョークを出してきたな、何だ?お気に入りのそれを神格化したいのか?」
「聞き間違いを考えてるならナンセンスよ姫神ヒロム。
これは正真正銘呪具として変化したタブレット、《世界王府》に迎えられた私がその力を借りていくつかの呪具を解体してそこに内包されていた力を取り込ませた私のための呪具なのよ」
「呪具を造ったってのか!?
《世界王府》に加担するどころか禁忌にまで手を出したとはな」
「禁忌?呪具を生み出すことがかしら?
それは所詮制御出来ないからでしょ?制御出来るのならこの程度のこと何の問題はないわ」
「……もはや人としての抑制と判断力は無くなってるか。
少なくともオマエは呪具を手にしたことで頭も心もイカれ始めてるな」
「うるさいわね……私は普通なのよ!!」
ヒロムの言葉を否定するように科宮アンネは《カリギュラ》の黒衣の一部を変化させながら闇を撃ち放ち、放たれる闇をヒロムが避けると科宮アンネはタブレット端末……の呪具・《ドライネット》を操作して無数の魔法陣を生み出すと雷や炎、氷をヒロムに向けて放っていく。
「変化自在の黒衣に……器用にこなすタブレット端末、そして妖刀か」
(力を求めるあまりバランスとかは度外視してるのがハッキリわかる。けど……)
「オマエのことはよく分かった」
ヒロムは両手のガントレットに白銀の稲妻を纏わせると勢いよく拳同士を叩きつけ、拳同士がぶつかることで生じる衝撃が科宮アンネの放った攻撃の全てを弾き返してしまう。
攻撃を弾かれた科宮アンネは何も思ってないのか平然としており、科宮アンネが平然と立っている中ヒロムは彼女の強さについて話していく。
「オレはオマエが勝率だけを頼りにする口だけのクソ女かと思っていた。現にオマエはオレたちが疲弊してるところを狙うような思考をしてるから大口叩きだと思った」
「その認識を改めてくれるのかしら?」
「いや……やっぱりオマエは口先だけのクソ女だ。
所詮道具頼みでしか強くなれない、呪具と妖刀によるフィジカルギフトがなければオレの相手もできない、まして《流動術》を会得できないからって自作の呪具でそれっぽいことしてるだけ……オマエ、想像以上のクソ女で吐き気するわ」
「は?」
「つうかこちとら《カリギュラ》を破壊寸前まで1回は追い詰めてんだ。手の内は把握してるし、今更オマエの思考が組み合わさってパターンが増えたところで大したことも無い。そもそも不意打ちだの騙し討ちしなきゃオレに攻撃できないオマエに負けるわけない」
「……上等よ……!!
そこまで言うならぶっ潰してあげるわ!!」
ヒロムの言葉を受けた科宮アンネは感情に身を任せて《ドライネット》を操作していくと無数の闇の剣を出現させて自分の周りに展開しようとするが、科宮アンネが《ドライネット》を操作しているとヒロムは手放したはずの大剣を出現させて逆手に持つなり敵に向けて勢いよく投げ飛ばす。
「!!」
投げ飛ばされた大剣、それが直撃するのはまずいと判断した科宮アンネは咄嗟の回避行動を取る事で大剣を躱し、大剣を躱すと武器を失ったヒロムに向けて闇の剣を矢の如く撃ち放って仕留めようとするが、ヒロムは黒い稲妻を発生させると精霊・セツナの霊装にして武装である太刀を出現させて装備すると闇の剣を全て斬り潰していく。
ヒロムが太刀で闇の剣を破壊すると科宮アンネは《紅神楽》に闇を纏わせながらヒロムに接近して斬撃を放とうとするが、ヒロムは何故か太刀を投げ捨てると今度は精霊・ユリアの霊装であり武器でもある双剣を逆手に持つ形で装備して科宮アンネの攻撃を防ぐ。
「何のつもり?武器をころころ持ち替えて……優柔不断なの?」
「気になるなら覚えたての《流動術》に聞いてみろ。
こっちも効率考えてやってんだからな」
「そう、なら……アンタのその体に聞いてあげるわよ!!」
科宮アンネはヒロムの双剣を押し切るようにして弾くと妖刀に纏わせた闇を強くさせながらヒロムを刺そうと構えた。が、科宮アンネが構えるとヒロムは笑みを浮かべながら指を鳴らす。
「さて……原点回帰だ」
「は?」
何を言っている、そう言いたげな反応を見せる科宮アンネ。すると突然科宮アンネの後ろから金色の稲妻を纏った斬撃が襲いかかる。
斬撃に襲われた科宮アンネは間一髪で《カリギュラ》の力で凌ぐと振り向き、振り向いた先に何があるのか確かめようとするが彼女がそうしようとすると突然黒い稲妻を帯びた斬撃が彼女に直撃して彼女を吹き飛ばす。
「ぐぁっ!!」
科宮アンネが吹き飛ばされると先程ヒロムが投げ飛ばした大剣を精霊・フレイが、投げ捨てられた太刀を精霊・セツナが手に持って現れたのだ。
「バカな……精霊……!?
精霊の使用は禁止されてるはず……」
「バカかよテロリストもどき。
オマエがクリーチャーを呼び出した時点で決闘は頓挫された。その時点でもはやこの戦いにルールはない。つまり……オレの十八番の精霊の使役が可能って訳だ」
「たかが精霊が増えたところで何故……」
「オマエは《流動術》を使いこなしてオレの動きを制してるつもりだろうが勘違いを指摘してやる。《流動術》は相手の動きを読む技じゃない。自分の身に向けられるあらゆる流れを読み取り身を流れに委ねる技だ。オマエみたいにオレの動きだけを見てるだけじゃ無意味なんだよ」
「何ですって……!?」
だから教えてやる、とヒロムが白銀の稲妻を纏うとフレイやセツナのそばに他の精霊も現れ、ヒロムが宿す14人の精霊が揃うとヒロムは科宮アンネに向けて告げる。
「本物の力とは何か……本当のオレの戦い方を教えてやるよ」




