173話 ヒロムの強さの秘密
フィールドで繰り広げられる戦いが白熱する中、特別観覧席で観戦するガイたちはヒロムに驚かされるしか無かった。
「流石……の言葉では済ませられないな」
「アイツ、マジで一撃も受けずに《始末屋》を圧倒してやがる……!!」
「あの天才、どこまで強くなんのさ……」
ガイ、真助、ナギトはヒロムと一戦交えたことがあるが故に知る彼の実力を上回る今の彼の戦いに驚かされ、ユリナたちは単純にヒロムがすごいとしか認識出来ずに言葉を失っている。
そんな中、タクトだけはヒロムに関して苦言を呈した。
「まぐれが続いてるだけだろ?
四ノ宮さんたちは激戦をくぐり抜けてきた能力者、いくら姫神ヒロムが強くてもそんな都合よく優勢でいられるわけないだろ?」
「……おい、ナギト。オマエの昔のお仲間はバカなのか?」
「バカではないと思うけど今の感じだとそうかも」
「は?何言って……」
「よせボーイ。今のはボーイが間違っている」
タクトの言葉に真助とナギトが呆れるとタクトは強気に言い返そうとしたが、そんなタクトの言葉を太刀神剣一は止めるように遮ると彼に告げた。
「ボーイ、この戦いを見て姫神ヒロムのムーブをラッキーで済ませるのは大間違いだ。あのムーブは強いという証、あのムーブあってこそ姫神ヒロムの強さが語られている」
「太刀神さん、お言葉ですけど姫神ヒロムが暴月さんたちを翻弄してるのは見てて分かります。でも姫神ヒロムがこうも立て続けに暴月さんたちを相手に優位に立ち回れるなんてまぐれ以外にどう言い表せって言うんですか?」
「それこそがボーイをここに連れてきた目的でもある。
ボーイ、キミは強さというものを広く捉えることが出来ていない。ただ自分が強いと思っているものを正しいと思い、その正しさの中にない強さは認めないのがボーイのシンキングの仕方だ」
「ダメなんですか?」
「それが原因でボーイは風乃ナギトにルーズしたんだ。
風乃ナギトはボーイと離れてからの短い期間で強さというものを広く捉えることで今の強さをゲットしている。だからこそ彼はボーイより強い能力者になれたんだ」
「……なら聞きますけど姫神ヒロムの強さには何かあるって言うんですか?力による強さとは違う他の何かがあるって言いたいんですか?」
「あるとも。姫神ヒロムの強さのシークレット……それはアドリブだ」
「はい……?」
真剣な顔でヒロムの強さに繋がるものが何かを話す太刀神剣一。だが太刀神剣一の言葉を受けたタクトはただ耳を疑うしかなく信じることなどできなかった。
そんな中で太刀神剣一はタクトに向けてヒロムのこれまでの動きについて話していく。
「姫神ヒロムのこれまでのムーブはどれも一貫して法則性がない。力で捩じ伏せ、スピードで翻弄して格の違いを見せつけたかと思えばジンのムーブを封じるように間合いを詰めるような動きを見せ、さらに敵の攻撃を回避するためにジンを相手に上手く立ち回り加勢に来た辻岡たちを圧倒してジンを翻弄した。そして今の舞野のヒーリングをジンが受けてケアされた後の舞野が走り出したと同時に誰もがあの男が舞野をターゲットにすると思ったはずなのにあの男は四ノ宮をターゲットにしたかのような動きを取るとともに陣形が崩れると要になるジンをターゲットにした。ここまでのムーブがまぐれで片付くと思っているのか?」
「それは……」
「たしかに言い方・見方を変えればただのラッキーだ。だがそのラッキーなアクション全てを自分のチャンスに変えるのはイージーではない」
そうだろ、と太刀神剣一はガイに自身の意見が間違いないかを尋ねるように言い、言葉を向けられたガイは頷くと太刀神剣一の話した内容についてタクトに話していく。
「ヒロムの強さは身体能力や宿してる精霊の数でもその身に秘めてる特異能力でもない。ヒロムの強さの真の秘密は適応力と高い判断力、的確な答えを導き出して行動に移す実行力、そしてそれらがあるからこそ成立する即興がヒロムの強みだったんだ」
「アドリブ?」
