176話 殺人鬼の刃
「何だか楽しそーだね?」
構えるヒロムのもとへと音もなくボーダー服の青年が現れると突然鋭利な刃物でヒロムを刺そうと襲いかかる。
突然の事でありながらもヒロムは落ち着いた様子で青年の刃物による攻撃を避けると反撃の一撃として蹴りを放つが、青年は後ろに飛んで蹴りの衝撃を緩和させながらその身に受けると蹴り飛ばされ、蹴飛ばされた先で受身を取るとどこか嬉しそうに笑みを浮かべながら刃物を構える。
ナイフのようで短剣のような刃物の武器、それを構える青年が少し不気味に思うヒロムが警戒していると神明宮新弥が彼について話していく。
「驚いたな。今のそいつの動きやったら自分を殺せる思とったのに」
「……やっぱオマエが絡んでんのかよ、関西弁」
「せや、何せワシが大淵麿肥子はんに直談判してこの男を雇用させたんや。苦労したでホンマに。何せ……殺人鬼を公の場で使うって話やさかいな」
「殺人鬼?」
「あら、知らんのかいな?
コイツの名前は狂島、下の名前何やったか覚えとらんけど、実の親を惨殺しおったってことは確かな18歳の小僧や」
「惨殺……だと?」
「理由は知らん。けどコイツは親を平気で殺して今も生きとる。
ほんで記憶がちぐはぐやさかい警察やらも手の打ちようがのうて隔離されとったんや。事情聴取してもまともな答えせえへん、尋問してもろくな答え返さんで警察も手を焼いとるって話や」
「そんな物騒なヤツを使ってまで勝って立場を得たいのか?」
「そりゃそやろ?だって……殺すつもりで来い言うたんはそっちやで。ワシはそれに従って用意しただけの話や。それとも何や?殺すつもりで来い言うといてホンマは殺されんの怖いんかいな?」
「別に……ただ犯罪者を使うことを許すなんて奇行を大淵はよく容認したなって驚いてただけだ」
それはちゃう、とヒロムの言葉に対して神明宮新弥は異論があるように言うとヒロムの言葉に訂正を入れた上でボーダー服の青年・狂島について話していく。
「大淵麿肥子は猛反対しとったんや。万が一事件が起きて大惨事なってもうたら自分の首が危ういとか何やの言うてごっつ渋りおったわ。けど、そんな大淵麿肥子をアイツが『先生』て呼んどる男が助言した途端手の平くるっと返しおったんや」
「……!!」
『先生』、ヒロムも掴めていない大淵麿肥子の裏にいるとされる人物が呼ばれている名を神明宮新弥が口にするとヒロムの目つきが変わる。
それを感じ取った神明宮新弥はヒロムの目つきが変わった理由が分からないが故に少し不気味がるような顔で引いていた。
「何や急に……えらい目つき怖なったけど、文句あんのかいな?」
「……その『先生』ってのにはオマエは会ったことがあるのか?」
「会ったこと?あるに決まとるやろ。
その男がワシに声かけろて大淵麿肥子に指示したさかいにこうして出れる権利をもろたんや。ほんで狂島使うこと提案して猛反対しとった大淵麿肥子に後始末は引き受けるから言うて説得したところも見てたし聞いとったわ」
「……なるほど。
話は変わるが……そこの女と《始末屋》の今のトップも会ったことがあるのか?」
「ある。私もその『先生』とやらの話を受けて来たからな」
「大淵麿肥子にスカウトされた後、ヤツが挨拶に来た時に同伴していたから面識はある」
神明宮新弥の言葉を受けたヒロムは神門アイシャと四ノ宮総悟にも確認するように尋ね、ヒロムに尋ねられた2人はその男と面識があることを答えた。
「そうか……」
(大淵麿肥子の奥にいる人物がいる事がハッキリした。あの関西弁の言い方からして殺人鬼が問題を起こしても揉み消せる立場にあり、神門アイシャやエセ関西弁のことを認知して声をかけるだけの行動力がある人物……それが大淵麿肥子に今回のこの決闘を仕込ませた男ってことか)
「……話はよくわかった」
「何や急に?」
「別にオレ個人の話だから忘れろ。
