182話 まだ終わらない
ランクSSと評されていた呪具・《カリギュラ》。心の弱い少年を道具のようにして操っていた《カリギュラ》はジンとユウマの支援を受けたヒロムにより少年から引き剥がされるとヒロムの一撃により両断されてしまう。
『がァァァァあ!!』
ヒロムの一撃を受けた《カリギュラ》はまるで痛覚があるかのように悲鳴をあげ、《カリギュラ》が悲鳴をあげているとそれが耳障りなのかヒロムは光の大剣を強く構えるとさらなる一撃を放って両断した《カリギュラ》の半身を破壊してしまう。
半身を破壊された《カリギュラ》の声はさらに聞くに絶えない惨めな声となり、もはやこれまで猛威を奮っていた呪具とは思えぬ黒衣の切れ端になりかけたそれは地に落ちると苦しそうな声を出す。
『がぁ……何故……どうして……』
「自分が絶対と過信した代償だ、《カリギュラ》。
オマエみたいなのが生きてるか死んでるかなんて関係ねぇが、今を必死に生きる人間を利用して暴れようとしたオマエとそれを利用しようとしたクソ女だけは許せねぇ」
『こ、この……』
「おい、大丈夫か!?」
ヒロムは《カリギュラ》を見下しながら冷たく告げる中で《ギアバースト》を解いたジンが呪具から開放された少年の体を支えながら安否の確認をしようと声をかける。
黒い髪に華奢な体の少年、その少年の右の目からは血が流れており、呪具の支配を受けていたからか全身にがかなり衰弱していた。
「……ジン、そいつの容体は?」
「かなりヤバそうだ。呼吸もわずかにしかしてねぇし……オレたちの攻撃を受けすぎたからか?」
「いや、《カリギュラ》の支配で肉体と精神が一時的に切り離されるような状態にある時間が長かったせいで肉体と精神の繋がりが弱ってるだけだろうな。時間が経てば元の健康体になるはずだからひとまずは手当をしないとな。オマエの仲間の治癒術のところに連れて行ってくれるか?」
「けどまだ……」
「どの道オマエもギアバーストの影響で疲弊してるだろ?
少し休む程度で戻ってくるかフィールドの外の安全なところにそいつ運んで係員に預けるなりして戻ってこい」
「……分かった!!」
ヒロムの指示を受けてジンは少年を抱きかかえてフィールドを離れるように走っていき、ジンを見届けたユウマは解放していた力を抑えると魔剣を持ったまま科宮アンネを見ながらヒロムに問う。
「ねぇ、あのクソ女はどうするの〜?」
「事情聴取が可能なら洗いざらい吐かせる。
《カリギュラ》のこと、さっきの分家のガキのこと、そして……何故コイツが《世界王府》に自分を売ったのかをな」
「取り調べか〜。
……て、あれ?今さらっと《世界王府》って言った?」
言った、とヒロムは聞き返してきたユウマに言葉を返すと科宮アンネを睨みながら問い詰める。
「バレてないと思ったのか?オレたちくらいなら欺けると思ったか?」
「……何のことかしら……?」
ヒロムの問いに科宮アンネは体を起き上がらせながら聞き返し、そしてゆっくりと立ち上がるとヒロムに対して不気味な笑みを見せながら話していく。
「私が《世界王府》に?適当にも程があるわよ?
証拠はどこにあるのよ?」
「物的証拠はない。だが、オマエが例の賭博を仕切ってると聞いた時からオマエを怪しんでいた」
「賭博を仕切ってたら悪人扱いされるのかしら?
言いがかりも甚だしいわ」
「果たしてそうかな?
例の賭博、今になっても必要性がまったく見受けられなくてな。全ては《始末屋》のためと言いながらオマエは仲間が倒される中で援護しようとする動きもなかった」
「そういえばこのクソ女、ずっとタブレット見てたもんね〜」
「情報支援ってのがあるでしょ?それも理解してないのかし……」
「その情報ってのは勝率のことか?
何をどう支援してるのか知らないが、オレから言わせればアレはオマエが《始末屋》のメンバーに判断する材料が無いと錯覚させてるようにしか取れなかった」
「勝率を狂わせたのはアナタよ?
