168話 武器の数≠戦力
突然として天から降り注ぎヒロムを襲った魔力のミサイルが彼を飲み込む炎を地上に呼び覚まし、ヒロムはその炎の中へと飲まれていきその一方で人型の兵器が姿を見せる。
人型の兵器が現れるその様子を特別観覧席で見ていたアキナは同席しているガイとイクトに対した不満をぶつけていく。
「ちょっと、あんなの卑怯じゃないの!?
ヒロムは精霊を呼ばずに戦ってんのにあんな物騒なもの持ち出すなんておかしくない!?」
「アキナ、落ち着いて……」
「落ち着けないわよユリナ!!
ヒロムがピンチなのよ?それなのに落ち着けなんて無理があるわよ!!」
「アキナ、ユリナの言う通り落ち着け。
あれにはカラクリがある」
「カラクリ?」
「そうだろ、太刀神剣一?」
その通り、とガイが尋ねると離れたところで観戦していた太刀神剣一が答え、そして不満を爆発させるアキナや不思議に思ってるであろうユリナたちに向けてヒロムを攻撃したと思われる機械の人型の兵器が何なのかを明かしていく。
「あれはジャンル上は呪具として認識されているウェポンの《躯操石》と呼ばれる石を組み込まれた機械人形。あれを操る機動丸が持つ《躯操石》のベースが放つ電波にも似た魔力を傍受した子機とも言える石を組まれた機械人形がムーブしている。そしてあの人形は《空號式》、魔力を用いて生成したミサイルや弾丸を放って敵を殲滅することに特化した機械人形だ」
「違反じゃないの?」
「違反ではないな。あれはあくまで機動丸のウェポンとして登録されているからノープロブレムなんだ。呪具の一部としてカウントされるが故にウェポンの扱いを受けられる特殊な存在となっている」
「よく分かんないけど……要するに問題ないってことなのね」
「アンタのためにも答えてくれてるのに失礼なまとめ方ね……。
でも、その呪具っていうのは真助の妖刀やガイの霊刀とは何か違うの?」
太刀神剣一の説明を大胆なまでにざっくりとまとめるアキナに呆れながらもユキナは太刀神剣一に質問をし、ユキナの質問を受けた太刀神剣一はユキナの疑問をとも言える質問について分かりやすく解説していく。
「大きく分類するのならば呪具、霊刀、妖刀は魔力武器というグループに統一される。ただし霊刀は持ち手のパワーに左右されるピーキーさがあり、妖刀は持ち手に相応のリスクとリターンを求めて己を扱わせるというエフェクトがあるのだが、呪具にもそういったエフェクトがある。魔力をイートすることで爆発的な強さを持ち手に付与して命をウォレットさせるというエフェクトがな」
「それって……」
「パワーをゲットする点は霊刀、妖刀とは変わりないが呪具のそれはどちらと比較してもそのパワーが極端に強い。その理由が呪具が必要以上にパワーを宿す一方で持ち手になった人間のライフをスナッチして自らのパワーにチェンジさせているからなんだ」
「命を奪わせることで強さを持ち手に与える武器ってことなのね?」
「その通り。そして機動丸の呪具《躯操石》は持ち手のライフエナジーを糧に子機とも言える新しい石を生成して兵器人形を完成させるパワーがある。あの《空號式》はその一体であり、他にも数体使役できる人形が残されている」
「あの人形1つであの火力なのにそれに匹敵するかもしれないのがまだいるとはな……こりゃ驚かされたな」
「流石の天才も苦戦するかな?」
「いや、どうせアイツのことだから簡単に対処するに決まってる」
ユキナの質問に対する回答を太刀神剣一が口にする中、最終戦を観戦する真助とナギトは何故か他人事のように呑気に話していた。
そんな2人の反応が気になったタクトはナギトに問う。
「ナギト、気にならないのか?
今の太刀神さんの話を聞いて姫神ヒロムを心配しないのか?」
「心配?オレがする必要ないでしょ」
「は……?」
「オレが心配してどうなんのさ?
