171話 覇王を倒せるのか?
終わらせる、そう口にしたヒロムが吹き飛ばした暴月ジンの体が纏う黒いオーラが消えてしまい、黒いオーラが消えると暴月ジンの姿は元に戻っていく。
「ジン!!」
暴月ジンが倒れると彼のもとへと黒髪の少女・舞野が駆けつけ、駆けつけた彼女は暴月ジンに手をかざすと光の粒子のようなものを付与して彼の体の傷を癒していく。
舞野が暴月ジンの傷を治癒する中、ヒロムを倒そうと2本の刀を持った長い髪の女・三森と青龍刀を持ったポニーテールの女・牧瀬、錫杖を手に持つ男・宇治宮、そして魔力の羽を背に纏って飛行して弓を構える堀宮が敵を包囲しながら陣形を展開し、さらにミサイルランチャーを持った男・川添が2つのサブマシンガンを装備した青年・犬沼が後方で武器を構える。
さらに装飾の施された槍を持つ古賀野の隣に筋肉質な体型の男・瑛二が並び立つとレイピアを抜剣した神門アイシャが前に出て構える。
四ノ宮総悟と科宮アンネは《フラグメントスクール》の生徒たちを連れて川添と犬沼の後ろに陣取り、ボーダー服の青年と和装の男以外がヒロムを倒そうと配置につくと舞野の治癒を受ける暴月ジンはヒロムに対して問い詰めるように叫ぶ。
「査定って何の話だ……!!
それに手加減してたってのは……どういうことだ!!
オレを本気にさせたのに……オレのことを見下してるのか!!」
「勘違いするな暴月ジン、オマエの本気が見たかったのは確かだ」
「オレの名前……まさかわざと……!?」
「オマエみたいなヤツは些細なことで逆鱗に触れることが出来る。おかげでタイミングを早める形で本気を出させられたし、オマエの実力を確かめられた」
「オレの……?」
「そう、オマエの実力だ。方法はいくらでもあったが最適な方法を用いてもつまらないから安い挑発をさせてもらった。オマエ本気、それだけは他のヤツらにはない本物の力を感じ取れてオレは嬉しかったよ」
「どういうことだ……!!
説明しろよ!!」
時間の無駄だ、とヒロムは暴月ジンの言葉に冷たく返すと彼を無視するように歩き始め、歩き始めたヒロムは四ノ宮総悟のいる方へと進みながら彼に向けて忠告する。
「これ以上無駄な醜態を晒したくないなら降参しろ。オマエらに勝ち目はない、ここからはさっきまでみたいなお遊びとは違う」
「遊びだと?我々を侮辱するのか?」
「遊びだよ、オマエらとの戦いは。
《世界王府》のヤツらは死を覚悟させるくらいのヤバさを肌で感じさせてくれるがオマエらのは違う。ぬるいんだよ、やること全てが。その程度でよくオレを倒せるなどと口にできたものだ」
それに、とヒロムは四ノ宮総悟の後ろに並ぶ《フラグメントスクール》の生徒たちに視線を向けると彼らについても冷たく語る。
「そいつらは全員が揃いも揃ってオレを倒せるとかオレより強いとか勘違いしてるらしいが今の今まで目立った活躍が無いのは何でだ?オマエといいエセ王子といいそいつらを無駄に表に出さないような指示しか出さない、使ったと思えば役にも立たない援護射撃のためだけ……笑えてくるわ、マジで」
「貴様……!!」
「オマエのお仲間もだ。偉そうなこと口にする割に簡単に倒されるし傀儡使いに至っては偉そうに豪語しておいて3機のうちの2機を簡単に壊される始末だ。あのさ……笑えねぇんだよ。この程度でオレを倒すつもりなら100年はえぇよ」
「そうか……ならばもう容赦はせん。殺すなと言われていたが貴様は殺すつもりで来いと豪語していたな?ならば望み通りに……殺してやる!!」
殺れ、と四ノ宮総悟が叫ぶと辻岡、風宮、瑛二、三森が走り出し、さらに犬沼と川添が武器を構えて狙いをヒロムに定めていく。
ほぼ全方位から攻めてくる《始末屋》の能力者たち。四ノ宮総悟の合図で殺る気になってヒロムに迫っていくが、ヒロムは1歩踏み出すと川添と犬沼の前へと一瞬で移動すると両手を前にかざして白銀の稲妻を解き放って2人を仕留め負傷させてダウンさせる。
「「!?」」
「……加減してたの忘れてないよな?