それを私のせいにするなんて……」
「そもそも四ノ宮総悟がジンのギアバーストを止めようとした時、真っ先にそれを阻止したのはオマエだ。ジンのギアバーストならオレを倒せる確率が上がる、そう言って四ノ宮総悟に決断させたのはどこの誰だ?」
「そうさせたのはアナタよ。わたしはアナタがしつこく口にしてたタイムリミットを警戒して判断を促しただけ。結局訳の分からない査定だのとかで意味はなさそうだったけど」
「まぁ、意味は無いがな。オレが本気を出して問題ないかの判断する時間でしかなかったわけだしな。けど、オマエはそれを意味があると思って判断を急かしたんだろ」
「言いがかりね。その程度の証言しかできないのなら仮に《世界王府》に自分を売っていたとしても立証できないわよ?」
「なら確信に迫ろうか?オマエは何でユウマの攻撃を受けるまで無傷だった?」
「は?何を……」
不思議だったんだよね、とユウマはヒロムの質問に聞き返そうとした科宮アンネの言葉にかぶせるように言うと続けてる自身の感じた違和感について話していく。
「お兄さんが本気出した後って広範囲攻撃とか高火力攻撃が多くて見てる側も避けるのに必死になるくらいだったんだよ?それなのにクソ女のお姉さんは避けることも無く無傷だったんだよね〜。どうしてかな?」
「それは……」
「それが気になったからタブレット壊したんだよ?
もしかしたらクソ女のお姉さんはタブレットを媒体にダメージを無効化してるんじゃないかって」
「まぁ、そういうのなかったにしても呪具で人間の精神壊して操るなんてことした時点で怪しさ満点なんだがな。さて、弁明するなら聞いてやるが……どうする?」
ヒロムとユウマ、2人に視線を向けられる科宮アンネは深いため息をつく。少年を安全なところに運び届けたであろうジンが慌てて戻ってくるとそれを確認した科宮アンネは不敵な笑みを見せながら全て明かしていく。
「……そうよ。私は《世界王府》に自分を売ったわ。
何もかも壊して私の思いどおりにするために」
「科宮、オマエ……!!」
「アンタたちが悪いのよ《始末屋》!!揃いも揃って腑抜けばかり!!
蓋を開ければ大した実力もないのに偉そうに振る舞う!!強くもないヤツが偉そうに生きてるのが見るに絶えなかったわ」
「んだよそれ……そんなくだらない理由でオレたちを裏切ったのか!?」
「裏切る?そもそも《始末屋》はあの人の存在無しでは生まれることもなかった!!それなのに……アンタたちはあの人を悪人扱いして感謝すらしようとしない!!」
「あの人って……誰だよ?」
「十神アルトだ」
「十神アルトって……半年前のあの……」
「そう、半年前に起きた《十家騒乱事件》の黒幕にして日本を裏で支配しようと暗躍してた《世界王府》の能力者だった男だ。嫌な予感は予想してたが……まさか《始末屋》の情報があまりに少なかったのは十神アルトが関与してた影響で情報そのものが隠蔽されてたからって事だったとはな」
「そうよ、あの人が新たな秩序となるべく《始末屋》を作り上げた!!それなのに……その《始末屋》は秩序となるどころか下等な能力者の群れに成り下がった!!」
「……理由は何であれもうオマエは追い詰められたわけだ。
頼りのタブレットも《カリギュラ》もそのザマ、残るオマエには手の打ちようがないだろ」
あるわよ、と科宮アンネが指を鳴らすと先程ユウマが破壊したはずのタブレット端末が何事も無かったのように元に戻っていき、タブレット端末が元に戻ると《カリギュラ》が息を吹き返すかのように元の黒衣に戻ると科宮アンネのもとに飛んでいく。
そしてタブレット端末が怪しい光を発すると突然科宮アンネの周りに闇が現れ、現れた闇が広がるとその中から大量のクリーチャーが発生していく。
「クリーチャー……!!」
「化け物がいっぱい〜!!」
「科宮、どうして……!!」
「……私の全てはあの方のためにある。
科宮アンネ改めハウンド……これより仇敵を殲滅する!!」