それより……その殺人鬼使えば勝てるとか思ってるなら甘いってことを教えてやるよ」
「そうかいな。なら……見せてみい」
神明宮新弥が指を鳴らすとそれを合図にするように狂島が走り出し、手に持つ鋭利な刃物でヒロムを殺そうと襲いかかる。が、ヒロムは白銀の稲妻を纏うと狂島の攻撃を簡単に避けて蹴りを放ち、放たれた蹴りを受けた狂島は勢いよく蹴り飛ばされて倒れる……かと思われたが先程同様に衝撃を緩和させていたらしく当たり前のように立ち上がる。
「痛いな〜」
「器用な野郎だ。攻撃を受ける瞬間に後ろに体を移動させてダメージを緩和させるなんてな」
「でも簡単な事だよ?だってキミ、攻撃が当たる瞬間に溜めた力を炸裂させるタイプの人だからさ」
「コイツ……」
(ただの殺人鬼じゃない。オレの攻撃のクセを見抜き、そしてそれに対する対処法を即座に閃いて瞬時に取り入れて実践する だけの技術力……コイツを殺人鬼で済ませるには惜しいくらいのものだ)
「ちょい、ワシらもおるんやで?」
ヒロムが狂島の動きについて思考していると神明宮新弥が音も立てずにヒロムの前に現れて蹴りを放とうとし、ヒロムは神明宮新弥の出現を察知すると放とうとされる蹴りに対して拳撃を放つことで防ぎ、さらに蹴りを防いだその拳に白銀の稲妻を強く纏わせると続けて神明宮新弥を殴り飛ばそうとした。しかし……
「アカンで」
神明宮新弥は笑みを浮かべながら音も立てずに姿を消し、神明宮新弥が消えたことでヒロムの攻撃は空振りに終わる。
「何か起きた、そう思ても対処出来んやろ?」
ヒロムの攻撃が空振りに終わると神明宮新弥がヒロムの背後に現れ、現れた神明宮新弥は魔力で強化した拳による一撃をヒロムの背中に喰らわせようとした。しかし、ヒロムはそれを白銀の稲妻を纏わせた拳の裏拳で視認せずに防ぎ止めると裏拳を放った勢いに身を乗せて回転して蹴りを放って神明宮新弥の顔を蹴る。
顔を蹴られた神明宮新弥は勢いよく倒され、神明宮新弥が口から血を流す中ヒロムは彼を見下ろすように言った。
「オマエの能力は転移系だろ?それも座標を基に移動するタイプだ。オマエが手を叩いて移動したのは転移術の範囲を固定するため、そして手を叩かずに移動できる範囲を確定させて手を叩かずとも移動できると認識させて不意打ちしようとした……だろ?」
「マジかいな……数回能力見せただけで見抜くか普通?」
「経験値が違うんだよ」
「そうかいな……けど、こんなんも出来んねんけどな!!」
神明宮新弥の能力についてヒロムが見抜いた中で神明宮新弥は手を叩く。が、ヒロムの前から神明宮新弥は消えずにそのまま存在しており、ヒロムの視界には彼が映っていた。
そんな中……ヒロムの背後へと鋭利な刃物を振り上げた狂島がヒロムのすぐ後ろに現れ、狂島はヒロムが気がつく前に彼を殺そうと振り下ろす。
「もらったよ〜」
「誰もワシしか移動させれんとは言うてへんからな。ワシの認識した座標に人を転移させる……それが《座転》の力や!!」
「……だから何だよ?」
狂島の武器が迫る中でヒロムは冷たく言うと白銀の稲妻を強く放出させることで狂島の武器を弾き飛ばした上で彼を吹き飛ばし、さらに右手を前にかざすと白銀の稲妻を衝撃波と共に放って神明宮新弥をも吹き飛ばす。
吹き飛ばされた狂島と神明宮新弥は倒れてしまい、2人が倒れるとヒロムは白銀の稲妻を纏いながら彼らに告げた。
「その程度で意表を突いたつもりでいるなら失せろ。
オマエら程度のその薄っぺらい知恵はオレには通用しない」
「コイツ……!!」
待ちなさいよ、と科宮アンネはヒロムに言うとタブレット端末に指で何かを入力し、タブレット端末へと何かを打ち込んだ科宮アンネが指を鳴らすと彼女のもとへと黒衣を纏いし少年が現れる。
「……そいつは?」
「何でもありなんでしょ?なら見せてあげるわよ……私たちが用意した最終兵器を!!」




