175話 強傑
ヒロムの容赦なき猛攻に《始末屋》の能力者が次から次に倒され、神門アイシャや四ノ宮総悟、そして謎の和装の男がヒロムを取り囲むように立ち回る中、ヒロムの一連の戦闘に客席が異常なまでに盛り上がりを見せていた。
そんな中、客席の最後列の後ろの壁にもたれかかるようにして対戦を観戦する青年がいた。
黒い髪に緑色の瞳、季節外れのファーのついたロングコートを羽織った青年は和装の男がヒロムを相手に動き始めるとその男を観察するような眼差しで見ていた。
「……不気味な野郎が混ざってやがるな。大淵麿肥子の差し金か?それともヤツ個人の意思による介入か?」
独り言を呟く青年。そんな青年のもとへとシンクが歩いてくると彼に話しかける。
「来ていたんだな」
「……オマエか。
何の用だ?」
「フィールドからオマエが見に来ているのが確認出来たからな。
久しぶりに会うから挨拶も兼ねてヒロムのことを聞きに来た」
「挨拶か。くだらねぇ。
オレら《センチネル・ガーディアン》は縦の序列があるわけじゃねぇ。対等に等しい横並びの関係でしかないのに挨拶なんざしても余計なだけだろ」
「横並び、か。今のままだと世間はヒロムが上に立ってオレやオマエを指揮してると勘違いするかもな」
「巻き込まれた側のオレからすればどうでもいい話だ。ここに来たのも立場が保たれるかどうかの確認とどうせアイツが勝つって分かってるからオレたちに成り代わろうと思い上がってる馬鹿の力を拝みに来た」
「ヒロムは勝つ、か。はじめて会った時にはヒロムを毛嫌いしてたのにな……《威殺》のキッド」
うるせぇ、と青年……キッド・エスワードは舌打ちをしながら言うとシンクに向けて和装の男について話していく。
「シンク、オマエはあの男を知ってるか?」
「和装のヤツか?」
「ああ、そうだ」
「たしか京都で頭角を現してる名家・《神明宮》の跡取りの神明宮新弥だろ?最近京都を中心として近畿圏で活躍して名を広めている一方で名を売るために罪人を仕立てて客演してる疑惑も出てるって野郎だろ」
「ああ。贈賄やら売名、裏での取引など黒い噂は耐えない。最近では近畿圏で活躍して名を広めているのは何か悪巧みをしてるからではないかとも言われている。そんなヤツが雇われていると思うと……何かあると思わないか?」
「あるだろうな。今回の件の発起人の大淵麿肥子の裏にはヤツが先生と呼ぶヒロムや一条カズキも把握してない謎の人物が口を出してるらしい。その人物がアーサー・アストリアを雇ったとも推測されているが……」
「そいつはどこにいる?」
「どこかにいると思っても調べたが姿はない。おそらく大淵麿肥子と一緒に相手側の特別観覧席にいると思われる」
「……手を貸そうか?」
「借りれるなら助かるが見届けなくていいのか?」
「どうせアイツが勝つ。何せアイツはオレたち《センチネル・ガーディアン》のリーダーだからな」
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「……誰だよオマエ」
突然入ってきた和装の男に対してヒロムは冷たい眼差しと態度であしらおうとするが、男はヒロムの反応を受けても平然とした態度で話を進めようとする。
「あんま調子乗んのもやめとき。そない調子乗っとったら負けた時ごっつ後悔すっさかい」
「あ?うるせぇぞエセ関西弁」
「エセちゃうわ。ワシは正真正銘関西人や。
生まれも育ちも京都、活躍の場は関西の神明宮新弥とはワシのことやで」
「知るか。オマエみたいな能天気お気楽クソ野郎の相手はしてらんねぇ」
「阿呆抜かすなよ自分。ごっつ強いのはもうわかったわ。
けど、強いだけで自分大したことあらへんで」
男……神明宮新弥は不敵な笑みを浮かべながら手を叩き、神明宮新弥が手を叩くと彼はいつの間にかヒロムの後ろに立っていた。
「!!」
いつの間に、とヒロムが驚きを見せつつも振り向こうとすると神明宮新弥はまた手を叩いて姿を消し、彼はヒロムの前に現れると怪しさしかない笑顔で語りかける。
