177話 禁忌を纏いし者
科宮アンネにより呼び出された黒衣を纏いし謎の少年。その少年が現れると戦いは一度止まり、ヒロムは四ノ宮総悟や神明宮新弥、神門アイシャや狂島、そしてまだ立ち上がらない暴月ジンの顔色を確認するように視線を彼らに向ける。
最終兵器、そう呼ぶだけのものならば彼らが知っててもおかしくないのだが……神門アイシャと神明宮新弥、そして狂島は初めて見たような顔をしており、四ノ宮総悟と暴月ジンはおそらく最終兵器という存在は知っていたような反応を見せるがその全容を知らなかったのか暴月ジンは何とかして立ち上がろうとする中で科宮アンネに謎の少年について問う。
「おい、誰なんだよそれ……?
それがオマエの言ってた最終兵器なのか……?」
「ええ、そうよ。
対姫神ヒロム……いいえ、対能力者用の最終兵器として用意しておいたものよ。アナタたちに話さなかったのは申し訳ないとは思うけど、最終兵器と言うからには味方すらも驚かせるようなものが1番だと思ったから仕方なかったのよ」
「誰なんだ……そいつは?」
「アナタは気にしなくていいのよ、ジン。
アナタは早くギアバーストを発動させて彼と姫神ヒロムを殺せばそれでいいの」
「待て科宮。素性も分からん能力者が介入したのではこちらの指揮に影響がある」
「四ノ宮、アナタはただ他の能力者に指示を出すだけでいいのよ。彼への指示は私が出すのだから」
「そうゆう問題ちゃうやろ?得体の知れん能力者と戦うとか安心できんって話やろて」
「同感だ。神明宮の言う通り私たちが危険にさらされない保証もなく受け入れるなど不可能だ」
「ボクはどっちでもいいけど〜……邪魔するなら倒すよ?」
話を進めようとする科宮アンネに対して神明宮新弥、神門アイシャ、狂島は賛同しないような態度を示して科宮アンネに異を唱える姿勢を見せる。だが、科宮アンネはその程度では動じない。
「受け入れろとは言わないわよ。アナタたちは姫神ヒロムの相手をするだけ、そして最終兵器の彼が終わらせるの。分かりやすくていいでしょ?」
「アホぬかせ。それにルール違反やろが。
対戦中の乱入に等しい人員の投入は禁止のはずやろ」
「姫神ヒロムは散々ルールを変えてきたじゃない。
今さらルールの1つ2つ変わったくらいで大差ないでしょ」
「……それがオマエの本性かいな?」
「そういうことよ。全ては《始末屋》の未来のため……手段なんて選べないのよ!!」
『残念だが見過ごせねェなァ』
科宮アンネが勝つために行動を起こそうとすると解説を担当している葉王がアナウンスを介してそれを止めようとする。
『女ァ、姫神ヒロムを倒すことに真剣になるのは構わないがそのガキが纏うその黒衣をどこで手に入れたか答えろォ。返答次第ではこの対戦そのものをなかッたことにするぞォ』
「あら、姫神ヒロムを守るために必死なのかしら?
いいわ、教えてあげるわ……呪具の1つである黒衣・《カリギュラ》、これはとある家に隠されていたから私が持ち出したのよ。ランクSSの呪具、使わないなんて宝の持ち腐れじゃない」
『オマエェ、呪具の管理者以外の無断の持ち出しは違法ッて分かッてやッたのかァ?』
「死人に口なしよ。管理者が死んだのなら新しい管理者になればいいだけの話よ」
「科宮……どういう事だ!?」
葉王の問いに答える科宮アンネ。その彼女の言葉に四ノ宮総悟は信じられないとでも言いたげな顔を見せながら彼女に問い詰める。
「話が違うぞ……!!
