183話 ハウンド
フィールドに大量のクリーチャーが現れ始めた。さらにその影響なのか客席にもクリーチャーを生み出していた闇が広がり始め、事態は悪化していく1歩だった。もはや決闘など無意味に等しい状態にまで悪化した中で三千花アナは観客へ避難するように促し、クリーチャーを目の当たりにした観客はパニックになりながらもここから逃げ出そうと避難を始める。
そしてフィールド上ではハウンドを名乗る科宮アンネがタブレット端末を手に取ると《カリギュラ》を身に纏っていく。
「科宮が呪具を……!?」
「別に不思議な事じゃねぇ。あのタブレットを介して《カリギュラ》を操ってたんだからそれくらいの事が出来るのは想定内だ」
(それよりもコイツのこの力の方が気になる。クリーチャーを生み出す力、これはビーストの力のはずだ。なのにどうしてコイツが?ペインが《魔柱》を利用してクローザーを生み出したのと同じ原理か?それとも……)
「どうするのお兄さん?
化け物いっぱい出てきたけど〜」
「……この様子じゃ決闘は無効だ。特別観覧席で待機してるオレの仲間が動き始めてるはずだから客の避難等は任せて問題ないだろう。問題はアイツだ。あのクソ女はオレたち3人を狙いに定めてるはずだ」
「だかオレは2度の《ギアバースト》の発動で疲弊してる。
悪いが足手まといになる可能性があるぞ」
「ボクもかな〜。あれで終わると思ってたから少し余裕が無いかな〜」
「こうなるのがあのクソ女の狙いだ。
ジンのギアバーストの消耗の激しさとユウマの魔剣による疲弊を計算した上で《カリギュラ》を使ってる……だからオレが1人でやる」
「なっ……正気か!?」
「お兄さん1人でやれるの?」
「やれる云々ではなくやるしかない。
どの道あのクソ女の狙いに入ってるオレら3人の中でもっとも恨みを強く抱かれてるのはヤツが崇拝してる十神アルトを倒したオレのはずだからな」
「けどオマエだって体力を……」
「悪いな。戦うことに関しては最強と謳われてる覇王なんだよオレは。体力どころか魔力も規格外、強さすら人の範疇超えてんのがオレだ」
「自分で言うのかよ……それ」
「それにジン、オレは決めてんだよ。
オレの未来は……オレの手で掴むってな!!」
ヒロムが己の意志を強く口にすると蒼い炎と黒い雷、そして烈風が客席に広がろうとする闇を吹き飛ばし、さらに灰色の稲妻と光の矢がフィールドに現れた大量のクリーチャーの一部を消し去っていく。
何かが起きた、ジンとユウマが周囲を見ると客席にてガイ、真助、ナギトが避難する客を守るように立っており、そしてフィールドの入口の方からゼロとトウマが現れる。
「まさか……《天獄》のメンバーが!?」
「別に驚くことじゃねぇだろって。何せアイツらはこの決闘で勝ちを残してる強者だ。この程度朝飯前だ」
「すごいね〜お兄さんの仲間」
「仮にもオレの下に集う能力者だ。このくらい出来てくれなきゃこまる。それにオレたちが相手にしてきた能力者に比べればクリーチャーなんて大したことねぇよ」
まったくだな、とゼロはゆっくりとヒロムのもとへと歩いてくるとジンとユウマを見ながら彼らに話しかける。
「即席チームにもかかわらずヒロムの動きに適応できた点は評価しておいてやる。ただし、もう少し燃費のいい動きを心掛けるんだな」
「あ!?」
「このお兄さん、辛辣だね〜」
「事実を語っただけだ。それよりヒロム、どうするつもりだ?」
「オレがあのクソ女を引き受ける。ゼロはトウマと一緒にジンとユウマを引き連れて雑魚の始末を頼む」
「雑魚の始末か。《センチネル・ガーディアン》の最強として騒動の中心にある敵を討ち取る手筈だな?」
「そんなんじゃねぇよ。十神アルトを崇拝してるから直接アイツを倒したオレにヘイト集めて倒そうってだけだ」
「兄さん、十神アルトに関してならボクも……」
「トウマは黙ってろ。オマエの場合はむしろ被害者だろ?
