17話 憤怒の暴撃
満身創痍のナギトを助けるかのように現れたヒロム。そのヒロムの登場にユリナは安心したような表情を見せ、一方で御剣と二子川は意外そうな反応を見せていた。
「姫神ヒロム……!!」
「意外ですね、姫神ヒロム。何の縁もない風乃ナギトを助けるなんて何か理由があるのですか?」
「あ?」
「キミに風乃ナギトを守る理由はないはずです。なのにキミは彼を守った。その行動の真意は一体……」
「うるせぇよ雑魚が。黙ってろ」
二子川の言葉に聞く耳を持たぬヒロムは彼を黙らせようと殺気を混じえた言葉を放ち、その言葉を受けた二子川は体に対して別に何かされたというわけでもないのに急に数歩後退りしてしまう。突然の二子川の後退りが不思議で仕方ない御剣が彼の方を見ると二子川はどこか震えているようにも思える声でヒロムに告げた。
「……風乃ナギトは我々を裏切った愚かな者です。
キミが彼に何を思ってるかは知りませんが彼の始末さえ済めばボクたちはここから去りますのでそこをどいてください」
「うるせぇよ雑魚が。2度同じこと言わすなよ」
「はい?」
「先に手を出したのはオマエらだろ。コイツはそんなオマエらから抵抗せずに女を守ってただけ。それをオマエらは都合よく自分の目的のために言い換えてるだけだろうが」
「……ではどく気はないと?」
「どいてほしいならどかしてみろ」
偉そうに言いやがって、と御剣はヒロムの言葉に不快さを顕にするようなカオで彼を睨みながら言い返した。
「オマエは運良く《センチネル・ガーディアン》に選ばれただけ。オレたちスクールで訓練を受けた能力者と戦った場合実力の差はハッキリする。オレたちにオマエが勝てるわけが無い」
「……好きに言ってろ。葉王に躾られなきゃ何も出来ねぇ雑魚が束にならなきゃ1人始末することも出来ねぇのに偉そうに吠えんな」
「……あ?
オマエ如きがあの人のことを呼び捨てにしてんじゃねぇぞ」
「吠えろ吠えろ。《フラグメントスクール》の中の世界しか知らないようなヤツが数多の能力者を前に命の駆け引きをしてきた人間に及ばないことを教えてやるよ」
「この……殺す!!」
ヒロムの言葉に御剣は怒りを顕にすると足にエネルギーのようなものを纏わせながらヒロムに狙いを定めて一撃を放とうと……したが、御剣が足にエネルギーのようなものを纏わせるとヒロムはいつの間にか彼ではなく二子川の前に移動して蹴りを放ち、ヒロムの放った蹴りが二子川の顔面に直撃する。
「!?」
「二子が……」
突然の蹴りに為す術もなく二子川が倒れると彼を心配して御剣は攻撃を中断して彼の名を叫ぼうとしたが、名を叫ぼうとしたその瞬間にヒロムは御剣の隣へと移動して彼の顔面に拳を叩き込んでいた。
叩き込まれた拳は御剣の顔を負傷させ、彼のかける眼鏡をも破壊してしまう。
拳を受けた御剣が怯んでいるとヒロムは御剣の腹に蹴りを食らわせてさらに怯ませると回し蹴りを頭に食らわせて地に伏せさせ、地に伏す御剣に追撃を食らわすようにヒロムは彼の顔をボールのように蹴る。
「!!」
「どうした?オマエはオレより強いんだろ?さっさと立ってオレを殺してみろよ」
「この……」
「御剣!!」
「今助ける!!」
ヒロムの攻撃を受ける御剣を助けようと2人の少年がヒロムに迫ろうとするが、ヒロムは音も立てずに2人の少年の横を通り過ぎていく。音を立てていないが故に2人の少年が気づくのが遅くなり、2人が気づいた時には彼らは強い衝撃が全身に走りながら吹き飛ばされてしまう。
他の少年たちも次々にヒロムに襲いかかろうとするもヒロムは意に介さない様子で淡々と避けては殴り蹴りをして圧倒していく。顔を殴られ蹴られた御剣は鼻血を拭いながら立ち上がり、蹴りを受けた二子川もゆっくりとだが立ち上がる。だが、この一瞬……1分にも満たないこの時間でのヒロムの攻撃で御剣たちは数で勝っていながら劣勢に立たされている。
「どうなってやがる……!?