出会って弟子入りして《天獄》に正式加入してって色々あったけど天才と親しくなったのは1ヶ月にも満たない短い時間、その時間の中でオレはあの天才の底知れぬ強さを目の当たりにしてきた。これまでの事とかあんま知んないけど少なくとも姫神ヒロムという人間はオレみたいな半端者に心配されるような弱い能力者じゃない。だから心配なんてしない」
「つうかオマエ、わざわざ他人の心配しながら戦い見てんのか?退屈そうだな」
「んだと……!?」
「ナギトの昔の仲間かなんか知らねぇけど覚えとけよ。
下の者が上に立つ者を見る時は常に殺すことを頭に入れとけってな。ナギトもオレもヒロムはこの程度で負けないと理解した上で見てんだ。そして、そんなアイツを超えてオレたちが強いってことを示すために倒す相手としても見てる」
「仲間じゃないのか?」
だからだよ、と真助の言葉に戸惑うタクトに向けてガイは一言言うと続けて彼に伝えた。
「仲間だからこそオレたちはヒロムを信じてるしヒロムを倒すくらいの気持ちを胸に秘めてる。仲間だからただ馴れ合うのではなく共に精進して高め合うためのライバルとしてオレたちはアイツを目標として前に進み、アイツもオレたちに負けないように前を走り続けてる。これからも強くなるために、な」
「ライバル……」
「それに呪具の1つや2つで苦戦させられるのなら《センチネル・ガーディアン》の最強は務まらない。アイツが最強と呼ばれるのはそれに相応しい実力があるからだ」
迷いのないガイが放つ言葉を受けたタクトは一言も返すことが出来なくなってしまい、そして彼らが信じるヒロムがここからどうなるのかをその目で確かめようとフィールドの方へと目を向けるしかなかった。
******
爆炎がヒロムを飲み込んだ。
妖刀と呼べる武器を構える波瀬たちが構える中で現れた機械の人型の兵器・《空號式》は首を鳴らすと機械音を鳴らしながら言葉を発する。
『熱源反応の探知を開始……。
周囲の火炎の熱反応を削除しつつ探知を開始……』
「相変わらず機動丸の空號式の火力はすごいな」
「敵に回せば厄介だからな」
《空號式》がヒロムの反応を探ろうとする中で波瀬と風宮は魔力のミサイルの火力のその破壊力を感心しており、それに感心していると1人の青年が2体の機械の人型の兵器を引き連れて歩いてくる。
青い髪に右目は眼帯、両腕に包帯が巻かれたその青年が歩いてくると辻岡は会釈をした後彼に話しかける。
「機動丸、流石の仕事の速さだな」
「オレにかかればこんなもの容易い。《空號式》の火力は《海號式》や《陸號式》の数倍にも及ぶんだ。その火力を生身の人間が防げるはずもないし、防げたとしてもスピード面で高性能を誇る《海號式》とパワーとガード力を活かした肉弾戦を得意とする《陸號式》の追撃があるのだから逃げ場はない」
「今日は3機だけなのか?」
「下手に数を増やしても姫神ヒロムという未知数の戦力を前にして機能せずに終わることだけは避けたいからな。最低限の戦力の使用だけで終わらせたいところだ」
「なるほど。なら……」
「最低限の戦力で仕留められないならクソ戦力確定だな」
青年・機動丸の言葉に辻岡が何か言おうとすると爆炎の中から声がし、その声に波瀬たちが反応すると爆炎が烈風とともに吹き飛ばされて中より無傷のヒロムが姿を現す。
『対象の生存を確認……』
「見れば分かる、《空號式》。
それよりも……何故あの火力を耐えれた?」
「あの火力?ああ……通り雨でも降ったかと思ったようなあの攻撃のことか?あんなもんはオレには効かない」
「通り雨……とはナメられたものだ。
貴様には見えてるはずだ。辻岡たちの持つ妖刀などの特異武器とオレの《躯操石》が生み出す機動兵器という武器の数とオマエ故人の戦闘能力の差が歴然であることは……」
それが甘いんだよ、とヒロムは首を鳴らしながら機動丸の言葉に対して言い返すと殺気を放ちながら彼だけでなく他のものに向けて忠告した。
「オマエらが頑張って揃えたその道具は所詮飾り、どれだけ揃えても戦力の差は埋めれないと理解させてやる。それを理解したくないのなら……あと3分でオレを殺せ」