オマエは万が一の時にゼロと応戦できるように雑魚の始末をしててくれ」
「うん……!!」
「ヒロム……負けんなよ?」
「誰に言ってやがる?」
「最強にだよ」
いくぞ、とゼロはトウマとともにジンとユウマを引き連れてクリーチャーの軍勢を倒すべく動き始め、ジンとユウマはヒロムに全てを託すように無言で頷くとゼロの後をついていく。
これでヒロムは1人、仲間が周囲の敵を相手にすることでヒロムは科宮アンネと一騎打ちの状態になった。
「あら、アナタ1人なのね。
わざわざ死にに来てくれたの?」
「悪いが死ぬつもりはない。
オレは……オマエを倒して終わらせるためにここにいる」
「終わらせる?何を?
これまで散々《世界王府》の能力者を相手に苦戦してきたアナタに何ができるのよ?それに今の私はアナタの想像の斜め上をいく強さを持つ、そんな相手にアナタ如きが……」
「オマエは何を勘違いしてる?
想像の斜め上?悪いが……オマエ如きが出し抜けるほどオレの思考は甘くないんだよ」
「……流石にあの方を倒しただけのことはあるようね。
言葉からはハッタリとかは感じ取れない、でも……所詮半年前に一度力を失ったアンタが今もあの方の強さに匹敵するなんて保証はない!!」
「オマエこそ十神アルトに匹敵する強さを持ってるなんて保証はどこにもないってことを忘れんなよ」
科宮アンネの言葉に言い返すとヒロムは白銀の稲妻を強く纏いながら加速しながら走り出し、ヒロムが走り出すと科宮アンネは身に纏う黒衣の呪具・《カリギュラ》を操りその一部を変化させて無数の槍にして放って迎え撃とうとする。
無数の槍にして放たれた黒衣の一部が迫る中ヒロムはそれらを加速しながら躱すと白銀の稲妻を強く纏わせた蹴りの一撃を放とうとするが。が、科宮アンネはヒロムの蹴りを回避するとタブレット端末を操作し、タブレット端末が操作されるとどこからともなく赤い刀が出現して科宮アンネの手に装備される。
「妖刀……《紅神楽》!!」
「妖刀まで使うのか……」
「はぁっ!!」
赤い刀……妖刀《紅神楽》を手にした科宮アンネはヒロムを殺そうと刀の連撃を放っていくがヒロムは全てを躱しながら反撃しようと力を溜めるが、ヒロムが攻撃の用意をしていると科宮アンネは《カリギュラ》を操作して鋭い爪を持った異形の手に変えてヒロムを引き裂こうと襲いかかる。
科宮アンネの《カリギュラ》による攻撃を前にしてヒロムは避けることが出来ずに鋭い爪の一撃をその身に受けてしまう……が、科宮アンネの攻撃をヒロムが受けると彼の体は光となって消失してしまう。
「残像ね……本体はそこかしら!!」
今消えたヒロムは残像だと見抜いた 科宮アンネは妖刀にドス黒い闇を纏わせると後ろを振り向くとともに斬撃を放とうとし、科宮アンネが妖刀を振ろうとするとタイミングよくヒロムが大剣を構えて現れて妖刀を防ぎ止める。
「コイツ……」
(勝率の数字ばかり気にしてるだけの女かと思ったら意外とやるな。《世界王府》に仲間として受け入れられただけの実力はあるし、何より《カリギュラ》と妖刀の2個使いなのに精神がおかしくなることもなく平然としてやがる。精神面では化け物クラスの能力者に匹敵するが……)
「それでも十神アルトには及ばないだろ?」
ヒロムは大剣を手放して加速すると科宮アンネの腹に拳を叩き込み、何度も何度も拳を叩き込んだ後に科宮アンネを渾身の一撃で殴り飛ばそうとした。
しかし……ヒロムが渾身の一撃で殴り飛ばそうとすると科宮アンネ 体は闇となって消えてしまい、ヒロムの攻撃が空振りに終わると彼の背後に現れて闇を衝撃波とともに放って彼を負傷させる。
「くっ……!?」
「甘いわよ。私はアンタなんかより数倍強いのだから」