「ヒロムは常に戦いながら毎秒約数百を超える行動とパターンの予測が繰り広げることで最適に動くための方法を見出し、それを常に止めることなく動き続けることでどんな相手にも上手く立ち回り自分のペースに持ち込む。作戦を立てようと対策を練ろうとヒロムはそれすらも想定してアドリブで打破する。咄嗟の判断という言い方をすれば誰でも出来るかもしれないが、戦いが終わるまで思考を止めないヒロムのそれを真似るなんて誰にもできない」
「んだよ、それ……そんなデタラメありかよ!?」
「それがヒロムにとっての普通だ。
オマエらは《フラグメントスクール》という敷地の中で実力を上げることで強さを実感するとともに傲りを抱き他人を見下すようになっただけ。オレたちから言わせればヒロムの強さは昔も今も変わらない。変わっているのはその強さが何のために振るわれるかということだけだ」
「傲り……」
よく見とけ、とガイはタクトに向けて冷たく言うと彼に対して告げた。
「オマエらが倒せると傲慢になって発言したその相手がどれほど住む世界が違うかを目に焼き付けろ。そして後悔しろ……オマエらはこの世界でもっとも敵に回してはいけない能力者を敵に回したことをな」
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もはやヒロムを止められないのだろうか。
暴月ジンはヒロムの強さについて何かに気づいた。それを四ノ宮総悟や牧瀬たちに伝えたい思いがあるが、それを伝えようにもヒロムが邪魔をして手が打てなかった。
四ノ宮総悟や牧瀬のもとへヒロムのことを伝えようと思ってもヒロムは簡単に間合いを詰めて猛攻を仕掛けて暴月ジンの動きを封じようとし、暴月ジンもヒロムに倒されまいと猛攻を躱すのに精一杯で思うように動けないでいた。
「この……!!」
(間合いの詰め方が上手すぎる!!こっちが攻撃に転じれないように最小限のスキで抑えた動きをしつつそのスキを狙って動けば避けれない攻撃を続けて放ってくる……無駄が無さすぎて避ける躱すしか許されない状態でこんなに追い詰められるなんて!!しかもギアバーストを使って逆転したいのにギアバーストすら使わせてくれる余裕がない!!)
「これが《センチネル・ガーディアン》の……」
「ジン、援護する!!」
四ノ宮総悟は暴月ジンを援護しようと魔力の弾丸を複数生成してヒロムを狙おうとするが、そのヒロムは魔力の弾丸が生成される段階で暴月ジンの盾にするように立ち回り、ヒロムの立ち回りにより暴月ジンが巻き込まれると判断した四ノ宮総悟は魔力の弾丸を生み出しても攻撃が出来ぬまま構えるしか無かった。
「四ノ宮……」
(本当に厄介すぎる!!四ノ宮の攻撃能力ならコイツを制して形勢を逆転させることは可能なのにオレが邪魔してるせいで四ノ宮が何も出来ない状態で構えてるしか許されない!!
コイツは……姫神ヒロムは周りを見る能力に長けすぎてる!!)
「考え事か?」
ヒロムについて暴月ジンが手も足も出ないまま思考だけを働かせているとヒロムは暴月ジンの腹を殴り、殴られた暴月ジンが怯むとヒロムは彼を後ろに位置するような形で真っ直ぐ四ノ宮総悟の方へと走り出す。
攻撃のチャンス、そう誰もが思うこの瞬間だが四ノ宮総悟はヒロムの背後にいる暴月ジンが視界に入ると攻撃を躊躇ってしまう。
「ジンを盾にして……!!」
(迂闊だった……!!
治癒術を狙うと読んだオレたちがヤツを好きに動かせたのがアダとなった!!姫神ヒロムはジンの行動の全てを先回りできるポテンシャルと才能を持っている。そしてその姫神ヒロムを止めるにはオレも本気の攻撃をしなければならないわけだが……)
「軌道上にジンがいたのでは巻き込みかねない……!!」
「思考が止まってるぞ」
ジンを巻き込む攻撃は出来ない、そう頭の中で結論を出した四ノ宮総悟の前にヒロムは一瞬で距離を詰めて現れると白銀の稲妻を纏わせた拳で四ノ宮総悟を殴り飛ばし、殴り飛ばされた四ノ宮総悟は勢いよく倒れると吐血してしまう。
四ノ宮総悟が倒れると科宮アンネは後退りしてしまい、宇治原や牧瀬、辻岡たちは予測不能なヒロムの次の動きを警戒して動けなかった。
そんな彼らを前にしてヒロムは首を鳴らすと冷たい眼差しを向けながら告げた。
「この程度のオレの動きに思考が追いつかないのなら……オマエらはその程度のくだらない能力者だ。
もう、これ以上は相手するだけ無駄だ」