本気出せるってことはオレもオレの力をフルで使役できるってわけなんだよ」
「させない!!」
川添と犬沼がダウンすると三森は2本の刀に魔力を纏わせながらヒロムに接近して二刀流による斬撃を放とうと武器を振る……が、ヒロムは斬撃が放たれるよりも早くに蹴りを放つと三森の刀を破壊して攻撃を防ぎ、さらに蹴りを放った勢いのまま回転してもう一度蹴りを放つと三森の腹を蹴って彼女を蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされた三森は破壊された刀を手放しながら倒れるもすぐに立ち上がって魔力で刀を作って構えようとするが、彼女が立ち上がるとタイミングよくヒロムが現れて彼女の脳天に踵落としを食らわせ、ヒロムの一撃を受けた彼女は地に勢いよく叩きつけられて完全に倒れてしまう。
「気ぃ抜くなよ三流剣士」
「三森ちゃん!!」
空を飛ぶ堀宮は弓に魔力の矢を装填してヒロムを狙って攻撃しようとするがヒロムは音もなく彼女の背後に現れて白銀の稲妻を放つと彼女の魔力の羽を破壊して飛行能力を奪い、さらに地に落ち始める堀宮の首を掴んだヒロムは無防備な彼女の顔面を何度も拳で殴打して負傷させる。
「痛……」
「オマエに関してはまず飛ぶ以外の才能が無さすぎる」
ヒロムは首を掴む手を力任せに振ることで堀宮を地に向けて投げ飛ばし投げ飛ばした堀宮が地に激突する数秒前に先回りして地上に現れると彼女を殴って壁面に叩きつけてダウンさせる。
「三森!!堀宮!!」
2人の女が倒されると錫杖を持った男・宇治原は彼女たちの安否を気にして叫ぶが、宇治原が2人を優先してそちらに意識を向けたことで一瞬ヒロムを視界から外してしまい、それにより生まれたスキをつくようにヒロムは宇治原に接近して彼を殴り飛ばそうと拳を構える。
「しまっ……」
「おいおい、おっかねぇな」
ヒロムが宇治原を殴ろうとすると青龍刀がそれを阻むようにヒロムに襲いかかり、襲いかかってくる青龍刀を躱すとヒロムは1度後ろへと飛ぶ。
ヒロムが宇治原から離れると彼の前に青龍刀を持った女・牧瀬が歩いてきて守るように立つと彼に伝えた。
「宇治原、オマエじゃ勝てねぇよ。
私が引き受けてやるからオマエは援護に回れ。拘束術式の展開は?」
「可能だ。牧瀬が上手く時間を稼いでくれれば用意する」
「言ったな?ならちゃんと用意しろよ」
(とはいえ、上手く時間を稼ぐのが至難の技だな。
ジンのことを低く評価するつもりはないがアイツの実力は私より多少下、辻岡たちとサシでやりあえるくらいだが能力を解放したギアバーストを使った時に限っては私より格段に強くなる。未だ成長過程にあるジンだからこそ太刀神はその伸びしろを期待してエースと呼んでいたわけだが……そのジンのギアバーストの動きに反応するどころかギアバーストの発動中のジンを相手に先を行くような動きをしてみせたあの男を相手に私はどれだけ時間を稼げるんだ?)
宇治原を下がらせた牧瀬は時間稼ぎを引き受けた一方でヒロムを相手にどうやって対応すればいいのかと思考を働かせる。
牧瀬が思考を働かせているとヒロムは首を鳴らしながら構え直し、構え直したヒロムは彼女を視界に捉えながら伝えた。
「時間稼ぎなんて無駄な事だからやめとけ。
やるなら本気で仕留めに来い。でなきゃオマエも他のお仲間みたく瞬殺するぞ」
「はっ、気が強いのは結構だがはしゃぐなよ。
私をどう評価してるか知らねぇけど私を簡単に倒せると思うなよ?」
「この際評価なんて関係ねぇ。
オマエらは潰す……それだけだ」