「そのポテンシャルと力は認めたる。自分、ここまでよう頑張ったわ。せやけどお役御免で隠居せぇや。これからはワシの時代やねんから」
「うるせぇよ」
神明宮新弥を黙らせようとヒロムは彼を殴ろうとするが、神明宮新弥はヒロムの拳を簡単に避けるとヒロムの体を突き飛ばすように押してしまう。
攻撃を避けられたヒロムは何が起きたかなど気にすることも無く白銀の稲妻を強くさせると神明宮新弥を倒そうとするが、そんなヒロムを邪魔するように四ノ宮総悟は無数の魔力の弾丸を撃ち放ってヒロムを追い詰めようとする。
「!!」
魔力の弾丸が迫るとヒロムは白銀の稲妻を解き放つことで消し去り、ヒロムに攻撃を防がれた四ノ宮総悟は魔力を一点に集めるとビームにして放ってヒロムを襲う。が、ヒロムはこれを何とかして回避すると立て直して反撃に転じようとする。
だが、それを神門アイシャが阻もうとレイピアで襲いかかってくる。
ヒロムは白銀の稲妻を手に纏わせると手刀で神門アイシャの攻撃を防ぎ、ヒロムがレイピアの攻撃を防ぐと神門アイシャのそばに魔力で肉体が構築された騎士が現れてヒロムに襲いかかろうとする。
「造形術か」
「否、私の能力・《騎装》の力による兵の召喚だ!!」
神門アイシャがレイピアを振ると次々に魔力で肉体が構築された騎士が剣を持って現れ、ヒロムが先に現れた魔力の騎士の攻撃を躱すと次から次にヒロムを殺そうと剣で襲いかかってくる。
「魔力媒体で構築されてる駒か。
なるほど、北で名を馳せたのはこれのおかげか」
「純粋に私の力でもあるがな」
神門アイシャがレイピアを振り上げると魔力が刀身に集まって巨大な刃を形成し、魔力の巨大な刃を得たレイピアを構えた神門アイシャは勢いよく振り下ろして一閃を放つがヒロムはそれを避けてしまう。
避けられた、神門アイシャがそう思っていると神明宮新弥がヒロムが避けた先に先回りするように手を叩いて現れると魔力を纏った攻撃を放とうとした。
しかし……
ヒロムは白い稲妻を纏うと音もなく姿を消して神明宮新弥の背後へ移動し、白い稲妻を強くさせると魔法陣を出現させて無数の光線を放って神明宮新弥を吹き飛ばす。
だが神明宮新弥は何も無かったかのように受身を取ると平然とした態度で立ち、ヒロムの今の攻撃を拍手を交えて褒めていく。
「ええやないか自分。咄嗟の判断力、アドリブ力高めやな。
ええで、それおもろいわ!!」
神明宮新弥は強く手を叩くと全身に強く魔力を纏いながらヒロムに向けて走り、ヒロムに迫る中で刀を出現させて装備するとヒロムを仕留めようと彼の心臓に向けて突きを放つ。
「もろたで!!」
「……どうかな」
刀による突きでヒロムを仕留めようとする神明宮新弥が迫るという状況でヒロムは落ち着いた様子でただ立ち、防ごうとも避けようとせずに神明宮新弥の一撃が迫るのを待つかのようにそのまま立っていた。
何かある、そう感じた神明宮新弥がヒロムを警戒していると無数の魔力の弾丸が神明宮新弥の刀を破壊してしまう。
魔力の弾丸に刀が破壊された神明宮新弥は弾丸が飛んできた方に目を向けるとそこには四ノ宮総悟が立っており、四ノ宮総悟は神明宮新弥を睨むと忠告した。
「姫神ヒロムを倒すのはオレだ。チームが同じだから貴様の攻撃を援護してやろうかと思ったが姫神ヒロムを仕留めるだけが目的なら手は貸さんぞ」
「何やそれ、自分……勝手なヤツやな。
強いヤツを仕留めんのは自由やろ?おまはんの許可いるとかそんなん聞いとらんねん」
「無駄口を叩くな。姫神ヒロムを倒したいのなら少しは協力する姿勢を見せろ2人とも」
睨み合う四ノ宮総悟と神明宮新弥、それを宥めるかのように強く注意する神門アイシャ。3人が3人とも共通してヒロムを倒したいと考え動こうとする中ヒロムはそれを迎え撃つように構える。
すると……
「何だか楽しそーだね?」
構えるヒロムのもとへと音もなくボーダー服の青年が現れると突然鋭利な刃物でヒロムを刺そうと襲いかかる。