《カリギュラ》を一時的に借りれるかもしれない、そう聞いてオレはオマエにその件を一任したんだ。それなのに……管理者が死んだってのどういう事だ!!」
「……呪具を好き好んで管理するような人間は精神に問題がある、だから殺したのよ」
「オレや太刀神の許可なくか!!」
「うるさいわね……。アナタや太刀神のやり方は生ぬるいのよ。
大淵麿肥子は勝てって言ったのよ?だからその契約に従うために……必要な犠牲を出しただけなのよ!!」
科宮アンネが強く叫ぶと黒衣を纏いし謎の少年は四ノ宮総悟へと一瞬で距離を詰めると手刀で彼の腹を貫き、謎の少年の手刀に襲われた四ノ宮総悟は吐血しながら倒れる。
「四ノ宮!!」
暴月ジンが彼の名を叫ぶ。そして四ノ宮総悟が倒れ、謎の少年が怪しく瞳を光らせると会場がパニックに陥る。
人が殺されかけた、その一連の流れを目の当たりにして騒ぎ始めたのだ。
神門アイシャや神明宮新弥は謎の少年を前にして言葉を失い動けなくなり、狂島はというとどこか面白そうに謎の少年を見ていた。
暴月ジンは謎の少年を動かしたであろう科宮アンネを睨みながら立ち上がり、立ち上がると彼女を攻撃しようと動こうとしたが、そんな彼の前にヒロムは移動して止めに入ると神明宮新弥に質問した。
「……神明宮新弥、その男を医務室まで転移させられるか?」
「自分、ワシの名前を……」
「答えろ。そいつのキズから見て一刻を争うレベルで危険だ。
オマエが素早く運べるかで生死が変わる……!!」
「偉そうなことを……!!
自分とワシの戦いはまだ……」
「やめないか神明宮新弥」
ヒロムの質問に答えようとせず口答えする神明宮新弥。そんな彼を神門アイシャは強く注意すると諭すように話していく。
「神明宮新弥、私やアナタは姫神ヒロムとの戦いに決着をつけれてはいない。だが、この戦いはもう我々の負けだ」
「何言うとんねん?
ワシは……」
「殺すつもりで挑むのと殺そうとして襲うのは違う。
我々のチーム側がそのルールを違反した。たとえ姫神ヒロムを倒せてもルールを無視した乱入をさせ味方を殺そうとした能力者がいる我々を誰も認めてはくれない」
「……ならどないするねん?」
「今は姫神ヒロムの言葉に従い、私たちの中にまだ戦意が残るのであれば正々堂々挑み直すしかない。もはや我々は……大淵麿肥子の依頼を遂行しようとする科宮アンネの傀儡になりかけている。このまま続けても……我々は勝者にはなれない」
何やそれ、と神門アイシャの言葉を受けた神明宮新弥は納得いかないような声をこぼし、しばらく下を向いた後でヒロムの方を見ると彼の質問に対しての答えを返した。
「……自分の質問、答えはYESや。
ただし、座標を認識してない場所に転移するには相当な魔力がいる。自分とやり合った後じゃ正直足りんわ」
「その魔力を私が補おう。それで行けるか?」
「……十分やわアホ。
そういうわけや姫神ヒロム。悔しいけど今は負けたことにしといたるわ。そん代わり……四ノ宮総悟を助けた礼はしてもらうで?」
「人の命が救えるならしてやるよ。
だから早く行け」
「……ホンマ、ワシより弱いヤツやったら殴ってるとこやで」
「姫神ヒロム、今回の決闘に関しては我々の負けにしてくれ。その代わり……この決闘を乱した彼女を止めて欲しい」
「ああ、任せとけ」
頼むぞ、と神門アイシャはヒロムに後を託すと四ノ宮総悟の体を抱き抱え、神門アイシャが四ノ宮総悟の体を抱き抱えると神明宮新弥は手を叩いて2人とともに姿を消す。
神門アイシャと神明宮新弥が四ノ宮総悟を連れて消えるとヒロムは暴月ジンの方を見ると彼にある提案をした。
「話の流れ的にオレの不戦勝みたいな流れになりつつあるが……オマエはどうする?」
「全部終わらせた後にやり直しだ。だから……まずは科宮をぶっ飛ばす」
「ならあの呪具使いはオレがもらうぞ」
バカ言うなよ、と暴月ジンはヒロムに強く言い返すと彼の隣に並び立って拳を強く握るとヒロムに伝えた。
「2人でやるに決まってんだろ。2人であのガキぶっ飛ばしてから科宮を殴り飛ばす、それがベストだろ」
「分かってるじゃねぇか。それなら……遅れんなよ?」
「言ってろ。オマエこそオレに遅れんなよ!!」