何で……何でオレたちの攻撃が通用しない……!?」
「おかしな話ですよね……。スクールで訓練を受けてるボクたちが彼に劣るはずないのに……」
「バカか?オマエらは籠の中でしか過ごしてことの無い鳥と同じで自分の世界でしか物事を見ていない。そんなヤツらが常に状況が悪化する最悪の中で戦いを続けていたオレに通用すると思ってんのか?それにオマエらはランキング云々で《フラグメントスクール》で競争してるみたいだが、オマエらの実力を見た感じならあの転校生の方がまだ強いしオレとそれなりの戦いができる。オマエらは口だけの雑魚だよ」
「オマエ……!!オレたちを見下すだけじゃなくてで臆病者のナギトの方が優れてると言いたいのか!!」
「ダメだ御剣くん!!一度作戦を……」
ヒロムが並べる数々の言葉に御剣は我慢が限界に達し、ナギトについてヒロムが語るとその全てが爆発したかのように御剣は二子川の制止の言葉を無視してヒロムに向けて走り出した。その御剣の走る姿を前にしてヒロムはため息をつくなり右手に白銀の稲妻を発生させ、発生させた稲妻を小さな刃のようにして御剣の方へと放つと稲妻で御剣の左右の太ももを貫く。
「!?」
太ももを稲妻に貫かれた御剣はそこで失速し、同時に足に力が入らなくなると膝から崩れ落ちてしまう。その御剣にヒロムは呆れた様子で告げる。
「自慢の足を潰されたらオマエはそこで何も出来なくなる。片目隠れのヤツは予想外のことが続くとそこで思考がブレて迷いが生まれる。他のヤツらは……それ以前に弱すぎる」
「オマエ……!!」
「どんな気分だ?他人を見下してきた自分が為す術もなく見下される気分は?」
「この……殺してやる……!!」
「やってみろ。弱点モロバレのオマエじゃ足を負傷してなくてもオレは倒せねぇ」
それに、とヒロムは音も立てずに何かを言い残すことも無く御剣の前から姿を消し、ヒロムが姿を消すと御剣と二子川以外の少年たちが何かに襲われたかのように全身負傷して吹き飛ばされてしまう。
「は……?」
何が起きたのか分からない御剣と二子川が驚きを隠せぬ顔で動けぬ中ヒロムは御剣の後ろに音も立てずに現れると彼の背後から頭へ踵落としを食らわし、ヒロムの踵落としを受けた御剣は地面に顔を強く打ち付けるように倒され、残された二子川は体を震わせながら後退りしてしまう。まるでヒロムから逃げるかのように……その二子川の行動を前にしてヒロムは殺気を放ちながら彼らの最初の勢いについて触れるように言葉を発していく。
「《フラグメントスクール》で鍛えられたオマエらはオレより強いとか言ってたがこの有り様だ。このクソ眼鏡はオマエらにオレは勝てないとかほざいてたが、結局手も足も出ずにくたばった。これが《フラグメントスクール》の生徒の実力なら葉王に異議を申し立てして今すぐにでもオマエらの指導をやめさせないとアイツの時間がムダになる」
「ち、違う……こんなはずじゃ……」
「こんなはずじゃないってか?悪いが現実はこの程度だ。オマエらが教えられたことの8割はただの絵空事、結局能力者の戦いってのはその場で起きることを対処して適応した方が勝つようになっている」
「あ、ああ……」
「生きるか死ぬかの戦い、その戦いでビビって逃げるくらいなら二度と戦おうとするな。オマエらは……目障りなんだよ!!」
殺気を強く放ちながらヒロムが叫ぶと二子川はヒロムの気迫にやられたのか気を失って倒れてしまう。一瞬、それで説明するしかないほどに圧倒的な速さとそれを実現する強さでヒロムはナギトを倒そうと現れた御剣たちを倒してしまった。
「御剣たちを一瞬で……!?」
あまりのことにナギトは信じられないような顔をしてヒロムを見ており、ナギトの視線に気づいたからかヒロムはため息をつくと倒した相手のことなど気にする様子もなく背を向けてナギトに歩み寄ると彼に手を差し伸べる。
「よぉ、転校生。
ボロボロだな」
「……そういう天才はさすがの強さだよ。スクールで鍛えられた彼らを簡単に倒しちゃうなんてね」
「この程度なら造作もない。それより、ありがとうな。ヴィランの演説で不安が広がってる中でユリナが学校にいないのに気がつかなかったオレのせいでオマエに面倒をかけた」
「……御剣たちが来たのはオレのせいだからいいよ。姫野さんは無関係だから守ろうと思っただけだし……」
「そうか。なら……オマエの話を聞かせてくれ」




